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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
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42話 営業同行


 エリ先輩をすぐに見つけることはできなかった。なぜなら、営業マンの顔をしていなかったから。


 お客さんへの第一印象を意識したいつもの完璧な七三分けを探したのに、橋の真ん中で川を見下ろす彼の前髪は珍しく垂れ、風に柔らかく揺れていた。


 服装も昨日のラフなスタイルと違い、黒いシャツの上に薄いジャケットを羽織っている。直前まで仕事の話をしていたのに、今のエリ先輩は会社の人にどうしても見えなくて、近づく前に足を止めて見惚れてしまった。


 乱れてしまった髪を整え、深く息を吸い込む。


「お魚でもいましたか?」


 後ろからそっと声をかけると、彼は振り返った。


「……誰かと思った。いつもと違うな」


 先輩は、私を見て言った。確かに私も、普段履かないロングスカートで全速力を出していた。


「それは、こちらのセリフなんですが……」


 まじまじと見られて妙に恥ずかしい。


「やっぱり落ち着かん。スーツで来るべきだったな」


 先輩は前髪をかきあげた。


「さすがにスーツで旅行はみんな引くと思います」


「……じゃあ、行くか。ここ一帯の老舗旅館は、調べると予約サイトにも載っていないところが多い。今日は飛び込まんが、いずれは開拓するのも良さそうだ。ターゲットになるか、確認しに行こう」


 そう言って地図を渡してきた。


「あの、本当に仕事するのですか?今から?」


私が明らかに嫌そうな顔をしていたからだろう。先輩は、口の端を吊り上げた。


「旅行だからといって逃げられると思うなよ。最後の最後まで、俺の部下でいてもらうぞ」


「ええ……?」


 里中さん、なぜか、営業同行が始まりました。




***




 私はエリ先輩の指示に従って、紙の地図にチェックをいれていった。


 めいっぱいおしゃれして、私は何をやっているのだろう。観光地のメインストリートと逆の方向だから、当然他の社員にも遭遇しない。私のテンションは、どんどん下がっていった。


「こういう所はなかなか変化を受け入れないから、いくなら根気強く説得していかないとな。お、そこの路地にも小さい個人経営の旅館がある。たぶんダメだと思うが、とりあえずチェックしてくれ」


「……そうですね」


 棒読みで返事をしながら、言われた通りにする。反対側の方角には、おしゃれなお土産屋さんや食べ歩きにぴったりのお店がたくさんあるというのに、先輩は何の見どころもない通りを意気揚々と進む。


 先輩は、何をしに来ているのだろう。でも不思議なことに、今回の旅行で一番生き生きしている。

 

 ふくれっ面の私も、この感じがなんだか懐かしくてつい真剣になる。


 変わらず無表情だけど、楽しそうにも見える先輩の横顔を見たとき──急に、彼は足を止めた。






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