3ー2 龍
優美子が買い込んだたくさんの荷物を車に積み込んで、龍与は助手席に乗り込んだ。
「たまの買い物だからって甘くないか?個人のクレカまで渡して」
「お小遣いには多い金額渡していたあなたに言われたくないわ」
なんだかんだ言って亮平も優美子に甘い。
「俺が渡した軍資金だけで十分だったろ?クレカはやりすぎだ」
窓の外をみて、聞こえないふりで小言を受け流す。
だって仕方がないじゃない。あの子には不自由な思いをさせている。たまの買い物くらい、制限なく楽しませてあげたいわ。
漂う害意にあの子を晒したくなくて、一緒に買い物に行ってもゆっくりと楽しませてあげられない。一人で買い物をさせる勇気もない。閉ざされたあの場所にいてくれた方が安心してしまうのだ。
「優美子ももう成人してるんだ。寮から出ないのはあの子が選んでることだろうが。あいつが部屋から出られなかったのって力を制限できなかった思春期の頃の話だろう?龍与は神経質すぎる」
まったく、と亮平がため息をつく。
「いつまで十年も前のことひきづってんだか。優美子ももう部屋からも、あそこからも自由に出られるんだ。いつまでも過保護に囲ってんのはよくないだろ」
わかっている。でも、気持ちがついていかない。
「仕方がないな、”お母さん”は。いつまでも子離れできないと嫌がられるぞ」
今日だって、と亮平はぼやくように続ける。
「あのお嬢さんの守りに期待して託したんだろ?あのお嬢さんを利用しようとするな」
守りの強いあの子と一緒なら優美子も守ってもらえる。
そう考えてしまった。
「まあ龍与の気持ちはわからないわけではないけどな。優美子も、浩と同じくらい危ういしな」
浩と同じように優美子も守ってくれればと願ってしまったの。対価は私が払うから、と。
「でも、あのお嬢さんもなかなか難儀だよなぁ。あの子の背中、まるで神様に抱きしめられてるみたいだった。ガッチガチに守られて、あれじゃあ、彼氏もできないんじゃね?」
亮平が苦笑する。
あの子を背中の方がガチガチに守っているのはきっと私のせい。
その方が合理的だからと、酒が入ってほろ酔いのあの子に、私の声と浩の血まで使って誘導した。
私の声は、とても危険だから、あの子を守るものも警戒している。
「在野の、神代だったそうよ、あの子のひいおばあさま。しかも、最期の神代でいらしたんですって」
「おお、それ、神格化しててもおかしくないな。しかも神様のお気に入りっていうオチまでついてきそ」
亮平が笑う。
「何がおかしいのよ。がちがちに警戒されて、いつ敵意を向けられるかわからないじゃない」
「そういうお嬢さんを娘のために利用するお前も大概だけどな」
目をそらし続ける私の背を亮平が優しく叩いた。
「…運転に集中してよ」
「大丈夫だよ。大方、あのお嬢さんが名乗らないから不安なんだろ?大丈夫大丈夫。あのお嬢さんはちゃんと理解してるさ。昨日、お前がやったことの意味も。
名乗ってくれるようになるのも時間の問題だよ。まったく、龍与は心配しすぎ」
前を向いた私の目元をするりと掠める固い指の感触。
「眠かったら寝てもいいぞ。寝不足だとろくな考えにならないからな」
「…運転に集中してって」
「赤信号だぜ」
ちゃんと、寝たわ。寝たはずよ。
浩の治療が終わって、あの子が無事なことに安心して。でも、ベッドに入ってから浩を取り込んでしまったモノのことを考えてしまった。
味を覚えたアレらは浩を狙う。
どうやって守ればいい?
考えて、考えて、考えて。
明け方近くに少しは寝たはずだ。
「まったく。人を食いそうな外見してんのに、心配性で考えすぎて過保護がすぎる。
大丈夫だよ、龍与。
人たらしな優美子が今頃、あのお嬢さんをたらし込んでるから。
きっと迎えに行ったら雰囲気変わってるぞ。いい方向にな。
俺が言うんだから間違いない」
「また適当なこと言って。…亮平だって寝てないんじゃない?昨日の会議の後、久万里くんとなにか話してたんでしょ?」
面倒見のいいこの人は、久万里から相談という愚痴を聞かされていたと聞いた。
「俺は二日くらい寝なくても、まあなんとかなるさ。寝られないなら今夜は家に帰ってちゃんと寝ろ。俺もそっちに行くから」
「…うちに来るの?」
本当に寝かせる気はあるのだろうか。
「少し体を動かした方がよく眠れるだろ」
「…ばかじゃないの?」
ははは、と亮平が笑う。彼の笑い声が好きだ。私の声に惑わされない、強い人。
「大丈夫、大丈夫だよ、龍与」
彼が前を向いたまま私の頭を撫でる。根拠のない大丈夫も彼が言えば信じられる。
車はよく晴れた土曜日の午後に向かって走って行く。




