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思し召し  作者: 紀野 須
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5−2 第四課

どうしてもあのエリアのことが気に掛かる。


久万里は出勤することにした。


三連休中日。七、八年前ならば家族から非難轟轟だったろうが、今では、「忙しんだね、いってらー」と送り出される。

息子二人ももう大学生と高校生。親なんて見向きもしない。

親なんてそんなもんとは思うが少し寂しい。

妻も仕事で、一人、誰もいないリビングでゴロゴロしているよりいいだろう。


事務所に着くとすでに安代係長がパソコンの画面に向かっていた。


可愛い盛りの幼児のいる彼こそ連休中日にこんなところにいてはダメだろう。

「おはよう、安代係長。なにか忘れ物か?急ぎの仕事なら変わるぞ」

「おはようございます」

久万里を見たその目は据わっていた。少しだけ後ずさる。

「どうした」

「娘に」

安代は、くっと演技がかった仕草を見せた。

「最愛の娘にパパくさいと言われたんですよー」

わっと嘘泣きをする。

「あー」

久万里は何も言えない。

一昨日の、ベッタリ張り付いた死臭が未だこびりついているらしい。

「娘だけで妻は何にも感じないらしいんで、多分、呪いです」

安代は、ふかーくため息をついて椅子に背を預ける。久万里も嫌にこのエリアのことが気に掛かるので、多少なりとも呪いの影響を受けていそうだ。

「そうだなぁ。早く何とかしろってか。呪いの主は」

「あの子の背中の御仁でしょうかね」

「御神かもしれんな」


久万里は今保護している女性とは会っていない。しかし、その様子は聞いていた。

本人は、「()()()()」事に耐性も何もなさそうだが、背中には燦然とした柔らかい何かを背負っているらしい。


そんな彼女となぜ繋がったのか。

そして、伊調田が聞いた、「揃うまで待て」という言葉。


揃うとは何を指すのか。


御仁を背負う女性は、龍与に気に入られた。そして神がかった浄化をする千鳥をたらし込んだ。

囮としては最高な伊調田は彼女に恩義を感じている。

ここまではいい。


しかし、安代に呪いを掛けるほどに引き込む意味が読み取れない。

安代では弱い。

安代の結界も見事だが、彼女が先日張ったものとは比べ物にならない。引き込む意味がわからない。

純粋な祓いの能力が高い高良か…もしくは島崎部長?まさかな。


「と、いうわけで朝起き抜けに最愛の娘から、パパ臭い、怖いと泣かれた私が作った分布表をご覧ください」

と、安代は自分のパソコンをさし示した。パソコン画面を除くと、エリア内部に色とりどりのポイントが散布している。

「これは?」

()()の目撃情報と事件のおきた場所を日別で色を変えてポイントをおきました」

赤は初日。

「赤、青、黄、緑〜の順で日を分けています」


そして、昨日の色、黒はエリア区切りの線に密集している。

「わかりやすいな」

伊調田(エサ)を探して出ようとしてるのでしょうが、いつ七課の細工が破られるかわかりませんね」

最初の赤は、住宅の中にある小さな街区公園。

ポイントをクリックすると、「滑り台の上に黒い小さな人影」というコメントが出る。

次もそうだ。黒い影が滑り台の横にいた。赤は公園の周りに分布している。


「…行ったことがあるからでしょうね。うちの子も滑り台が好きです」

安代が何かを噛み締めるように言った。


そうだ。うちの息子たちも小さな、まだ体を上手に動かせなかった時は滑り台が大好きだった。どこの公園に連れて行っても、まずは滑り台。延々と滑って遊んでいた。

喜んで滑り降りる歓声をまだ覚えている。


子ども(アレ)も、それを覚えているのだろうか。

親が見守る安心感の中で歓声をあげる楽しさを覚えているのだろうか。


赤はその周辺だけ。青はもう少し足を伸ばして。黄色で初めて住宅街を抜ける。これが三週間前。人がいる方へ、いる方へ、足を伸ばしていく。色が変わるたび目撃情報が多くなる。


一週間前、繁華街に到達。そこで少し停滞し、それと呼応するように事件や事故が多くなっていた。

薄紫、住宅街、ひったくり。薄紫、住宅街、盗撮。灰、繁華街、暴行事件。灰色、繁華街、高層階より落下物。怪我人が出るのがこの頃だ。


繁華街に近づくに連れ、事件が起きている。怪我人も出ている。繁華街には人がいる。


「移動するにしたがって取り込んだのか」

「そうかもしれませんね」


二人で息を吐く。

これからやることは決まっている。

「じゃあ、行くか」

この分布図の通りなら、行く場所はここだ。

赤の点が多くある街区公園。この半径250M ほどのどこかに、ソレが執着するものがあるのだろう。

体か、記憶か。



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