木の葉
冬の間にずいぶん寂しくなっていた木々の枝に緑の葉が茂り、季節が夏に向かって進んでいく。
落葉した木に鳥たちが止まると、その姿が簡単に見付けられた。それもあって冬の木は野鳥を観察するのにちょうど良かったものだけれど、鳥たちにとっては、姿を隠してくれる葉がある季節の方が安全に過ごせるのだろう。
緑色が目に入ると、心が落ち着くように思う。
実際に目に負担の少ない色だというし、リラックス効果が謳われていることも考えると、私が感じる安らぎは多くの人が共感するものなのだろう。
家の周囲には緑しかない、どの部屋からも緑が見えるこの環境は、私の精神にきっと良い影響をもたらしている。
葉が茂ると変わるのは、風の流れが目に見えるようになること。
木の葉だけでなく、地面に生える草の丈が伸びてくると、風に吹かれて緑が揺れる。揺れている場所は葉が裏返ったり、陽の光の反射が変わって色が周囲と違って見えるから、それによって風の通り道が分かる。
その様子を見るのは、自分の中にも風が通るようで心地良い。
それと一緒に葉が擦れて鳴る音を聞くのも好きだ。
草原もそうだけれど、特に山の中で聞く葉擦れの音は、その音に囲まれて、自分も自然の一部になったように感じる。
そうして思わず深呼吸したくなるのも、葉擦れの音が聞こえてきた時だ。
あまりに風が強い時のザアザアと鳴る音には不安を煽られることもあるけれど、たまに訪れるそれは、自然に対する畏怖を忘れないために必要な物なのかもしれない。
音と言えば、雨粒が葉に当たってポツポツと弾く音も風情がある。
梅雨の長雨は気が滅入ることが多い。でも、その雨音だけが聞こえる静かな中でのんびりと自分の時間を過ごすのは好きだ。
雨が降った時の良い面は、香りにもある。
よく雨の時の香りは「土の香り」と表現されることが多い。実際に土の香りを感じるけれど、その中に植物の香りも強く感じる。
草を刈った後が一番強く香るけれど、それは青臭さが鼻について強すぎるかもしれない。それと比べると、雨の時の香りはちょうど良いように思う。
山の中に入ると、木漏れ日に溢れている。
木々の間から地面に差して映る光の揺れも、見上げた枝葉の隙間から差し込む光も、どちらもキラキラと輝いている。
特に新緑の時季は、木々の葉そのものが光っているかのように輝いて見えて、明るく柔らかな色味も含めて好きな季節だ。
中でも良く晴れた日の白樺林。白い木立と若葉色が陽の光で輝く光景はとても美しい。
新緑の時季を過ぎて、段々と緑の色が深くなっていくのを眺める。
日々同じ景色の中で見ていると変化に気が付かないくらいの僅かな違い。でも、一週間、半月前とは明らかに違う色味に気付くと、季節の移り変わりを実感する。
それもまた日常の楽しみの一つだ。