魔王のお家
「ギャアギャア言うな。もうついたぞ」
私が目を開けるともう地面にたっていた。
「黒木さん、俺の家って言ってました?ここってもしかして」
「魔界だ」
やっぱり。
「じゃあ家って」
「あの目の前にある城だ」
目の前には聖女が魔王討伐で来た時に出てきた、真っ黒な城がある。
黒木さんは私の手を取って、ズンズン歩いて行く。
お城の入り口には、いかにもな感じの鎧を被った巨人が2人たっている。ちょっと怖いなと思ったが。
「魔王様おかえりなさい。あれ、何にかわいい子連れて。いくら出会いがないからって、誘拐はダメですよ」
「魔王様、女の子には優しくしないと。早く2人になりたいからって、女の子はそんなに速く歩けませんよ」
おふたりとも随分的確なアドバイスだな。私がお邪魔しますと挨拶をすると、
「あらー礼儀正しくて可愛らしい」って褒めてくれた。
そのまま真っ直ぐ行くと、いかにも魔王が居そうな広間があった。
真ん中にトゲトゲの椅子もあるし。
私は無言で黒木さんを見る。ちょっと頬を赤らめて「先代の趣味なんだ」と呟いた。
「まあ、魔王も形から入る必要ありますし」
「それ、フォローになってないぞ」
そこを通り過ぎて、奥の通路を行くと。明るい空間があって、緑とかも生えてる。上を見るとぽっかり穴が開いていて、そこに少し遠いが空が見える。
その真ん中にこじんまりした一軒家がたっていた。
「これってもしかして?」
「俺の家だ」
「城の中に家とか、想像してませんでした」
「ここは辛気臭い場所だらけで、太陽に光もないしビタミンD不足になりそうだから、魔界の天井に穴を開けたんだ。緑もあるから犬も飼えるだろ」
魔王もビタミンD不足の心配をするんだな。光とか苦手と思ってた。
「犬って顔が3つのケルベロスみたいな奴ですか?」
「違う、俺はコーギーがいいんだ」
「あ、私も好きですよ、コーギー。お尻がいいですよね」
私と黒木さんは動物のお尻の話で盛り上がっていたが、ハッと気がついた。
「あの、今何時ですかね?明日休みだけど、終電前に帰りたいんです」
「送ってってやるから、飯食ってけよ」
黒木さんの家のキッチンはそこそこ大きく、調理器具もいっぱいある。
「料理するんですか?魔王様だし、シェフとかいそうだけど」
「いるけどよ、魔界ってのはいろんな奴がいるから、味の好みが合わないんだよ。吸血鬼がシェフの時は色々やばかった。だからいつも地上で買い物してここで作ってくるか、忙しい時はコンビニ弁当だ」
「リドリス国の食事は?」
「悪くないけど、俺は和食派なんだ」と冷蔵庫の中をチェックしながら黒木さんが言う。
「今日は生姜焼きにしようと思って、材料買ってあるんだが、好きか?」
「すごく好きです。お手伝いします」
キッチンは広く。2人で作業しても余裕のある大きさだった。うちだったらぶつかっちゃうな。
「このキッチンは広くていいですね」
「そうだろう?俺は料理好きだから、2人で一緒に作ってもぶつからない大きさにこだわったんだ」
「でも貴族の子が来たら、きっとお料理した事ないでしょうね。あ、転生者なら大丈夫かな」
「食の趣味があって、一緒に好きな事をできるって重要なポイントだと思うんだよ」
出来上がった生姜焼きと私が作ったサラダ、炊き立てのご飯をテーブルに並べて。
「「いただきます!」」
「うわーーお肉柔らかい!こんな美味しい生姜焼き、家でも作れるんですね。こんなご飯が毎日食べられたら最高だな」
「いつでも嫁に来てくれていいだぞ、アヤなら」
「ふふふ、もっと美味しいご飯を作ってくれるなら考えておきます」
「言ったな、約束だぞ。アヤがびっくりするようなの作ってやる」
「楽しみにしてますね」
ご飯の後は2人で皿洗いをして、食後のお茶をした。
あ、いい機会だから黒木さんのタイプでも聞いておくか。
「黒木さんの順番は最後ですけど、折角だから。理想の結婚相手&生活について聞いていいですか?」
「え?今やるのか?まあいいけど」
「まず、好きなタイプとかありますか?年上、年下、身長とか」
「まあ、俺の場合は人間ならほぼみんな年下だな」
「へへ、そうですね。顔とか体型は?」
「それもあまり気にしないな。長く一緒にいるんだから、性格が合う方が良い」
「そうですね、一緒にいる期間が桁違いに長いですものね」
「だから、一緒にいても自然に過ごせる人が理想だな。ほら、沈黙も楽しめるってタイプ」
「あ、いいですね。たまにいますよね。静かなのが嫌だって、無理に話すタイプ」
「お子さんは考えてます?て言うか人間と子供って作れるんですか?」
「試した事ないから、わかんないけどできるんじゃね?リリーは人間と結婚して子供いるぞ」
「え!リリーさん。ご結婚されてるんですか?しかも子持ち!」
「なんか、侍女として働いている時に、王妃の甥にみそめられて、断れなかったらしいぞ。女神が人間と子供作れるなら、魔王だっていけるだろう。アヤはないのか?結婚願望」
「ない事はないですが。まだ早いかなと思ってて、仕事もちょうど面白くなってきた所ですし。今回の仕事がひと段落したら、考えようかなと」
「そうか、早く皆んなに良い相手が見つかると良いな。そしたら俺も休暇に行ける」
話が終わると、黒木さんは約束通り私を家まで送ってくれた。真っ黒なバイクで。
「バイク乗れるんですね」
「免許を必死になって取ったんだよ。車は魔界へのドアを通れないし、首なし馬とかでコンビニいけないだろう?」
それはダメだな。
あっという間に私のアパートに着き、黒木さんは私が部屋に入るまで帰らずに待ってくれていた。
家に入ってからも、黒木さんのバイクの音が聞こえなくなるまで玄関にいた。
あまりにも楽しい時間だったので、1人になると少し寂しい。
「黒木さんはお客さんなんだからね。良い人見つけてあげなきゃ」と自分に言ってみたが、何だかモヤモヤしてしまった。
次からやっと学園での話が始まります。
ストックが後5話ぐらいなので、もう少し次の話を進めてから投稿します。




