30話 鍵ノ先海岸
平日の海岸は人もまばらだ。車を降りるとすぐに潮の匂いがした。街の中と違って、風も冷たい。
浜へ降りるのかと思ったが、先輩は駐車場を出てすぐの、海岸が見える低いコンクリートの縁に腰かけた。私はどうしようか迷い、少し距離を空けて隣へ座った。
鍵ノ先海岸は、初めて来た。ここからだと、海岸が一望できる。沖の方でサーフィンをしている人をなんとなく眺めていると、先輩が言った。
「焼き鳥食べるか?」
「……ちょっと、今は……」
「……そうか」
綺麗な海ですね。どうして私を連れてきてくれたんですか?
そんな会話をしたいのに、口をついて出たのはまるで違う言葉だった。
「来週……ですね。先輩の……処分が決まる会議。どうなってしまうんでしょうか」
「まぁ、よくて降格、異動か、最悪……解雇だな」
他人事のように言う先輩に、私は眉をひそめる。
「やってないかもしれないのに?」
「俺もそう思いたいが、やっていないと言ったところで、人事は信じない。そうさせたのは、俺自身だ」
「このままでもいいんですか?私は嫌です。ちゃんと調べましょうよ」
「調べたって、何も出てこないだろ。通報内容も曖昧なんだ」
私は拳をぐっと握りしめた。エリ先輩に向かって、初めて歯向かう。
「……だから!白川さんとの打ち合わせの録音があるじゃないですか!もしかするとそれが原因かもしれないのに、どうして聞かせてくれないんですか!?」
「……どうしても、芦尾には聞かせられない」
静かな返事に、胸がずきりと痛む。
「……後ろめたいことが、あるんですか」
「俺は、あがきたくない。ここらで一度受け入れるべきだ。疑われること自体が、俺の今までしてきたことへの報いだ」
「私は先輩が変わったって、証明したいです」
力が入りすぎて涙があふれそうになる。先輩はじっと海を見つめていたけれど、こちらに顔を向けた。
「……芦尾がそう言ってくれるだけで、充分だ」
そう言って私の目を見て、悲しげに微笑んだ。




