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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
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39話 ゆっくりと近づく距離

 大広間の座敷に揃えられた、何十人分の料理が輝きを放つ。全員集合の宴会が始まった。


 ずらりと何列にも並べられた、脚付きの小さなお膳と紫の座布団。自由に座っていいルールだけど、私はみんなと一緒にいたくて、第一営業所のメンバーで固まって座ってもらった。


 エリ先輩はもう2人の営業である、田中さんと茂木さんの横に腰を下ろしかけたが、里中さんがさりげなく席を奪って私の右隣に座らせた。



 里中さんのドラマの話を聞いて、美味しい懐石料理に舌鼓をうつ。その傍らでエリ先輩とも会話を試みるも、彼はほろ酔いの所長にお酌をするばかりだ。


 そういえば、今も七三分けの髪型のままだ。お風呂あがりだから珍しく髪をおろしたところでも見られるかと思っていたのに。本当にこの人は、隙を見せてくれない。



 場があたたまってきたところに、司会者を担当する社員が、前方のステージ脇でマイクを持った。


「さて皆さん、お食事は美味しいでしょうか。そろそろお楽しみの、出し物の時間です!」


 明るい声が広間に響き、箸を持つ手が止まる。


 事前に準備してきた社員たちが、大勢の前で歌ったり踊ったりして、会場を大いに盛り上げる。○×クイズなどの簡単なゲームもあり、気分が高揚してきた社員たちの歓声の中、エリ先輩はグラスの酒をくいっとあおって、静かにため息をついた。


「おい獄谷、今日はちゃんと準備してきたか?」


 反対側の列に座っていた男性が、彼に笑いながら声をかける。全体会議で見たことがあるから、この人も営業さんだろうか。


「……何もしませんよ」


 きっと彼もまた、エリ先輩の過去を知っているのだろう。浴衣の前がだらしなくはだけているその人は、ジョッキ片手に先輩の肩へ腕を乗せ、迷惑そうにされてもなおも絡む。


「今ならウケるって。油性ペン持ってこようか」


 そこに、私は割り込んだ。


「獄谷さん!これも、美味しいですよ」


 その営業さんよりも大きめの声で先輩の気を引き、彼のお膳に残っている美しく飾り切りされたにんじんを指さした。先輩は、言われた通りに箸でつまんだ。


「……ああ、美味いな」


 そして、今日初めて私と目を合わせてくれた。その一瞬だけ、周りの騒がしさが聞こえなくなる。


「……あと、そのお刺身も」


「そうだな……」


 知らない営業さんは、エリ先輩から期待していた反応を得られずに不満そうに立ち上がり、また別の人にちょっかいを出しに行った。



 照明が落ち、音楽が鳴り響く演出の中、私はほとんど酔っていて何をしているか分からない社員たちの出し物に失礼にも背中を向けて、私の勧める料理を言われるがままにつまむエリ先輩ばかり見ていた。


 それ以上の話題は出せない。私の異動の話にも触れない。


大勢の人がいるこの宴会場だけど、今の私たちは2人きりだった。






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