07 イレストバック攻防戦④
イレストバックを奪還してから3日後に、ルージュとジョーヌの率いるヴィンラル軍5万が到着した。
その時にはある程度の塹壕が完成しており、迂闊に攻めると多大な被害を受けると思わせる威容であった。
「どうするっすか?」
ジョーヌの質問にルージュは即答する。
「そんなもん、突撃して蹴散らしてやれば良いのよ!」
「力攻めだとこっちも被害も甚大になるっすよ?こっちの増援が来る前に敵の増援が先に到着するかもっす。それに報告によれば、イレストバックにいる敵軍はこちらとほぼ同数らしいっす」
ジョーヌはルージュを何とか止める。
「なら貴女に策はあるの?」
「策ってほどの物はないっすけど、定石通りに先ずは攻めて見るっす。うちらはまだエスペランド軍とは戦った事はないっす。最初は様子見するのがいいっす」
「わかったわ。大した事ないってわかれば突撃するわよ?」
「それで良いっす。先ずは重装歩兵を出すっす。彼らならある程度は耐えられると思うっす」
重装歩兵は、魔導兵には劣るが防御力は高い部隊である。
「それにしてもあの堀は何なのかしら?初めて見るわ」
「そうっすね。あの長さと数は初めてっす。騎兵対策っすかね?流石にあんなに連続してあると騎兵突撃は無謀っすね」
「そうね。そう考えるのが妥当ね」
二人が塹壕について話し合っている内に、重装歩兵部隊3千が前進を始めた。
重装歩兵部隊が600メートルの距離に迫った時に、エスペランド軍から銃撃が開始された。
数発で盾を貫通し鎧も貫通して行く。
どんどん重装歩兵は斃れて行く。
このままでは全滅と見て、撤退させるがそのタイミングで敵は長距離砲(FH70)の砲撃を開始した。
重装歩兵部隊を飛び越えて、こちらの本隊まで余裕で飛んで来た。
届くと思っていなかった為に大混乱である。
「ええい!魔導兵!防ぎなさい!」
ルージュは鉄の盾を召喚し、上から降って来る榴弾を防ぐ。
魔導兵もルージュに倣い鉄の盾を次々と召喚し、何とか堪えるが魔導兵の数に対して敵の砲撃の量の方が多く全ては防ぎ切れない。
「こうなったら突撃するわよ!敵の近くに行けば誤射を恐れて撃てないはずよ!」
「わかったっす!」
ヴィンラル軍は全軍での突撃を開始した。
近付くとジャーナンド軍の射程にも入り、更に火力が増す。
魔導兵は魔導鎧と盾を使い何とか前進出来ているが、それ以外のヴィンラル兵はバタバタと倒れて行く。
「このままじゃ犠牲が多いっす!」
「わかってるわよ!」
ルージュは鉄の盾の範囲を広げて、対応するがそうすると密度が薄くなり、弾が貫通し始めた。
「一旦退くわ!退却よ!」
ヴィンラル軍は一旦撤退する。
それに伴いジャーナンド軍、エスペランド軍の銃撃も停止する。
僅か一回の交戦でヴィンラル軍は8千近い犠牲を出したのに対して、ジャーナンド軍とエスペランド軍は両軍合わせて数名の犠牲者が出た程度である。
一旦後ろに撤退し、再編中のヴィンラル軍。
「どうするっすか?」
疲れた様子でジョーヌはルージュに問いかける。
「そうね。地上からは諦めるわ」
「地上からって事は海上からっすか?」
「いえ、海からじゃないわ。艦隊を用意するにも時間が必要だし地下から行くわ」
「穴を掘るって事っすね」
「ええ、我々の方が魔導兵は多いからね」
秘密裏にヴィンラル軍は穴を掘り始めた。
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==イレストバック防衛司令部==
「ここ数日、ヴィンラル軍の動きは静かですね」
マットロック少将の呟きに、イエルク侯爵が反応する。
「そうですね。増援を待っているのでしょうか?」
「海上は既に我が軍と貴国の艦隊によって抑えています。ですのでヴィンラル軍が海上から来る場合だと早期に発見可能かと思います。
ですので援軍が来るとしたら地上からですかね」
「ええ、そうなるかと。ジャーナンドの西部にいるヴィンラル軍も今のところイレストバック奪還に向けた動きはしていない様です」
「警戒が厳重で偵察は上手くは行っていない様です」
参謀からの報告に二人は今後の方針について議論する。
「一当てして様子を見ますか?」
「そうですな。精鋭部隊による威力偵察を行う事にします。他に意見のある者は?」
参謀の一人が立ち上がり報告する。
「はっ!関係あるかわかりませんが最近兵士の間で地面から微弱な振動を感じると報告が多数上がっています。
最初は地震の前兆かと思ったのですが、振動が一定である事から人為的な物ではないかと思われます」
「ふむ、微弱な振動………しまった!すぐに地面を調査せよ!敵は穴を掘っているぞ!」
マットロック少将がそう言うのと同時に、街のあちこちから爆発が起こる。
「か、閣下!ヴィンラル軍が地面から現れたと報告が!」
「やられた……即応部隊を動かせ!」
司令部は途端に慌ただしくなる。