表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

STORIES 060: 月光浴のあの娘

作者: 雨崎紫音

STORIES 060

挿絵(By みてみん)



#STORIES 060


月光浴


.


満月が近づくと、月が美しいという話題が増える。


テレビやSNSで話題になるのを待つまでもなく…

仕事の帰り道に、ふと夜空を見上げて気付いたりする。


どちらかというと、暑くない季節のほうが雰囲気が出るのかな。


夕暮れもいいけれど…

月夜は少しセンチメンタルになったりもする。


.


教室のいつもの席。


授業中、先生が黒板に書いた説明を、ボンヤリ眺めながらノートに書き写す。


でも、視界と意識の大部分を占めているのは、板書の文字ではなく…

僕のすぐ前の席に座る、その後ろ姿。


僕は恋をしていた。


真面目で控えめだけれど、話し始めると早口でまくし立てるような感じ…

話題が突然あちこちに飛んだりもする。


でも、優しい目元で、声が可愛い。


.


学校の席替えって、年に何回くらいやったんだろう?

漫画なんかだと、好きなコと隣同士でドキドキ、みたいなシチュエーションがよくあるけれど…


隣の席、よりも、前の席、じゃないかな。


振り向いてくれないと話もできない。

なのに、ずっと視界の中心にいる。


授業になんか集中できないよね。


.


僕は、決意して想いを伝えることにした。

その状況、何も行動せずにはいられなかったから。


どうやって告白したのだったか….


学校帰りに友達を付き合わせて、電話ボックスから彼女の家に電話を試みたりはしたけれど。

最終的に、放課後の教室に呼び出したりした?

なぜか思い出せない。


とにかく、彼女から返事はもらった。


「受験もあるし、友達との時間も大事にしたいから、今すぐは付き合えない。卒業まで待ってくれない?」


うん、遠回しにフラれた感じ?

ダメージが大きいな、後ろの席…


でも、学校帰りの駅までの帰り道を、何度か一緒に歩いたりすることはできた。

脈があるよな、ないような。


.


少し後で、彼女の誕生日が近付いたことを知った。


僕は、気になっていた風景写真集を贈ることにした。

ロマンティックで話題になっていたもの。

でも、大きめの本屋まで探しに行かないとみつからないかも。


そこで、学校帰りに探しに行こうと考えた。

2駅先の街の本屋さん。

何軒か回ればあるかな。


授業が終わって昇降口へ向かう途中、たまたま彼女と一緒になった。


一緒に駅まで歩くチャンスだね。

幸い、あの子も1人だ。


…いや、周りの友達が気を回してくれたのかな。

ありがたく、好機を活かそう。


それに、家は逆方向なので…

普段なら駅までしか一緒にいられないけれど、今日は違う。

僕が本屋に行くから、同じ方向の電車に乗れる。


2駅だけだけど、ね。


.


少し緊張しながら電車に乗り込む。


「今日はどうしたの?珍しいね。」


 ちょっと寄りたいところがあって、ね。


「買い物とか?

 私もついて行っちゃおうかな?」


 あ、しまった…


そうか、そういう可能性もあったのか。

気付くことなくここまで歩いてきちゃったな…


さて、どうしよう。

内緒で探してプレゼントする、それしか考えていなかったけれど…


デートみたいなこと、できちゃうね、これ。

一緒に行ってその場でプレゼントしちゃう?

いやしかし、まだ誕生日には早いし。

ついでにお茶しに行ったりもいいんじゃない?

そんなに財布に入ってたかな…


その頃の僕には、10分間では何も決められなかった。


あれこれと迷ってるうちに、目的の駅に電車が止まる。

彼女を乗せた電車を見送る羽目になってしまった。


そういえば、さっきまでの会話もろくに覚えていない。

なんだか、いろいろと残念な時間…


人生は、選択の連続だ。

迷っていると、次々とチャンスを逃してしまう。


.


「月光浴」という美しい写真集。


月明かりだけで撮影された、神秘的な写真が並ぶ。

彼女はとても喜んでくれた。


けれど…


やはり付き合うのは難しい。

いつまでも引っ張るのも悪いからと、程なくその恋は終わってしまった。


美しい月夜になると思い出す、ずいぶん昔の出来事。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ