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思し召し  作者: 紀野 須
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4−2 第四課

時間は少し遡る。


第四課の事務室には久万里と安代が出勤していた。本来なら今日は休日だが、昨夜の件があり休んではいられなくなった。


昨夜から、FEー5エリアで事故事件が増えているという報告が届いている。

乱闘騒ぎで負傷者多数。うち二人が救急搬送。

交通事故三件。死者こそ出なかったが重傷だという。

銃刀法違反で一名逮捕。刺身包丁を持ち出し、人を殺そうと考え歩いていたと証言しているという。


「見事に影響が出てますね」

「ああ、七課がアレが外に出ないように細工をしたと言っていたから、なおさら増えているんだろ。一応、二課が出ているが、浄化は追いつかないらしい」

「小春日課長が直々に出ているそうですね。あの人寝てるんですか?」

「第一課長が回収して行った、と聞いている」

「あの二人、早く結婚すればいいのに」


本当にその通りだ。長く小春日が逃げ回っているらしい。狭い業界だ。この手の話はみんな好きだ。ふだん、人の生き死にの話に関わっているからだろう。


「しかし、伊調田の体質の話は聞いていましたが、ここまでとは。うかうか外に出せませんね」

「外に出せとのお達しだ。島崎部長からのな。本人が望む限り、縛り付けるのはご法度だ。…暗くなるらしい」

未来視の七課長がいうのだ。良くないのだろう。

「難儀ですねぇ。しかし、参りましたね、課長」


安代が報告書に目を通して、柔和な顔にシワを寄せる。

「うちの一係では厳しいかも知れませんね」

「子どもだったな…気が重いな」

本音が溢れる。


昨夜の報告は三人からすでに受けている。


姿を確認できたのは、瀬越と伊調田の二人。安代は認識自体ができなかった。敵意がなかったせいではないかと安代は分析している。


瀬越には子ども…だいたい腰ほどの背の高さだったと。頭だけが異様に大きかったとの報告だった。


浩からはもっと詳細を聞けた。


子どもで、年齢はわからない。体長は二、三歳ほど、しかし言葉の理解は四歳ほどに感じたと言った。そこまでわかるのは施設で子どもと接する機会が多かったか。


痩せ細った骨と皮だけの体で、左肩に、目も開いていない赤ん坊の顔だけが埋め込まれていた。右腕は、抱いているであろうクマのぬいぐるみと一体化していて、腕は黒い体毛に覆われて、鋭い爪がついていたと。


瀬越と浩の怪我はその爪でやられた。


子どもは痩せ細っているが、頭が異様に大きく、さらに腹部が膨れていた。その様相は餓鬼のようだったと。


「子どもか。厄介だな。幼ければ幼いほど善悪の区別がつかないし、力の加減も知らない」

「しかし、瀬越の腰くらいの身長って、2、3才くらいですよね。うちの娘と同じくらいじゃないですか。うわー、やだな」

「娘放って出勤してよかったのか」

「パパ、臭いって言われたんですよ…」


昨日、安代にこびりついていた死臭は会社の風呂では落としきれなかったらしい。負けるな、という慰めの気持ちを込めて肩を叩く。


「祓うのはキツイですね」


安代の切実な言葉に、久万里は同意する。


祓えば消えてなくなる。ただ、消えてなくなってしまう。それはあまりにも哀れだ。


楽しいも嬉しいも、知らないまま、忘れたまま。悲しみと怒りを持ったまま消えるのは悲しすぎる。


できれば浄化してやりたい。暖かな浄化の光に包まれて、幸せを知って、思い出して、七色の環に入ってほしい。


何度も見た浄化の光は、心を揺すぶられるほど美しく、明るく、暖かい。


「でも、子どもは難しいですねぇ」


それは久万里たちの力不足も要因のひとつだ。


力が強ければ、周りに害を与えずに、力づくでも浄化に持っていける。


相手の力が強ければ、浄化の光も及ばない。相手の闇が深ければ浄化の光を拒絶する。


「千鳥が出れば浄化は可能でしょうがねぇ。小春日課長がそれを許すかどうか。それに、万が一、千鳥が出たとしても、そこに持っていくまでに、第四課(うち)は全滅ですね」

「そうだな。浄化ありきでは難しいな。祓いなら、うちの人員でどうにかできるが」

「しかも、アレは伊調田を身に取り込んでる。」


伊調田は、アレらには極上の餌に見えるらしい。伊調田の血肉は、「魔」を魅了し、力を増幅させる作用をもつ。


伊調田自身も強い力を持っている。狐狸や呪であれば一人で対処できるくらいには。


幼い頃から、身を守るために高良に鍛えられたと聞いている。多分、戦闘力は瀬越よりも上だろう。一課の一係でも敵わないかも知れない。


しかし、その体質のせいで危険と見なされ、前線には出ない調査員を命じられている。入社当初は、前線部隊の第一課を希望していたらしいが、今では本人も納得の上、デスクワーク中心の調査員になっている。


「しかし、あのエリアは早々になんとかしないと死人が出るな。火曜の夜にでも出張るか」

「そうですね、三連休明けなら人も少ないだろうし。…本体も見つけてあげたいですね」

「ああ、できれば体だけでも空に還してあげたいな」


せめてそれくらいは。



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