ハクチョウ
冬になると、越冬のために白鳥が飛来する水場が近くにある。
近辺では飛来地として有名な湖沼で、然程大きくない水場ながら、道沿いに案内の看板も立っているような場所だ。
写真を撮りに来る人、餌をやりに来る人、散歩がてら眺めていく人、様々な人がいるけれど、中にはわざわざ白鳥のために冬の田んぼに水を張って準備している人もいる。
多くの人が白鳥の飛来を楽しみにして、大切にしていると感じる光景だ。
今の家に越してくる前から、近所に白鳥が飛来してくることは知っていた。
引っ越す準備で行き来していた道添いの畑に、たくさんの白鳥が集まっているのを何度か見た。
細い道に車を止めて見ている人が何人もいたから、見逃しようもない。
白鳥を見たのは、それがほとんど初めてのようなものだった。
子どもの頃に親と一緒に隣県の有名な公園に見に行ったけれど、行ったことしか覚えていないような記憶。
そもそも白鳥自体が身近な鳥ではない。
だからこそ、大人になって改めて近くで見た時に、大きくて美しい生き物だと感じた。
越して来てからは、毎年冬になると飛来してくる白鳥を毎日とまでは言わないけれど良く目にする。
夜は安全な水場で過ごし、昼間になると餌場の畑に移動しているらしい。大抵の場合、見かけるのは数羽で飛んでいる移動中の姿だ。
我が家の辺りが通り道になっているのもあって、わざわざ見に行かずとも、家の中でも外でも簡単に目にすることが出来る。
白鳥が飛んでいると、まず鳴き声で気が付く。
聞いたことがある人なら分かると思うが、意外と大きな声で鳴くものだから、姿を見つけるよりも先に周囲に響く鳴き声がしてくる。
その声が近づいてくると、飛んでいる白鳥を見られるわけだ。
飛来地の周囲は田畑が多い地域で、白鳥たちは好きな場所で餌を食べている。
水を張っている水田には他と比べて毎年多くの白鳥がいて、それを知って観察に来る人も多い。
我が家の裏手にも、他人の所有地ではあるが、田畑が広がっている。
秋の収穫作業が終わると何もない場所だが、そこにも気が向いた白鳥たちがやってくることがある。
そこがちょうど寝室の窓に面していることもあって、机に向かって作業しながら眺めることが出来た。
飛んでいる時だけでなく地面に降りてからも彼らはお喋りをしていて、その声に釣られてなのか、最初の数羽が来ると次々に仲間がやってくる。
真っ白な大人に混じって、大きさは変わらないけれど幼鳥らしき灰色がかった個体がいる。
採食に忙しい者もいれば、二、三羽で首を伸ばして鳴き合いをしている様子も見られる。
ガラス越しとはいえ、じっと観察しているこちらの様子が気になるのか、明らかに視線を向けている者も何羽かいた。
見ていて一番美しいと感じるのは、羽を広げている姿。
地上にいる時にも時折その場で羽ばたくことがあるが、地面に降りる直前の羽を伸ばして大きな体をコントロールしている姿は、とても迫力があって、同時に優雅に見えた。
どこにでも居る訳ではない生き物が、こうしてじっくり観察できるほど近くに来てくれることは、とても幸運で贅沢な環境だ。
夏にはツバメ、冬には白鳥が季節毎に飛来してくるのを、毎年楽しみにしている。
日々の食糧の生産に対してだけでなく、そうした意味でも、近所の田畑で耕作している農家には感謝してもし足りない。