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6話 募る不安


「エリ……獄谷さん、あの、USB……すみませんでした」


「……」


 長く続いた会議が終わり、一礼した頭を上げた勢いそのままのスピードで、エリ先輩に謝罪をした。先輩は私に目もくれず、黙って資料を整理している。鼓動が早くなっていく。怒鳴ってくれた方がまだいいと思った。


「とりあえずお部屋の片付け……してきますね。すみません」


 若手が率先してプロジェクターの片付けや台ふきを用意しているのに、私が何もしないわけにもいかない。先輩が何の反応もくれないため、後片付けをしに行った。この後はまた先輩と会社に戻って、今日のまとめをする予定だ。後で改めて、しっかり怒られよう。


 一通りイスを元の位置に戻して、使用前の美しい会議室に戻ったことを確認して部屋を後にした。待っているだろうと思っていたエリ先輩が、見当たらない。


 お手洗いかな?辺りを少しウロウロしてみても、一向に出てくる気配がない。


「まさか……一人で先にオフィス帰っちゃった?」


 こんなことは初めてだ。イライラしたときはわりとストレートに言葉にする人だから、それがこたえるがありがたくもあった。彼が不機嫌な態度で私に当たってくるなんて。


 電話も繋がらない。あんまりだ。


「芦尾っち、メモ取りご苦労さんでした」


 振り返ると、会議前に助けを求めた私を他人事のように突き放してくれた楠本さんがいた。


「楠本さん、発表お疲れ様でした。今期は調子良かったみたいですね」


「おうよ。にしてもあいつ、今日は見どころたっぷりだったな。エリちゃんにしては珍しいというか、あれだけ偉そうにしてたヤツが人前でやらかすの、ちょっとスカッとしたろ?」


 天罰が下ったんだな、と豪快に笑う楠本さんに、私は笑顔を見せた。

 

「ありがとうございます。でも、エリ先輩は今日も完璧でしたよ」


「へ?ああ、そう……ところでその先輩は?」


「私、置いてかれたみたいです。参考資料のアレ、私のミスなんで。怒って行っちゃったのかも」


「おおっ、じゃあ自由の身ってことだな。ミスなんて気にするな。今から何人かで飲みに行くけど、芦尾っちもどう?」


「私ですか?あー……いえ、また今度ぜひお願いします。今日は会社戻らないといけないんで」


 楠本さんは私が断っても気を悪くした素振りをせず、からっと笑って軽く頭を下げてくれた。


「そうか。せっかくのチャンスなのに、真面目だな。あんまり気負うなよ。じゃ」

「ええ」


 彼はきっと、所内でも慕われているに違いない。楠本さんについていって、私も打ち上げを楽しみたい。



 でも、私は戻る。エリ先輩に、怒ってもらうために。





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