侍女トレーニング
クローゼットを出ると、そこは誰かの部屋だった。
「ここはリリーの王宮の仮眠室なのよ。家は別にあるんだけどね。さて、リリーを探しに行きましょう。この時間なら侍女頭室かな?」
「リリーさんは妹さんなんですよね、女神様なんですか?」
「清浄の女神。だから掃除とか大好きなのよ。これは天職だって張り切ってここで働いてたら、侍女頭になっちゃって」
天職って女神の仕事じゃないんだ。
数分歩いていると、廊下の突き当たりに侍女頭のオフィスはあった。ノックをして入ると、マリアさんに似た女性がいた。
「マリアお姉様、お久しぶりです。そちらが例の方ですか?」
「ええ、アヤちゃんよ。アヤちゃん、こちらが私の妹でこの王宮の侍女頭のリリー」
「初めまして、リリーさん。私は石井アヤです。宜しくお願いします」
「挨拶は声が通っていいわね、姿勢もいいし。名前はこちらではアンナ•クラークと名乗りなさい。後これを」
リリーさんはネックレスを私の首にかけ、制服の中に入れるように言った。
「認識阻害ネックレスです。今のままだと異国人に見えるので、ちょっと変えさせて頂きました」
何を変えたんだろうと私が横にある鏡を見ると。そこにはライトブラウンの髪と目をした私がいた。
お、なかなか可愛くていい。
「そのネックレスは私とお姉様への通信にも使えますので、肌身離さず持っていてくださいね。では明日の朝9時にここに来てください。トレーニングの内容は明日説明します」
「分かりました。宜しくお願いします」
ここまでの道のりも覚えなきゃ。
私とマリアさんはまた着替えて、会社に帰ってきた。企画課にも寄ったが、黒木さんは仕事の後に魔王の仕事があると、牛尾さんと八木さんに拘束されていたので、邪魔しないようにそのまま家に帰った。
明日からトレーニングか、緊張するけど楽しみだな。
次の日からは企画課には寄らずに、そのまま地下から王宮のリリーさんの所に行った。
リリーさんの所では、姿勢、言葉遣いから始まりお茶の入れ方まで色々教わったが、流石に1ヶ月では無理があるので、有名な貴族の家族構成については私にしか見えないタブレットのような物を貰い、検索できるようにしてくれた。チート万歳。
「今日はお化粧の手伝いの練習をしましょうか。パーティーの時に必要ですからね。こちらの化粧品は日本のコスメより質がやや落ちるのでちょっとしたコツが必要なんです」
「リリーさんは日本でも暮らした事があるんですか?」
「いえ、お姉様の所に遊びに行った時に100円ショップとかに行きまして。凄く盛り上がってしまいました」
女神が2人が100円ショップでお買い物。なかなかシュールだ。
「特にお掃除道具とかこちらに持って帰りたいものばかりで」
「マリアさんは、リリーさんはお掃除が好きでここで働き始めたと言ってましたが、何で侍女頭になってるんですか?」
「私もメイド頭を目指していたのですが、下手な身分では雇って貰えないかもしれないと、ちょっと高めの身分を用意したら、メイドにしておくのは勿体ないと侍女にされてしまいまして」
「身分って用意できるんですね」
「まあ私とお姉様ならそれぐらいは。ちなみにアヤさんはクラーク子爵家のご息女になっています。悪役令嬢のレイチェル様は公爵家出身なので、それぐらいないと侍女になれませんので」
そんなふうに毎日リリーさんのトレーニングを受けていった。
毎日忙しくて、気がついたら2週間たっていた。騎士団長さんの動向をチェックするなんてそんな時間はない。
リリーさんは厳しいが意地悪な訳ではない。上手くできた時は凄く褒めてくれる。
「カーティシーの仕方もとても良くなってきましたよ。転生者はこちらの体の記憶もありますから、その人がちゃんと教養を受けていたら、この国での行儀作法には問題ないでしょうが、貴方は1からですものね。お姉様ももう少し余裕を持ってトレーニング期間を設けてくださればいいのに」
今日もお茶会の役目、立ち回り方でずっと立ちっぱなしだったので、会社に戻ってきた時はもうフラフラだった。
明日はお休みだし、家に帰ってゆっくりお風呂に入ってなんて考えて、地下の廊下を歩いてたら、ポフっと誰かにぶつかった。
「申し訳ありません!!」
「本当だよ、俺の事放置しやがって」
え??と顔を上げたら、美しい笑顔だが目が笑ってない黒木さんがいた。
「黒木さん、お久しぶりです」
「何がお久しぶりだ、お前ちょっと来い」
とまた倉庫に逆戻りだ。
「黒木さん、どこ行くんですか?もう今日は足がガクガクで、家に帰ってゆっくりしたいんです」
「大丈夫だ、俺の家でゆっくりすればいい」
黒木さんは私を抱き抱えると、黒のドアを開けて空中に飛び出した。
「ぎゃーーまたこれーーー」
黒木さんは魔王なのでやや強引なところがあります。根は優しいんですけどね。




