28話 疑惑
白川さんは私より2歳年下だけど、先輩の社員だ。声がアニメの声優さんのように愛らしく、人懐っこい電話対応がお客さんにも好評ときく。
カスタマーサポートの人なら、顧客対応の件で営業所と打ち合わせをしていてもおかしくない。だけど、彼女にも、エリ先輩のスケジュールにも、使用時間の記録がない。
どういうこと?普通なら、パソコンの予約システムで押さえる。そのとき、参加者のスケジュールにも連動して登録される。そしてそれは、社内の誰にでも見ることができるはず。
何か、エリ先輩が白川さんと会議室に行った記録はないか……
そのとき、思い出す。エリ先輩は、たまに録音機を使って会議の議事録をとる。メモの手間が省けるからと、私にも勧めていたではないか。
お昼休みの時間にさっそく、貸し出し用のノートが入っている棚へと向かった。
パラパラとノートをめくる指が止まる。会議室の使用履歴と同じ日、「獄谷衿」の名前が記されていた。
誰にも気づかれないように拳を握りしめる。私は録音機のSDカードを取り出して、急いでパソコンに接続した。しかし、その日のデータだけが見当たらない。
悶々と頭を悩ませながら仕事を進める。定時の鐘が鳴ってからさらに1時間が過ぎたころ、エリ先輩が外回りから戻ってきた。私は先輩が席につくことすら待てずに立ち上がる。ドア付近に立つ彼に駆け寄り、すぐに切り出した。
「先輩!もしかしてこの日、白川さんと会議しましたか?」
ログを印刷した紙を見せると、先輩は目だけを動かして見つめ、ほんの少し眉をひそめた。
「…………ああ。クレーム対応のことで少し相談があると言われてな」
やけに返答が遅い。
「そのとき、何かなかったですか?」
「いや、何も」
会話を断ち切るよう、自分の机に向かって歩くエリ先輩に、私はまとわりついた。
「そのときの会話──録音しましたね?」
「……ああ、した」
「やっぱり。そのデータ、先輩が持っていますね?」
「そうだ」
先輩は淡々と答えるが、目が明らかに泳いでいる。
「良かった!念のため、録音内容を聞かせていただけますか?今のところ、それしか気になることがなくて」
「……ダメだ」
「ど……どうしてですか?ここ最近で、先輩と二人きりになったのは白川さんだけなんです。何もなければまた別の可能性を探しますし、もしそれがパワハラと受け取られたものなら、人事に提出して判断を仰げばいいですし…」
「あの打ち合わせは関係ない」
「え……」
「いいな。仕事しろ」
先輩は、パソコンの真っ黒な画面を見つめて腕を組んだ。強い拒絶を感じ、私の心に暗雲が立ち込める。
信じたい気持ちに、わずかな隙間風が吹く。もしかして、本当に白川さんを傷つけるようなことを言ってしまった?
それとも、まさか……




