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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第四章 寂しさを越えて
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38話 浮かない旅行



「エリせんぱーーーーーい!!」


 私は丸太で組み上げられたアスレチックコースの終着点、見晴らし台のてっぺんから、遠くの方で散策している彼に向かって大声を出した。若い社員たちがこぞって参加しているこのアクティビティの輪から離れ、自ら孤独を選んだ彼に向かって。でも、満面の笑みで大きく手を振る私を見て彼は顔をしかめ、すぐに背を向けてしまった。



 私は幹事メンバーの一人として、入念な打ち合わせを重ねて今日の社員旅行の日を迎えた。1日目は、アウトドア活動。天気も良い。自然の中で普段使わない筋肉を動かし、ときに社員同士で協力し合ってクリアを目指すアスレチックのアクティビティは、絆を深めるにはうってつけの企画だ。



 異動のことは、受け入れた。悔やんでも仕方がないから、前を向くと決めたのだ。幹事という役割があったことも、私の気持ちを救ってくれた。忙しさのおかげで、暗い気持ちをいくらか払拭することができた。


 社員に園内の地図を配ったり集合時間を伝えたりと奔走する一方で、このアスレチックにも果敢に挑戦した。飛んだり跳ねたり、仕事を忘れて大はしゃぎ。下では日傘を差して見守る里中さんが、クリアした私に向かって拍手してくれた。


「もう!振り返してくれたっていいのに」


ロープのはしごを降りながらぼやく。


「梨子ちゃん、みんなの前であんなに大声で名前を呼ばれたら、あの人は照れちゃうんじゃないかな」


「自分はいつも所構わず私に怒鳴りまくっていたくせに……」


 里中さんはくすくすと笑った。

 

 彼女は私の異動を所長の発表で知った。最初はショックを受けていたものの、『 退職でなくて良かった』と、徐々に受け入れて私の仕事を引き継いでくれた。里中さんとは明日の自由行動で一緒に観光地をまわって、最後の思い出作りをする約束をしている。



 しかし、エリ先輩は違った。彼はあの報告の日から明らかに不機嫌になり、ふさぎ込むようになってしまった。私を営業へ同行させないし、残業になる程の指示も出さなくなった。



 本当に申し訳ないと思うけど、もう取り消せないことだ。せめて残りの日々を精一杯明るく過ごすことが、先輩への誠意だと思っているのに。こうして社員旅行が始まった今も、彼はあからさまに私を避けている。



 エリ先輩は、旅行だというのにいつもの七三に整えたヘアスタイルだった。きっと、どうすればよいのか分からなかったのだろう。クリームで固めすぎていない、あの塩梅がいいと私は思っているけれど。



 しかし、こんな場所にまでスーツで来るわけにはいかない。彼の私服姿は、初めて見た。黒いTシャツに少し明るめのジーンズが彼に恐ろしく似合っていて、今朝のバス集合時には言葉を失ってしまった。



 でも彼は若い社員が大いに盛り上がっているアスレチックには不参加で、年配の役員たちと同じように散策コースに行ってしまった。私とは全然、話してくれない。




 この旅行が終われば私は第一営業所の所属でなくなる。最後くらい、先輩と楽しい時間を過ごしたいのにな。 





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