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14話 気づかないふり

「前に、ちょっと失敗してな。今はなるべく、人と関わりたくない」


 何か話してくれるのかと思ったけど、先輩は押し黙った。先輩をそこまで追い込んだ失敗って、なんだろう。よっぽど辛い過去なのだろうか、明かすつもりはなさそうだ。そう悟って一緒に黙り込んだそのとき、タイミングよく料理が運ばれてきた。


 先輩チョイスの3品は、名前通り、どれも私の好みど真ん中だった。


「すごい!全部美味しそうです。今取り分けますね」


「いいから。自分の分だけとって食え」


「は、はい。では、お先にいただきます……」


 先輩の視線が私の箸に集中する。持ち方は合っているだろうか。妙に緊張しながら、料理をつまんだ。


「美味しい!甘みとしょっぱさが交互にくる……美味しいですエリ先輩!」


 全てを一口食べては興奮していると、向かいの席からぽつりと声が漏れた。


「やっと喜んだな」


「……」


「昨日のUSB、嬉しかった。いっぱい食え」


「……光栄です」


 柔らかい声に、顔を上げることができない。見つめられている気がして、先輩の分の料理を取り分けることに逃げた。



***



 その後もぽつぽつと仕事の話を交わし、私が気に入りすぎたオレンジ杏仁サワーの4杯目をおかわりしようとしたところで、先輩に止められる形でお開きになった。ほとんど私しか食べていないのに伝票も奪われ、恐縮しながら店を出たのだった。


「今日はごちそうさまでした……」


 すっかり冷え込んでいた夜の街を、私は肩をさすりながら歩いた。寒いはずなのに、首から上はすっかりのぼせたように火照っている。


「遅くなったが……心配されたりしないか?」


「いえ?一人暮らしですし、私も25だから親からうるさく言われたりなんて……」


 いつもの飲み会は、所長の長話でもっと遅くなっているではないか。


「……そうか」


 しょっちゅう営業活動に同行しているから、その横顔は何度も見てきた。けれど、どこかいつもと雰囲気が違う。普段は腕の時計と資料を眺めながら急ぎ足で歩くエリ先輩が、今はアスファルトをゆっくりと踏みしめている。社会の重圧を詰め込んだ鞄を私と反対側の肩に担ぐ先輩を、月が労うように照らしている。


 今日、初めて先輩と打ち解けた気がした。鬼とまで感じていた上司が、私という後輩を厳しくもあたたかく見守ってくれている。そんな風に思えたことが、嬉しかった。


 けれど、彼の言葉や仕草の端々から、それだけじゃ説明のつかない何かを読み取ってしまいそうになるのは、私の気のせいだろうか。






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