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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
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44話 地図を閉じたら


「ごちそうさまでした!」


「ちっ。本当に全部当てるとはな。そんなに金を出すのが嫌か」


 扉を閉めると、カランと音が鳴る。にこやかにお礼を言う私に、先輩はぼやいた。


「いえ、これは私のプライドの問題です。先輩に認めていただかないといけませんから」


私はエリ先輩の出す商品名テストに全力で取り組んだ。容赦なく難問を出してくるものだから、答えに詰まった時は冷や汗が流れた。スイーツを楽しむ余裕などなく、全て終わるころにはキャラメルコーヒーの氷は溶け、半分に残ったシフォンケーキもしぼみ、元気をなくしていた。そうしてなんとか、全問正解を叩き出すことができたのだった。


怖かった。私が天井を見上げた時の彼の目は鋭く、久しぶりに鬼に見え、愚痴を書き連ねたあの社員満足度調査シートに加筆したくなった。


 だけど、私は嬉しかった。ずっと私の異動という現実から目を背けているように見えていた先輩が、やっと向き合ってくれた気がしたから。


 すっかり長居してしまった。このあとは、どうするのだろうか。ちらっと見上げると、エリ先輩は腕の時計を確認して言った。


「どこか行きたいところはあるか」


「え?営業先の目星をつけるんじゃないんですか?」


 先輩は立ち止まり、無感情な瞳で私を見つめた。


「ああ……そうだったな」


 また地図を取り出し、しばらく眺め──折りたたむ。傾き始めた太陽に目を細め、静かに言った。


「いや、疲れた。俺の行きたいところに行ってもいいか」


 ポケットに手を突っ込みながら私を見る彼は、力が抜けたような顔をしている。


「……もちろんです」


 私は、先輩の後ろを黙ってついていった。




***




 やたらと細く、長い階段を上る。両脇は草が生い茂っていて、手すりもない。こんな山道みたいな場所を歩くことは想定していなかったから、長いスカートの裾が煩わしくてつまんで持ち上げるしかなかった。

 

 ひいひい言いながらたどり着いたところは、小さな神社だった。地元の人しか知らないような、静かな場所。お守りを売っている社務所もない。


「お参りに来たかったのですか?」


「いや、違う」


 尋ねたけれど、先輩は鳥居をくぐらず、脇にある細い小道へと歩みを進めた。時折スマートフォンを確認しながら数分間、緩やかな坂になっている砂利道を無言で歩いていった。


 やがて、少し開けた場所に出る。そこは一見すると生い茂る雑草に囲まれた小さな空き地に見えた。しかしよく見ると柵があり、さらに雑草の一部分だけが、まるでその先をのぞき込めと言わんばかりに綺麗に刈り取られていた。


「ここだ」


 先輩に促され、柵に手をかけると────私の目に飛び込んで来たのは、絶景だった。


「わぁ、すご……」


 山道の斜面に生えている紅葉が色づいていて、ここからだとよく見える。ふもとには街が広がり、観光名所やお土産通りが秋の空に映えていた。


「穴場だって書いてあったから、見に来たかった」


先輩は私の隣に立った。


「そうなんですね……」


 そのまま会話が続かなくなり、私たちはしばらく黙って景色を見続けた。







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