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34話 タイムリミット

 社内は、もうすぐ行われる社員旅行の話題で沸き立っている。


 私は幹事の一員として、他部署の数人と連携して準備を進めてきた。今週の人事考課が終わったらいよいよ出発だと、誰もが浮かれている。


 それなのに、私たち第一営業所だけは静まり返っていた。


 朝だと言うのに誰も口をきかず、重苦しい空気に包まれている。今日、エリ先輩にどんな処分が下されるのか決まるからだ。


 白川さんの心を動かすことができなかった。


 私は失敗したんだ。嘘でもいいから、彼女に『証拠がある』と言えばよかったかもしれない。


 後悔ばかりが押し寄せ、止められない現実に胸が締め付けられていく。


「エリ先輩……すみません……!!」


 私は、すでに人事との話し合いを終えた所長と共に会議室へ向かう先輩に駆け寄った。先輩は少し立ち止まり、私を静かに見下ろした。


「どうして芦尾が謝るんだ」


 いつものように髪を七三に分けて整え、ネイビーのスーツを、いつもと同じように着こなしている。


 涙を浮かべる私に、ポケットから何かを取り出し、私に押し付けるように渡した。


「あ……」


 ロングカフェ、ひといきキャラメル味。顔を歪めながら両手に包む私の頭をぽんと叩き、背筋をまっすぐと伸ばして歩いて行った。


 もし処分が軽いものだったとしても、エリ先輩は責任を感じて辞めてしまうかもしれない。どうすることもできなくて、パソコンの前で伏せてしまう。


「ううう……!」


「梨子ちゃん……」


 同じフロアの向こう側、カスタマーサポートの島から、白川さんが元気に電話をとる鈴の鳴るような声が聞こえてくる。こちらでもお客さんからの電話が鳴ったが、いつもは私に任せる里中さんがさっと受話器をあげてくれた。




***




 15分程度だったが、長い時間に感じた。なんとか涙を拭いて、見積書の金額を計算しているところにエリ先輩が戻ってきた。

 

 彼は、第一営業所の全員に声が届く位置に立った。


 里中さんと、まだ出発していない他の営業さんたちと、そして私の手が止まるのを待って、静かに、そしてはっきりと言った。




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