サイコロ遊びの景品は中秋節の月餅
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
中秋節明けの平日という事もあり、私こと菊池須磨子の通う中学でも月餅の交換合戦が開催されていたんだ。
「はい、菊池さん!私からの月餅だよ。」
同級生の王珠竜ちゃんから廊下で差し出された月餅を見た私は、思わず考え込んじゃったの。
何しろ珠竜ちゃんの月餅は、私の月餅と同じメーカーだからね。
「あっ…ありがとう、珠竜ちゃん。じゃあ、私も…」
そして返礼の月餅を差し出した後の空気は、私が想像していた通りの物だったんだ。
「う〜ん…見事なまでに、同じメーカーの同じ月餅だね。」
「仕方ないよ、珠竜ちゃん。私も珠竜ちゃんも同じ台南市の中学一年生だからね。」
生活圏も懐事情も大差ないなら、同じような月餅を買っちゃうよね。
そんな少し気まずい空気は、教室で顔を合わせた同級生によって打破されたんだ。
「おっ!早いね、二人とも!そして案の定、月餅の交換で被っちゃったんだ。まあ、私も同じだけど。」
快活な口調で曹林杏さんが差し出したのは、既にお馴染みの月餅だったの。
「これでワンペアがスリーカードになったね、菊池さん。」
「ポーカーじゃないって、珠竜ちゃん…」
そんな私達の遣り取りを見た林杏さんは、何とも得意気な微笑を浮かべたんだ。
「ポーカーも良いけど、ここは博餅といこうよ。こんなに月餅があるんだし。」
「ああ、博餅ね。金門県や中華王朝の厦門とかだと、中秋節には欠かせないよね。」
月餅を賭ける博餅のゲームは、台湾奪還の為に厦門で訓練していた鄭成功の軍隊が発祥なんだ。
「話が早くて助かるよ。今日の放課後は博餅で決まりだよ。」
通学鞄に小皿と賽子を忍ばせるなんて、林杏さんも用意が良いね。
こうして昼休みの教室で博餅が開帳されたんだ。
ルールは簡単で、賽子六個の出目を競うんだよ。
「やった、三紅の役が出たよ!」
「凄いじゃない、珠竜ちゃん。私なんて一番弱い役だからね。」
強い役を出した友達を見ると、羨ましくなっちゃうね。
「だけど見事な名案だね、林杏さん。博餅で月餅を有効活用するなんて。」
「前から私、菊池さんと一緒に博餅をやってみたかったの。何しろ博餅は鄭成功に由来している訳だし。」
照れ臭そうに笑う林杏さんの一言に、私は思わずハッとさせられたの。
何しろ私も鄭成功と同様、日本人と漢族のハーフだからね。
孫文や蒋介石と同じ「三人の国神」と称えられ、日本や大陸でも愛されている鄭成功。
そんな鄭成功みたいに、私も沢山の人に愛される大人物になりたいものだよ。