表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
43/48

43話 シフォンケーキは甘いのに

「少し休んでいくか」


「?」


 先輩が見ている方向にあったのは、一見すると普通の古民家だった。しかし、玄関先に看板が立てかけてある。チョークで丁寧な字で『本日のケーキ』と、メニューがいくつか書き記されていた。


 先輩は迷いなく、重そうな引き戸を滑らせた。私も慌てて後に続き、中へ入る。


 そこは、昔ながらの喫茶店だった。お客さんは少ないけど、革張りのソファーや木のテーブルにはあたたかみがあり、ひと目で居心地の良さを感じさせる雰囲気をしている。

 

 物腰の柔らかい老婦人に案内され、2人で席についた。


「あの、どうして……」


「ここのキャラメルコーヒーが美味いらしい。ケーキも頼むか?」


「えっ、あっ、はい」


 先輩は私の質問を最後まで聞かず、メニューを差し出した。すぐに店員さんが来たため、私は流され、メニュー表の一番上に印字されている文字だけのシフォンケーキを頼む。


「どこにいたんだ?俺が電話をするまでは」


「はい。あの……里中さんと一緒に向こうの通りを歩いていました。見たいところがあるって言ってたので」


 先輩のブラックコーヒーが、上品な花柄のカップに入れられて運ばれてくる。それをカチャリと持ち上げ、静かに口元に運んだ。


「そうか。悪いことをしたな」


「いえ、私は平気です」


「お前じゃない。里中さんにだ」


「……仕事なら、仕方ないです」


 老婦人の店員さんがキャラメルコーヒーとシフォンケーキも持ってきてくれた。テーブルに並んだふたつのメニューは、私が最初に行きたかった行列が出来る写真映えするようなスイーツショップのそれとはまったく違うけれど、一口食べると味で勝負している一品であることがすぐに分かった。


「美味いか?」


「はい。どっちも本格的で、美味しいです」


「良かったな。この辺りはキャラメルコーヒーが置いてある店は少なくてな。俺は行き当たりばったりは嫌いなんだ、時間の無駄だろ。だからちゃんと昨日調べ……」


 そこまで言って、先輩は口をつぐんだ。


「調べてくださったんですか?」


「……まぁ、仕事させるだけじゃ割りに合わないだろ」


 窓の外に目をやる先輩に、私は言う。


「では、大きなプラスになっちゃいますね」


 ふわふわのシフォンケーキをもう一口頬張り、キャラメルコーヒーを飲む。


「うまそうに食うな」


 この前の居酒屋でもそうだったけど、先輩は私と一緒のタイミングで食べてくれない。必ず私が料理を口に運ぶ瞬間を見届けるから、食リポでも求められているかのようで緊張してしまう。


「はいっ、幸せです!」


 私には豊富な語彙力で味の感想を伝えることは出来ないから、思ったことをそのまま言った。ジュースとか、料理とか、先輩はいつも私を喜ばせようとしてくれる。だから私も、私が喜ぶところを見て喜ぶ先輩が見たかった。


 でも、先輩は私をじっと見つめた後──A4サイズの紙が入りそうな鞄から、何やら資料を取り出した。


「よく聞けよ」


「はい?」


「新卒採用を行う企業が応募情報の一元管理と、入社手続きまでを効率化したい場合に最も適した、うちのソフト名は?」


「どうしたんですか?」


「早く答えろ。芦尾が異動先に迷惑をかけないように、ここで最後の教育を始める」


 エリ先輩は、足を組んだ。


「ええ……っ!?」


「心配するな。全問正解したら奢ってやる」


 先輩の気迫にこれは冗談ではないと悟り、フォークを皿に置く。


 幸せなコーヒータイムが、一気に緊張感に包まれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ↓作者へ絵文字で感想が送れます↓
匿名での感想も!
♡絵文字で感想を送る♡

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ