第7話「Guilty! 怪盗対名探偵! 」
3分間だけ探偵団! ~読者が決めるものがたり~
第7話「Guilty! 怪盗対名探偵! 」
【絵画盗難:出題編】
【1】
妖怪探偵・矢面京子には母と交わした約束が3つある。
ひとつ、人の悪口を言わない。
ふたつ、感謝の気持ちを忘れない。
みっつ、これが一番だいじ。友だちを大切にする。
京子の母、矢面美弥子には、仲の良い友だちが3人いた。
ひとりめ、魔法使いの女の子。
ふたりめ、警視庁のカタブツ刑事。
さんにんめ、彼女が一番の仲良し。その名も高き大泥棒。
【2】
矢面妖怪探偵事務所に所属する妖怪、従業員番号005のあばれ八尺(八尺様)の特技は「声帯模写」だ。彼女は自分の声を持たない代わりに、誰かの声をそっくりそのまま真似て出すことができる。かつてはこの能力を使って、人間を油断させて闇に引きずり込むようなこともしていたが、京子の父・矢面西文に調伏されて改心し、二度と悪いことには使わないと決めた。だからこれは、不可抗力であった。
『はい、お電話ありがとうございます』
事務所の電話が鳴ったときに、たまたま受話器を取れるのが八尺しかいなかった。身長2メートル40センチの八尺が腰をかがめて電話応対をする。八尺はこの探偵事務所の亡き所長、京子の母でもある矢面美弥子のよく通る声で喋った。それが大きな間違いであった。
『矢面探偵事務所です。本日はどのようなご用件でしょうか?』
『あっ! もしもし美弥子!? あたしよ! ひさしぶりね! 元気だった?』
『?』
快活な女性の声だった。八尺の眉間にしわが寄る。受話器を突き抜ける大音量に、事務所にいたほかの妖怪たちも「なんだ、なんだ」と電話の周りに集まって来た。
八尺が仲間たちに「……」と首を振る。彼女の能力は人の声を覚え、それを山彦のように返すことだ。その特性上、いちど聞いた声は絶対に忘れないし、簡単に真似ることができる。その彼女が「分からない」と言っているのだから、心当たりがないのだろう。
妖怪たちが首をかしげているとも知らず、電話口の向こうでは女性が一方的にしゃべり続けている。
『美弥子! あんたのメールアドレスに連絡入れても何の返事もないし! ずっと音沙汰ないから心配していたのよ! 死んだかと思ったじゃないの! 生きているなら「あ」でも「い」でもいいから、きちんと返信しなさいよ! まったく!』
『……』
八尺が困った顔でうしろを振り返る。彼女の目線のはるか下で、見た目は小学生のおかっぱの少女、トイレの花子さんことハナがうなずいて、2、3回ほど右手を振った。
八尺が受話器を握り直し、コホンと咳払いして、告げた。
『まことに申し訳ありませんが、矢面美弥子は1年前に亡くなりました』
『あのね。つまんない冗談やめてよね。あたし、誰かが死んだ系のウソが一番きらいなの』
『……』
『まァ、とにかく、無事だったんならそれでいいわ。あんたがいないと面白くないしね。
今、国立美術館に来ている外国の名画があるでしょ?
あれ、3日後に盗みに行くから。いいわね? くやしかったら、あたしを止めてごらんなさい。警察に予告状も出しておくからね。よろしく』
それだけ伝えると、電話は唐突に切られた。
妖怪たちが判断に困っていると、ちょうど小学校から京子が戻って来た。
短い髪に寝癖がピンとついている。授業中に居眠りでもしていたのだろうか。
「ただいま」
靴を脱いだ京子が鞄を置き、手洗いうがいをして、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
彼女がコップにそれを入れている間に、八尺が一部始終を説明した。
すると京子は、もともと大きな目をさらにまん丸くして驚いて言った。
「それは、お母さんのお友だちの怪盗ノワールさんじゃないですか?
5年前に宝石か何かを盗むために外国に行ったって聞いていましたけど、この国に帰ってきたんですね」
【3】
その翌日、警視庁特務課に所属する神宮寺刑事から電話がかかってきた。
ナンバーディスプレイに「ケイサツ:ジングウジさん」と表示されたのを確認して、矢面妖怪探偵事務所の電話番、口裂け女の咲き子が落ち着いた声で対応する。
「お電話ありがとうございます。矢面妖怪探偵事務所いちの美女、口裂け女の咲き子がご用件をお伺いします。この電話は録音されています。ピーッという発信音のあとに、『私きれい?』とお尋ねしますので、私の美しさを全力で褒めたたえてください。さもないと呪われますわよ。ピーッ。私きれい?」
『きみはいつだって美しいよ。京子ちゃんは電話に出られるかい?』
「おほほ、少々お待ちくださいませね」
京子が電話を替わり、周りの妖怪たちにも聞こえるようにスピーカーをオンにする。
「はい、京子です」
『京子ちゃん、すまない、5年前に世間を騒がしていた「怪盗ノワール」から予告状が届いたんだ。国立美術館に来ている外国の名画があるだろう? あれを盗むと言っている』
「はい」
『あまり驚かないね? あれを盗まれたり傷つけられたりしてしまうと国際問題に発展するんだ。だから警察としてはなんとしてでも絵画は守らないといけないし、怪盗をつかまえられないまでも、撃退しないといけなくてね』
「そうでしょうね」
『警察も総力を挙げて絵画を守るつもりだが、怪盗ノワールは「普通の人間に私を止めるのは無理だ。私をつかまえたければ名探偵と言われた矢面美弥子か、超能力者を連れて来い」と挑発してきた。……ならば超能力者を出すしかない』
「お母さん、もういないですからね」
『すまないね。怪盗ノワールはわりと律義に約束を守るから、指定した日時に絵画を盗めなかったらきっちり諦めてくれるはずなんだ。やってくれるかい?』
「もちろんです。お母さんのお友だちですし」
すると京子の周りに怪人赤マントのアカマと、百キロババアこと、見た目はポニーテールの女子高生キロロがやって来て、「値段をつりあげろ」と書いた紙を見せた。2人のうしろにはメリーさんが立っていて、京子にむかって可愛らしくウインクをする。
京子は大きく息を吸い込んで言った。
「神宮寺さん。報酬の点数を増やしていただいてもよろしいですか?」
『そんなに露骨に値上げ交渉をされるとは思わなかったよ。国から提示された今回のポイントは20点だが、足りないかい?』
周りの妖怪たちが拳を振り上げ、無言で足を踏み鳴らす。
京子は事務所のコルクボードに貼られたメモに視線を走らせた。
『現在のポイント:446点/666点で妖怪たちは解放される』
「あと4点もらえませんか?」
『分かった。24点で上と掛け合ってみよう』
京子は受話器を置き、妖怪たちに問いかけた。
「というわけで、今回は24点の仕事になりました」
でかした、とキロロが親指を立てる。京子が言った。
「ところでおとといから気になっていたんですが、あの端数の6点は何ですか?」
「お前が熱で寝込んでいる間に、みんなでゴミ拾いをして6点稼いだんだよ」
アカマが赤いシルクハットを目深にかぶりながらぶっきらぼうに答え、ほかの妖怪も否定しなかった。
京子はアカマがシルクハットを深くかぶって視線を合わせようとしないのは、何か気まずいことがあるときだという事実を経験で知っていたが、あえて何も聞かなかった。
「さて、今回の出撃メンバーを話し合いで決めましょうか」
と、京子が言うと妖怪たちの口元がほころんだ。
「今回はお母さんのお友だちが相手です。斬ったりはったりというやりとりはないと思いますが、絵を傷つけたりすると怒られると思いますので、気をつけてくださいね」
「怒られるぐらいで済むといいけどねえ」
ハナが頭のうしろで手を組む。「下手に暴れて絵画を汚損させたら減点されるわよ」
『デハ、適任ナノハ、速ヤカニ敵ヲ取リ押サエラレル妖怪トイウコトニナルナ。
デキレバ、でりけーとナ作業ガ得意ナ者ガ行クベキダロウ』
見た目はポメラニアン、中身は人面犬のワンダ・フル3世が後ろ脚で首筋を掻きながら言う。『アトハ、敵ガ変装シテキタ時ニ見破レル、勘ノ鋭イヤツガ必要ダナ』
「所長、私は嗅覚が優れていますから、人間の変装ぐらいなら見破れますよ」
咲き子が胸を張ると、メリーも続ける。
『わたし、メリーさんよ。気配を消して人のうしろに立つのが得意なの』
「つまり、まとめるとこういうことですね」
自分のすぐうしろに立っていたメリーに多少なりとも驚きながら、京子が分かりやすく説明をした。
【4】
今回の目的:怪盗ノワールから絵画を守ること。
今回の任務にはスキル「気配を消す」を持っている妖怪と、スキル「変装を見破る」を持っている妖怪が、1体以上ずつ必要である。ひとりで両方のスキルを持っている妖怪が参加した場合は、その1体のみで条件を達成できる。
また、必須ではないが、スキル「力が強い」を持っている妖怪が1体以上参加していると、京子の能力が暴走したときに抑えてくれるので安心だ。
以上の条件をふまえて、今回の出撃メンバーを神宮寺に選んでもらう。
【出撃メンバー選択 条件に合う任意の3体をリストから選んでください】
▼従業員番号001 ワンダ・フル3世(人面犬)
超能力で未来予知をできる場合がある。スキル「変装を見破る」を所持。
▼従業員番号002 キロロ(百キロババア)
最大速度マッハ1・5で移動できる。スキル「力が強い」を所持。
▼従業員番号003 咲き子(口裂け女)
嗅覚と視覚、聴覚に優れており、常人が気づかないことに気づく場合がある。スキル「変装を見破る」を所持。
▼従業員番号004 アカマ(怪人赤マント)
体中に殺傷能力の高い凶器を多数隠し持っている。スキル「気配を消す」を所持。
▼従業員番号005 あばれ八尺(八尺様)
背が高くて怪力。スキル「力が強い」を所持。
▼従業員番号006 ハナ(トイレの花子さん)
水の近くにいれば無敵。見かけによらず力が強い。スキル「気配を消す」「力が強い」を所持。
▼従業員番号007 メリー(メリーさん)
様々な姿に擬態(変身)できる。足音も立てずに対象に近づくのが得意。スキル「気配を消す」「変装を見破る」を所持。
■所長 矢面京子(人間・強制参加)
妖怪を3体まで自由に外に連れ出すことができる。
ピンチのときは3分間だけ「妖怪変化」というスキルを使い、そばにいる仲間の妖怪すべての力を合わせ持った超人になることができるが、3分以内に能力を解かないと自制を失って暴走する。そのあとは誰かに事務所(結界の中)に連れて帰ってもらうまで止まらない。
【作者からの依頼状】
この小説は読者と作者とで協力して作り上げる物語です。
京子と仲間たちの活動を助けてくれる方は、上記の「出撃条件」をお読みになったうえで、感想欄にて出撃メンバーを「提案」してください。
例:次の作戦(絵画盗難:出撃編)に行くのは【ワンダ、咲き子、八尺】 …など。
感想を書いていただく際に、そのメンバーを選んだ理由まで述べていただいても、もちろん構いません。
一定の募集期間を経たのち、いただいた感想の中からひとつを選ばせていただき、作者がその設定で物語の続きを書かせていただきます。
なお出撃メンバーの選定は多数決ではありません。
あくまでも物語として、もっとも京子たちが活躍できる組み合わせを選ばせていただきます。
物語の性質上、みなさまからの感想やコメントがないと、この話はここで終わってしまいます。
みなさまのご参加を、心よりお待ちしております。
(第8話【絵画盗難:出撃編】に続く)