悪役令嬢としてー マリの場合 その1
目が覚めると私は見知らぬ部屋で寝ていた。ここは何処?と思った瞬間に私の頭の中に、公爵令嬢レイチェルの記憶が入ってきた。
家族みんなが仲良かった時の事
私の魔法があまりに微弱でがっかりするお父様の顔
アヤさんが話してくれたお弁当事件の後のカール様とのやり取り
「うわーーーレイチェル、何でカール様とのランチを断るのよ。このツンデレ!」
とベットでバタバタしていると、ドアがノックされた。
「お嬢様、お目覚めでしょうか?」
ドアを開けて入ってきたのは、白薔薇学園の制服を着たアヤさん、いや私の侍女のアンナだ。
「アヤさん?アンナ?」
「こちらでは、アンナですよ。初日は記憶が交差して少し混乱するらしいので、今日は学校お休みしますか?」
「今日は何曜日?」
「えっと月曜日です」
「だったら、今日はカール様がリヒト様に剣術を指導する日ね。絶対行くわ。生カール様を拝みに行きたい」
「本当に拝んじゃダメですよ。指導日スケジュールの把握もバッチリなんですね。さあ、着替えましょうか」とアンナが服を持ってきてくれる。
私達は着替えた後、朝食を済ませてからキッチンを借りて、カール様の為のお弁当を作った。渡せるかわからないけど。一応まだ王太子の婚約者であるので迂闊な行動はできない。
前回のメグさんに奪われたお弁当は寮のシェフが作ったものを詰め合わせただけみたいだが、今回は私が1から心を込めて作った。タコさんウインナーはカール様にウケるかしら?
お弁当を持って寮から校舎まで歩いていく。私はゲームで見た風景の中を自分が実際に歩いているのに感動してついキョロキョロしてしまった。
「分かりますよ、私もそうでした。ほらオープニングで出てくる学校の正門ですよ」とアンナがいう。
「うわー写真撮りたい」
「私は携帯を持ってるので撮れますけど、今は目立つのでダメですね。今度こっそり撮りましょうね」
まだ授業まで時間があったので、私達は荷物をロッカーに入れて、学校の中を歩き回った。
アンナ曰く、今は卒業パーティーから1ヶ月前。卒業パーティーでカール様に助けて貰うには親密度を上げる事とあのイベントをこなさなければ。幸いまだ時間はある。
そろそろ午前の授業が始まる時間だ、今日はルーク先生の魔法実習の最終試験日だ。これは魔法がほぼ使えなかったレイチェルの苦手な授業だったが今日は違う。何てったってチート能力がある!
私達が実習を行う演習場につくと、反対側ではリヒト様とカール様が剣術の練習を行っているのが見えた。
生カール様だ!と私はつい2人を凝視してしまう。
「レイチェル様、涎垂らしそうです。お気をつけください」とアンナに小声で言われる。
「生カール様やばいわね。あんなに大きかったんだ、うわーー筋肉触りたい」
「だからお嬢様。。。」
「あーーーら、こんなんところに落ちこぼれがいるわ。貴方、もうこのクラスにはこないと思ってたのに、今日は攻撃魔法の試験よ。貴方は何が出来るのかしらね。それともリヒト様の姿が見たくて来ただけ?」と言う声がしたので、振り向いたら聖女メグさんがいた。
「あら、その横の子は初めて見るけど。こんなキャラいたかしら?」
キャラとか言っちゃってるが、大丈夫かしらね。
「アンナは私の侍女です。今日は練習してきたのでご心配なく」
「あらーーだったら、私とペアでも組みましょうか。練習の成果が見たいわ」
聖女は癒しや浄化魔法は得意だが、攻撃魔法はそこまでではないはずだけど。何でこんな自信満々なのだろう。私よりマシだと思っているからかな?
「ルーク先生、今日は私はレイチェルさんと模擬戦をしたいと思います」とメグが言うと、みんながザワっとした。そして私達の周りの人が集まってきた。
カール様とリヒト様もこちらを見ている。
「今日は大切な試験日ですし、君とレイチェルさんでは差がありすぎるから、他の人と組んだ方がいいでしょう」とルーク先生が言っても、
「レイチェルさんがどうしてもと言うので、私は嫌なんですが」と抜け抜けと言う。いつ、私がどうしてもと言った?
「あら、メグさんから頼まれたからオッケーしたんですが、嫌なら私は別に貴方とじゃなくてもいいですよ」と私が言うと。
メグさんは私の事を睨んで「何かいつもと違うわね」とぶつぶつ言っている。
攻撃魔法は、実際に当たってしまうと危ないので、攻撃を受ける側は防護魔法のついたガラスの後ろに、攻撃をかける方はガラスの前に立ち、相手がガラスの後ろにいる事を確認してから魔法を発動させる。
ルーク先生は自分がOKを出すまで攻撃をしないと言う事を条件に、私と聖女様の模擬戦の許可を出した。
「模擬戦と言う形をとっているが、相手に当てようとせずに正確に魔法を発動させる事が試験をパスするポイントになる、では始め!」
初めはメグさんからだ。
どうやら、火魔法を使うみたいだ。
ルーク先生が私がガラスの後ろにいる事を確認して、メグさんに合図した。
「ファイヤーボール!!」と言ったメグさんのの手から出てきたファイヤーボールは私の方に向かってきたが、そこまでの勢いはなく壁に当たるとポンと消えた。
「メグさん、よくできました。ではレイチェルさん」ルーク先生、メグさんを褒める言葉が棒読みですけど。
メグさんは自慢げに私の方を見て、
「私はガラスの後ろに隠れる必要あるかしらねえ」と言っている。
「普通に危ないのでちゃんとガラスの後ろに立ってくださいね」と私が言っても笑うばかりだ。
「メグさん、あなたがガラスの後ろに行かない限り、レイチェルさんに魔法の発動はさせません。その場合レイチェルさんは試験にパスしますが、あなたは落第とします」とルーク先生が言うとメグさんは渋々、ガラスの後ろに移動した。
私はマリアさんに教わった通りに氷のイメージをしながら詠唱する。
「アイスシャワー!!」
すると紹介所の事務所でだしたのとは桁違いの氷の粒が降り注ぎ、メグさんの防御ガラスに当たって跳ね返った氷はその周りの地面を全て凍らせた。
演習場は水を打ったように静かになった。
メグは信じられないと言う顔をしていたが。「こんなの何かの間違いよ」と防護ガラスの後ろから飛び出てきて、氷の上で盛大に転んだ。
私は慌ててメグを助けようとするが私も氷の上では走れない。でもリヒト様とカール様もこちらに走ってくるが見えた。
そしてルーク先生が、転んだメグさんのじこっそり笑っているのが見えて、ついそちらに気を取られてた。
その時「よくも恥をかかせてくれたわね、ファイヤーボール!」とメグが叫ぶのが聞こえた。
え?私に向かってファイヤーボールを?
あんなのに当たったら洒落にならない。逃げなきゃ、でも足がすくんで動けない。
「レイチェル様!!」とアンナの叫び声が聞こえる。
当たる!と思った瞬間に誰かにぐいっと横に引っ張られた。熱風が顔の横を掠め、今度は暖かいものに包まれている。
「大丈夫か?」と頭の上から低い声が聞こえる。
見上げるとカール様が私を抱きしめていた。
鼻血を出さなかった私を褒めて欲しい。服越しに感じる筋肉が凄いなと思いつつ、私はそのまま気を失ってしまった。




