表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
45/48

45話 最後の挨拶

 黄色や赤に染まった紅葉の滑り台に、影が広がっていく。


「ゆっくりできる時間もあっという間だな」


 エリ先輩の言葉に、私は頷いた。明日の朝には、この社員旅行も終わりだ。バスに数時間揺られる程度の距離だけど、日常から切り離された時間はまるで、異国の地にでも来たようだった。


「先輩はここでも結局、仕事仕事、でしたけどね」


 くすっと笑うと、先輩の口角もつられるように少しだけ上がった。


「悪かったな、連れまわして」


「いえ、楽しかったです」


 口にしてから、自覚する。


 ああ、私は、楽しかったんだ。


 今日だけじゃない。これまでの営業同行の日々が。厳しい先輩の背中を追いかけた、毎日が。


「異動先は、いつ分かるんだ?」


「所長は、旅行が終わった頃には決まるって言ってました」


「そうか。場所によっては引っ越しも必要だろ?早く言って欲しいな」


「ですね。一応、お部屋は整理を始めています。はぁ、どこの営業所になるんでしょう。不安です」


 関東圏内とはいえ、営業所は5つくらいある。これからの事を考えると、胃が重い。

 

「……まぁ、全問正解したんだ。どこに行っても、お前ならうまくやれるさ」


 夕焼けに染まっていた街が、少しずつ暗くなっていく。


「エリ先輩」


「なんだ」


「短い間でしたが、お世話になりました」


 頭を下げるべきなんだろうけど、私は先輩の目を見ることができなくて、景色を眺める姿勢そのままで言った。


「……まったくだ。せっかく苦労して育てたのに、戦力になる前にいなくなるとはな……」


「私、寂しいです」


「……お前が言うなよ」


「そうでした。私が先輩の悪口思いっきり書いちゃったから、こんなことになったんでした」


 あははと笑い飛ばすと、先輩は私を蔑んだ目で見下ろした。


「異動先の社員が心配だ」


「大丈夫ですって。エリ先輩ほどうるさ……手厳しい方はいないらしいですから」


「鬼で悪かったな」


「嘘です。先輩は私の、尊敬する上司です。あんなこと書かなきゃよかった……」


 喉がぐっと詰まる。でも、私がここで涙を流すなんて間違っている。だから、唇を強く噛んで、こらえた。


「……芦尾」


「はい……あ」


 ふいにスマートフォンが鳴る。見ると、楠本さんからのメッセージだった。


「急ぎか?」


「……楠本さんからです」


「楠本……」

 

 エリ先輩の声色が変わる。


「はい。あ、もうすぐ飲み会の時間なのに、集合場所に私がいないから連絡くださったんだ」


 飲み会のことなんて、すっかり忘れていた。


 忘れていたかった。


「行くのか?」


「行くって昨日、言ってしまったので……先輩は?先輩も行きましょうよ」


「……」

 

 地図アプリを開いて、現在地を確認する。駅には、15分ほど歩けば着きそうだ。上って来た階段の方へ、重い一歩を踏み出した。


「先輩とお話できてよかったです。素敵な場所も教えてくださって、ありがとうござい……」


「行くな」


 

 背中から、声がかかる。その切羽詰まったような声に、私の時間は止まった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ↓作者へ絵文字で感想が送れます↓
匿名での感想も!
♡絵文字で感想を送る♡

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ