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4話 同じ会社なのに



 ひと通り挨拶も済み、私も自分の席についた。エリ先輩と目を合わせないようにして、あえて忙しいフリをする。でもノートと筆記用具を出しただけで、あっという間に手持ち無沙汰になってしまった。予想通り、私の手が止まった瞬間を見計らって、右隣から鋭い声が飛んできた。


「誰が鬼だって?」


 もし刀を手にしていたら間違いなく振り下ろしているであろうエリ先輩に、私はあえて笑顔で応じた。


「エリ先輩も、みなさんと一緒にお話すればよかったのに」


「…………俺の自由だ。それと、ここでぐらいは苗字で呼べ」


「ダメですか?楠本さんだって『エリちゃん』って……」


「分かったなっ!」


 先輩は会議室中に響く大声で怒鳴った。静まり返った部屋で約30人の視線を一気に浴びる。私は心臓を爆発させそうになりながら、こくこくとうなずいた。


「す………すみません。獄谷さん」


 こ……怖いよー!助けて、楠本さん!!泣きそうな顔で楠本さんの席を探すと、彼も目をひくつかせてこちらを見ていた。そして、右手にこぶしを作って親指を立てた。『がんばれ!』という無慈悲な応援をいただいたところで、司会者の声が凍り付いた室内を割るように会議開始を告げた。


***


 会議は静かに始まった。前方のスクリーンには売上データが映し出されて、各営業所の代表が前に出ては説明し、質疑応答が交わされる。私はその内容を、手元のノートに書き込んでいった。


 営業所ごとの取り組みに、なるほどと頷く場面も多い。中でも目を引いたのは、方針に『事務員との連携』を打ち出しているところだった。


 細やかな伝達にも重点を置いていると胸を張るその営業所が、心底うらやましい。ひとつも響いてなさそうな顔でスクリーンを眺める右の人を見ながら、ノートに大きく「上下関係を強調しない環境づくりも売上に貢献するとのこと!!」と書きなぐった。


 なぜ私が怒鳴られなければならないんだ。そもそも私は月末の仕事があるのを投げ出してここへ来ているというのに、なぜこんな仕打ちを受けなければならないの!?


 私の前に何人もの後輩が会社を去ったらしい。人事はどうしてこんな人を野放しにしているのだろうか。転職早々に配布された人事考課シートにも、それとなく不満を書いたというのに。


 むかむかと怒りがこみあげてきて、筆圧も上がる。他の営業所は、どこも仲が良いのだろうな。楠本さんも愚痴を言いつつ、なんだかんだ楽しそうだ。ここまで厳しい新人教育は聞かないらしい。


 そんな怒りや屈辱も発表が進むにつれ落ち着きを取り戻したが、今度は眠気が私を襲った。静かに稼働するエアコンや資料がこすれる心地よい音にうっかりあくびを噛み殺したとき、ハッとした。


 やばい、またエリ先輩に怒られる。もうすぐ先輩の出番だから、シャキッとしておかないと。

 

 先輩はこれまで、毎回堂々とした発表をこなしていて、成績だけなら本当に尊敬する人だ。腹の立つパワハラ男だけど、他の営業所の発表に負けて欲しくない。


 さっきのことをすっかり忘れて「次ですね。頑張ってください」と、小声で伝えようと彼を見たときだった。





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