CASE 01:シオハラ ナギサ
高層ビルの最上階、ガラス張りの先にある街並みを見下げる。あちこちで街灯や家の灯りがチカチカと光り輝いている。奥には電車が走って行く様子が見える。
広いリビングには110インチのテレビと黒い革のソファ、ダイニングキッチン。
棚から、コップを一つ取り出して、蛇口を上げる。透明なコップの中に水道水がゆらゆらと揺れる。それを目線の高さに上げて、ジッと見つめる。特に変わった様子はない…中の水を一気に飲み干す。コップを机に叩きつけるように置くと、喉に手で触れた。
『…(おかしい)』
その日は水分を取れば、取るほど…喉の渇きが増しているような気がした。
先月と比べ、未だ感染者は増加しており──
テレビから、ニュースキャスターの女の声が部屋に響く。また、このニュースか…
この正義に塗れた世界に突如、現れた謎のウイルス。
"犯罪ウイルス"
それはあっという間に世界に広がり、今では誰もがこの秩序が崩れることに怯えている。ウイルスに侵されれば、その者がたとえどれだけの善人であろうと犯罪に手を染めるとされている。
ウイルス、そう世間から言われているが実際のところ…本当にそれが発見されたわけではなく、ある一人の専門家の比喩から始まったのがそれにウイルスと付くようになった理由だ。
そんなまだ、不確かな状態でも世間は一度そうと認識してしまえば、そこから認識を変えることは殆ど無いものだ。沢山の専門家がこの現象について、多くの考察を述べるが…どれも病や症候群などばかりで見映えしなくてつまらない。ただ、一つだけ。ずっと疑問に思っていることがある。ウイルスや病で、犯罪に手を出す…そんなこと果たして有り得るのか?そう考えても、専門家ではない自分に答えなど分かるはずも無かった。
『僕はならない。』
そんな犯罪ウイルスなんて、得体の知れないものにやられるわけには行かない。なっては行けないんだ。もし、自分がなってしまったらと思うと…母さんがどんな顔をするか。
それを想像して、身震いした。寒気がして、冷汗をかく。全身の震えが止まらない。深呼吸をしてから、俺は寝室へ向かった。
初期症状はくしゃみや喉の痛みなどの軽い症状が多く、気付かれにくいのが問題となっています──
人が居なくなったリビングにはそう、ニュースキャスターの声が響いた後にテレビの画面は黒く染まった。




