表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

10話 いちごミルク


「報告書…………………良かったぞ」


 ………………え?


 聞き間違いかと思って顔を上げるも、先輩はその言葉だけ残してすっと私の横を通り過ぎ、隣の自席に座った。それ以上話を続ける気はないようだ。鞄をデスクの下に置き、なにもなかったかのように、パソコンを立ち上げて両手の指をボキボキと鳴らす。


 褒められた?その事実を理解するのに時間がかかって、立ち尽くしてしまった。昨日の「でかした」よりもずっと丁寧で、ちゃんとした評価。とっさの勢いではなく、日常業務の成果を認める、初めての言葉。


 所長は全てを見渡せる席から、私の様子をちらちらと伺っている。いつの間にか出社していた他の所員たちも、気を遣って静かに着席していた。いつものように私が何か指摘されて、落ち込んでいるように見えたのだろう。


 でも、周りの心配とは裏腹に、私は頬がゆるむのを抑えきれなかった。仏頂面でキーボードを叩くエリ先輩に、私も彼と同じくらいの小さな声をかける。


「……ありがとうございます」


 先輩は、画面を見たままわずかに頷いた。


***


 短い朝礼のあと、先輩はすぐに出発の準備をした。私は同行しない。当たり前のことなのに、自分の業務に集中できる日はホッとする。私が不在の時に頑張ってくれている、向かいの席の先輩事務員も私以上に安心した表情を浮かべた。


 先輩は出かける直前に私の机に書類を置いて、指示を出した。


「ここからここ、経理に入金確認。なかったらすぐ相手先に連絡。あとこれは継続契約に変わったから、契約書発送。午前中にな。夜確認するから」


 うう……結構多い。先輩も忙しいから仕方ないにしても、私だって今日は月末の仕事があるのだから、もう少し余裕を持った期限にして欲しい。しかも、夜ってことは私も当然のように残業が確定しているのだろう。


「はい。ええと、15社ですね………」


 確認リストに目を落として優先順位を考えていると、その上に何かが置かれた。それを見て、えっ、と反射的に声が出る。慌ててエリ先輩を見るが、彼は素早く移動していて、もう入口のドアを閉めるところだった。


 私の机にいちごミルクの紙パックを残して、エリ先輩は颯爽と外回りへ出発した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ↓作者へ絵文字で感想が送れます↓
匿名での感想も!
♡絵文字で感想を送る♡

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ