4 夢
夢、という言葉を聞いても胸が躍らなくなったのは、いつからだろう。
いつの間にか俺にとって夢とは、いつか叶える大きな目標ではなく、現実から目を背けるための免罪符になっていた。
俺には夢がある。凡庸なあいつらとは違う、でかいでかい夢が。
だからあいつらみたいなダサいことはしなくてもいい。
死んだ魚のような目をして、社会にすり潰される必要なんかない。
夢を盾にしてそんな言い訳ばかりしているうちに、夢は死んだ。
かつては自分の中であんなに光り輝いていたものが、瑞々しい果実のようだったものが、今ではすっかり色褪せて、吐き気を催すような腐臭を放っている。
それを自分でも十分すぎるほどに自覚しているのに、それでも俺は夢にしがみつくことをやめられない。
あいつが、俺の夢を信じてくれているから。
俺がいつかでかい夢を叶えて世界に羽ばたいていくのだと、山田という男はそういう人間なのだと、あいつはそう無邪気に信じているから。
アパートの建付けの悪い外階段を登ってくる音。
半額シールの貼られたスーパーの総菜を手に帰ってくるあいつの足音だ。
一日かけて、俺が昼間にパチンコですったのと同じだけの額を稼いだあいつが、疲れた顔で帰ってくる。
だから俺は今日も、とっくに腐った夢をあいつに語って聞かせる。
あいつの夢が壊れてしまわないように。
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手つかずのジグソーパズル 俺の夢を聞くため君はイヤホンを外す