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恋は襟を正してから〜鬼上司の不器用な愛〜  作者: プリオネ
第三章 それぞれの過去
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19話 ライバルの反撃


「あっ!何してんだよ、俺があげたやつ」


 倒れたジュースの横で勝ち誇ったように立つのは、私の好物『ロングカフェ ひといきキャラメル味』だった。


あ然とする私に、彼は少しトーンを落とした柔らかい声をかける。


「芦尾はこんな甘ったるいのは飲めないよな」


「えっ……いえ、飲めないってほどでは……」


「無理するな。お前はこれ飲んどけ。いつもの」


 いや、本当はその通りなんだけど。それをいま楠本さんの前で言われてしまうと、気まずくなってしまうではないか。


 エリ先輩の突然の行動にどう反応すればいいか分からないでいると、しばらく膨れていた楠本さんが突然にやにやと笑いだした。


「おい……エリちゃん」


「その呼び方やめろ」


 エリちゃん呼びを即座に拒絶する先輩だが、楠本さんは無視した。


「エリちゃん、いいのか?俺にそんな態度取って」


「なんだ」


「あのこと芦尾っちに言うぞ?」


「……!!」


「なんですか?あの事って」


「聞く必要はない」


 二人の会話に入った私を、エリ先輩が物凄い顔で制止する。


「まず、俺たちは……同期なんだ」


「おい!!」


「へぇ!そうなんですね」


 すとんと腑に落ちた。だから名前で呼んでいるのか。俄然、興味津々になる私に、先輩の眉間の皺がさらに深くなった。


「でな、あれは入社した頃のことだった……エリは大げさに笑顔を振りまくようなやつじゃあないが、他の同期と同じように、まぁ、フレッシュだった。”エリ”と名前で呼ばれても、元気に返事をしていた」


「エリ先輩が、フレッシュですか……」


 エリ先輩の新人時代が気になりすぎて、前のめりになってしまう。


「楠本。それ以上言ったら許さんぞ」


「なんでだよ。芦尾っちの前だからか?」


「!!」


 エリ先輩が目をひんむいて、拳を握りしめても、楠本さんは止まらなかった。それどころかさらに上機嫌になり、天井を見つめながら思い出を振り返る。


「新人研修が終わる頃、歓迎会が開かれた。俺たちは、緊張していた」


「おい、芦尾!!ここから出ていけ。聞いたらどうなるか分かってるんだろうなっ!!」

 

 楠本さんを制御できないと悟ったのか、エリ先輩は私に恫喝した。その形相はまさに鬼のごとし。過去最大の怒声で、給湯室の壁を震わせる。


”前の上司と同じにはならない”──さっきの決意表明はなんだったのかと思うほどに、鋭く射抜くような目つきで、私を本気で脅しつけようとしているのが伝わってきた。


 しかし今の私には、全く効果がなかった。


「どうなってもいいです!楠本さん、続きを!!」


 エリ先輩には本当に申し訳ないのだが、恐怖よりも好奇心が勝ってしまった。


 絶句するエリ先輩。楠本さんは私に、『よく言った』と頷いた。


「任せとけ。でな、歓迎会はいいムードだったんだ。でも、一度だけ場が静かになったときがあった。そしたらな、こいつ……突然、自分のネクタイを外して頭に巻いたんだ」


「え、なんで!?酔ってたんですか?」


 私はついエリ先輩に聞いた。先輩は楠本さんを給湯室から追い出そうと、彼の両肩をつかんで押しやろうとした。が、楠本さんは片足を後ろに下げて踏ん張り、エリ先輩の背中をなだめるようにポンポンと叩いた。


「いや。まだ始まったばかりの時間だったのに、だ。みんなぽかんとしていたよ。それだけじゃない。その後、ワイシャツも脱ぎだして、立ち上がった。その体には……」


「やめろ!頼むから!!」

 

 楠本さんは、見たこともないほどに取り乱してまで必死に懇願するエリ先輩を、あっさりと見捨てた。







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