3−3 浩
会社の医療棟から寮に戻ってこられたのは、お昼を少し過ぎた頃だ。
浩の傷は広範囲ではあったものの、肩以外は浅く、邪気を払い清めれば痛みは遠ざかった。
傷も1週間ほどで自然に塞がるだろう。
あとは失った血を取り戻せば日常生活には支障はない。
一緒に運び込まれた瀬越の背中の傷もさほど重くなく、二人揃って寮へ帰れと追い出された。雑な医師は休日出勤を好まない。子ども以外にはとても厳しい。腕は確かだが。
安代係長は昨夜、目を覚ましてそのまま帰宅したそうだ。
怪我はなく、強い邪気に晒されて精神力が尽きたらしい。
倒れていたところを保護されたと聞いている。
何事もなくてよかった、と思う反面、「これから」が怖い。
「まあ、死ななくてよかった」
瀬越が浩の顔をしみじみと見やる。
「そうだね、瀬越さんも無事でよかった…ありがとう」
瀬越はあの時、浩を逃してくれようと戦ってくれた。
背に傷を負い、それでも、逃げろと、見るだけでも怖気が走るアレに向かって拳を繰り出した。
「まあ、あれが今回の任務だったし」
瀬越が苦い顔になる。
「力不足で遂行できなかったけど」
「相手が悪かったよ。アレは怖かった。すごく、恐ろしかった」
「…喰われたのか?」
事情を知っている瀬越がそっと聞いてくる。
「血の味は知られた。抉られたけど、受肉はしなかったと思う」
「運がよかったのかな?そのまま喰われても不思議じゃなかっただろ」
「とりあえずは?ただ、対価がわからないから怖い」
「ああ、助けてもらったんだよな、女の子に」
「うん。強い守りの子だったよ。あとさ、できればアレは祓うんじゃなくて昇らせたい。こどもと赤ん坊だった」
「…そこまで見えたのか。大きさから子どもかな、と思ったけど。2体?」
「子どもと赤ん坊。それにくまのぬいぐるみ。」
「2体にぬいぐるみ…中に入ってたら厄介だよな。それ、浄化できるかなぁ」
瀬越の意見はもっともだ。子どもは言葉も通じず難しいのに、アレは浩の血を覚えた。
浄化なんて甘いことは行っていられないだろう。
それでも、願ってしまう。
浄化の、あの暖かな明るい光に包まれて安心して昇ってほしいと願ってしまう。
「さて、またなんか食って寝よ。ああ、食って寝るだけで三連休が終わってしまう予感」
「えと、当初の予定通りだよね?」
「うっせえわ、お前だって同じようなもんだろ!はっ!もしかして千鳥さんとの予定が」
「ないって。優美ちゃんは幼馴染。妹みたいなものだって。優美ちゃんが5歳のときから面倒見てんだよ?」
「といいつう、気心の知れた、施設同士でくっつく率がすごく高いじゃん」
「俺と優美ちゃんは違うよ。ほぼほぼ兄弟だし、さあ、瀬越さん部屋に戻ってくださいね。自分の部屋通り過ぎてるじゃないすか」
自室を通り過ぎてまでついてきた瀬越を追い払う。
怪我した後はなぜか人恋しくなるらしい瀬越は、渋々と自室に戻っていく。
部屋に入ると雑然とした自分の部屋に帰ってこれた安心感にひどく眠くなる。
「…寝よ、とその前に」
とりあえずシャワーを浴びたこの時の自分に後々感謝することになる。




