41話 こういう時は走るもの
2日目は、自由行動だ。宿から数分のところに里中さんが大好きなドラマのロケ地があり、真っ先に行って恋愛ドラマのワンシーンを再現して遊んだ。私は見たことがないけれど、毎週彼女からストーリーを聞いているからすんなりと世界観に入れた。
「獄谷君と一緒にいなくて大丈夫?今日で最後よ」
何十枚と撮った写真を見返しながら次の撮影場所に向かう中、里中さんが気を遣って提案してくれた。
「いいんです。話しかけようとしても逃げちゃうし。異動する私のことなんてもうどうでもいいんじゃないですか?」
自分でも驚くほど、トゲのある言い方になってしまった。その内にドラマで主人公たちが待ち合わせ場所にしていたという銅像が見つかり、先輩を前にスマートフォンを構えた。
「連絡してみたら?」
「いいえ!里中さんと遊ぶ方が楽しいで……」
ポーズする先輩に向けてシャッターを切ったその時、私のスマートフォンが震えた。
「……エリ先輩!?」
先輩から業務連絡以外で連絡がきたことなんて、一度もなかった。ましてやこれは、会社で契約しているものではなく、個人の電話番号だ。入社した頃に全員と念のため交換していた番号が今、初めて待ち受け画面に映る。
「早くっ、早く出なさい!!」
里中さんは私のスマホを覗き込み、急かした。通話開始と拒否のボタンを間違えそうになるが、深呼吸して指を滑らせる。
「お、お、お、お疲れ様ですっ」
「芦尾か?」
聞こえてきたのは、やはりエリ先輩の声だった。
「はい、芦尾です!」
「今から橋のところ来れるか」
い、今から?それって、もしかして……
「橋……宿に来るときに渡った橋ですか」
里中さんと目を合わせる。どうしよう。里中さんとは、この後ご当地アイスクリームを食べる予定なのに。
そんな葛藤を汲んだのか、彼女は私を追い払うような手の動きをして見せた。
「早く、行きなさい!」
小声で促す里中さんの優しさに胸を震わせながら、エリ先輩に返事をしようとした。
「はい。数分で行けると思ーー」
「今回泊まった旅館、宿泊管理の台帳が紙ベースになっていた。この辺りの個人経営の旅館も営業かけるチャンスかもしれないから、今すぐ見て回るぞ」
「……え」
そして、電話は切れた。
「梨子ちゃん良かったね!ようやくデートに誘ってくれたのねっ!」
興奮が収まらない里中さんに、私は顔中いっぱいにハテナマークを浮かべた。
「い、いや、デート……かなぁ?」
里中さんに背中を押され、首をひねりながら歩き出す。
「つべこべ言わない。こういう時は走るの。傘なんか差さない。ずぶ濡れで全速力よ!」
「里中さん、雨なんて降ってませんよ……?」
そう言いつつも私は、ゆっくりとスピードをあげた。




