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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第三章 それぞれの過去
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20話 鬼の敗北

「エリの腹には、マジックで顔が描かれていた。こいつは頼まれてもないのに……………………腹踊りをしたんだよ」


 給湯室は、静まり返った。

 

「……えーーーー!!」


 私は、口に手をあてて、大声をあげてしまった。


「真顔で、それはもう真剣に……。みんな驚いちまってな。かわいそうに、誰も笑ってやれなかったんだ」


「そ、それは……全く想像できないですね……」


 エリ先輩の顔が、楠本を睨みつけたままみるみる赤くなっていく。


「俺が悪いんだ。きっとこいつは、新人として場を盛り上げようとしたんだ。それなのに……俺が緊張してたせいで、なんのフォローもできなかった。俺だって!事前に言ってくれたらなんとか盛り上げてやったのに……!」


 楠本さんは芝居がかった喋り方で、拳を握りしめて当時の様子を悔しそうに語ったが、面白がっているのは一目瞭然だった。


「……そして凍てつく空気の中、エリは黙って座って、静かに酒を飲んだ。それからだった。こいつがエリと呼ぶ者を鋭く睨みつけ、そして無口になっていったのは……」


 先輩と居酒屋に行ったとき、『前に失敗したことがある』と言っていた。詳しくは聞けなかった、彼の過去。それはきっと、このことだろう。


「…意外としょうもない失敗だったんですね」

 

 ゆでダコみたいに真っ赤な顔をして立ち尽くすエリ先輩に、私は間の抜けた言葉をかけた。


「お前ら、覚えとけよ……」


 お前ら?私も?


「おう、いいぞ。もう昼休みも終わっちゃうし、夜飲み行こうぜ」


「誰が行くかっ!」


「残念、じゃあ芦尾っち、2人で映画でも行こっか」


「え、映画、ですか」


 返答をためらう。エリ先輩の額には血管が浮き出ていて、今にも破裂しそうだ。

 

「楠本……いい加減に」


「あ、ダメだ。俺今日接待あるんだったわ。ごめん芦尾っち、また今度!」


 楠本さんは高らかに笑いながら、給湯室を去っていった。











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