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3 引退

 

 一度定年を迎えた後で、再雇用という形で同じ職場で働くことになった。


 身体は、あちこちガタがきはじめてはいたけれど、まだまだ働ける年齢だし、担当業務の知識では誰にも負けないという自負があった。

 職場の同僚や部下たちからも山田さんが残ってくれるのなら本当に助かります、と懇願に近い形で縋られたことも大きかった。

 息子は二人ともとっくに独立しているし、家のローンも残っていないのだから、のんびりと第二の人生を謳歌しようと思えば、できないこともなかったが、私は仕事以外にこれといった趣味もなかった。

 家でぼんやりしているよりは、職場でみんなに頼りにされながら仕事をする方がどれだけやりがいがあるだろう。


 再雇用と言っても、業務は基本的に以前と変わらない。勝手知ったる仕事を、今まで通りに続けていくだけだ。

 ただ、再雇用職員の勤務は週に三日ということになっていた。

 必然的に、私がいない日には、他の職員が私の仕事の肩代わりをすることになる。

 とはいっても、私以外の人間にまともに処理ができるとは思わなかった。

 案の定、休みの日にはひっきりなしに会社から電話がかかってきた。

 山田さん、これってどうすればいいんでしたっけ。山田さん、この場合はこれで合ってますか。この件、山田さんはどう思いますか。

 もちろん、休みだから電話に出ないなんて意地悪はせずにきちんと説明はしたが、案件によっては何度も電話がかかってくることもあり、正直、自分でやる方がよほど早かった。

 急ぎの案件でなければ、私が次の出勤日に処理するのでデスクに置いておいてくれ、と伝えたこともある。

「まったく、これじゃ休まない方が楽だよ」

 と妻にこぼしたりもした。


 けれど半年も経つ頃には、休日の問い合わせの電話はめっきり少なくなっていた。

 仕事が減ったわけではない。

 ほかの社員たちが、経験を積んできたのだ。

 もちろん、複雑な案件では相談を受けることもあるが、それでも自分がいない前提で業務が円滑に回り始めていることを感じていた。

 週の半分も会社にいないというのは、そういうことなのだ。

 少なくとも、自分はもう仕事のメインストリームにはいない。



「何か、趣味でも始めるかな」

 そのことに気付いた日、初めて私は妻にそう言った。

「いいんじゃない」

 妻は微笑んだ。

「うんと凝ってみれば?」



 ***



 こうやってだんだん人が入れ替わり私のいない世界になるのか




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