第4話「Danger! 兄、襲来! 狙われた街!」
3分間だけ探偵団! ~読者が決めるものがたり~
第4話「Danger! 兄、襲来! 狙われた街!」
【ゴミ拾い:出題編】
【1】
妖怪探偵・矢面京子には愛する3人の家族がいた。
ひとりめ、大好きだった父。
ふたりめ、大好きだった母。
さんにんめ、一番大好きだったけど、いなくなってしまった兄。
京子の仲間の妖怪たちは、3つの誓いを立てている。
ひとつ、なにがあっても、京子を守る。
ふたつ、たとえ本当の家族になれなくても、京子の姉として、兄として接する。
みっつ、これが一番だいじ。京子と実の兄を会わせてはいけない。
【2】
深夜12時のベルが鳴った。矢面妖怪探偵事務所のベッドルームは、重苦しい空気に包まれていた。
「……」
「……」
ベッドには意識を失った京子が寝かされている。掛け布団の上から触っても分かるほど身体が熱い。額には玉のような汗をかき、ぜいぜいと粗い呼吸をしながら、苦しそうにうなされている。八尺が腰をかがめて氷枕を変えたり、水で濡らした冷たいタオルを額に載せたりして「……」と、無言で看病する。京子の熱く火照った右手を、ポメラニアンのワンダが一心に舐め続けていた。
「クゥン、クゥン!」
「……」
「……」
誰も、何も言えない。
今から数時間前のこと。警察に依頼された爆弾解体の任務はつつがなく終了した。そして、爆弾に取り憑いていた妖怪を浄化しようとして、京子は気を失って倒れた。
咲き子が、気絶した京子を両腕で抱きかかえて事務所に戻って来たとき、留守番をしていた妖怪たちはすべてを悟った。京子が「また」禁断の除霊術を使ったのだと。
「くそっ!」
かつて怪人赤マントと呼ばれていたアカマが、やり場のない怒りをこぶしにこめて、壁を何回も打ち付ける。
「京子のやつ……、自分の身体に悪霊を取り込んで浄化する方法は、よっぽど修行を積んだ坊さんか、徳の高い大人の霊能者にしかできないって、何度言ったら分かるんでい!」
「まァ、キョーコにだって、時間をかければ、除霊できないわけではないからね」
トイレの花子さんことハナが、見た目に反して大人っぽい艶やかな表情でため息をつく。
「アカマ。気持ちは分かるけど落ち着いて。お説教は、キョーコが目を覚ましてから、たっぷりとするとしましょう」
ハナが言って、急に眼を見開いた。
「ちょっと待って、キョーコの口が動いてる! この子、何か言ってるよ!」
ハナの叫びを聞いて、全員が一斉に京子の枕元に集まった。珍しく、皆の前に堂々と姿を見せているメリーが率先して京子の口元に耳を近づけ、彼女の言葉を代弁しようとする。それを見てアカマが尋ねた。
「おいメリー。京子のやつは、なんて言ってるんでい?」
「……、わたし、メリーさんよ」
「それしかしゃべれねーなら、無理して言おうとするんじゃねえや!」
『わたしが頑張らなきゃ。これで440点』
あらぬ方向から京子の声が聞こえた。全員の視線がそちらに集まる。壁に寄りかかるようにして立っているのは八尺だった。彼女は他人の声真似ができるのだ。
『これで440点。あと226点』
八尺が京子の声色で続ける。これは妖怪八尺様が持っている固有の能力だ。本来は呪い殺したい相手に近づき、その人が一番信頼している者の声を真似て外におびき出すためのものだが、今はもう、そういう目的で能力を使う必要がなくなった。
『これで440点。あと226点……』
京子は必死で訴えている。しかし目を覚ましたわけではない。寝言でつぶやいているのだ。
八尺は京子の唇の動きを読んで、熱に浮かされている彼女の言葉を代弁した。
『これで440点。あと226点集めれば、みんなを自由の身にできる。がんばらなきゃ。わたしが、がんばらなきゃ。これで440点……』
「……」
「……」
『わたしが、がんばらなきゃ。みんなを幸せに……、……。』
八尺が口を閉ざして目を伏せた。全員が、気まずそうに視線を斜めにずらす。京子は意識を失って、自分自身が生死のはざまをさまよっているこの状態でなお、仲間の妖怪たちのことを気づかっているのだ。
「京子」「キョーコ……」「所長……」『キョウコ……』
そのとき。真夜中だと言うのに、事務所のドアが荒々しく開く音がした。
全員がはっとして玄関の方を見る。何人かが身構えた。
【3】
ベッドルームのドアが開いた。
入ってきたのは、長身の青年だった。年のころは二十歳ぐらいだろうか。柔らかい髪の毛を額に垂らし、整った目鼻立ちをしている。グレーと黒で統一された衣服を身に着け、フレームのない眼鏡をかけたその青年は、どことなく京子に似た顔立ちをしていたが、目つきが鋭く、性格もきつそうな印象を受けた。
青年は、誰の目から見ても分かるほどあからさまに怒っていた。居並ぶ妖怪たちを順番ににらみつけ、深いため息をついてから、言った。
「京ちゃんの霊力が弱くなったから慌てて飛んでくれば、やはり、こういうことだったか。無能な妖怪どもめ。母さんとの約束も守れないのか?」
「うっせえよ! 約束を守ってねーのはテメーの方だろーがよぉ!」
キロロが敵意をむき出しにして怒鳴る。
「テメー、京子の前で何をしたのか、忘れたとは言わせねーぞ!? こういう時だけノコノコと現れやがって。二度と妹には近づかないって、美弥子に誓ったのを覚えてねーのかよ!」
「妖怪ふぜいが、母さんの名前を気安く呼ぶな!」
青年が激高して、キロロの胸倉をつかんだ。キロロが相手の頬をひっぱたこうと、反射的に手を振り上げたが、仲間の妖怪たちがその腕にぶらさがって、強引に引き止めた。
「やめるんでい、キロロ!」
アカマがキロロの腕を抑え込んで必死に言う。
「気持ちは分かる! おいらだって、そいつをぶっ飛ばしてやりてえよ! だけど!」
「ふん。いっそ殴ってくれたら、正当防衛で、遠慮なく魂ごとこの世から消し飛ばしてやったのにな」
青年は言って、キロロを片手で突き飛ばした。尻もちをついたキロロが「テメー!」と叫んで立ち上がろうとするが、ワンダが服の裾に嚙みついて、一生けん命、座らせようとする。
『ヤメロ、きろろ。あかまノ 忠告ヲ 無駄ニスルナ』
テレパシーで必死に訴える。「……」、キロロの手がだらんと下がった。燃える目で青年を見上げる。
咲き子がふたりの間に割って入り、落ち着いた口調で言った。
「それで、東馬さま? こんな夜更けにどんなご用ですか?」
「ふん。兄が妹の様子を見にくるのに理由がいるのか? ついでに、お前たちに仕事を持ってきてやった。感謝するんだな」
青年――京子の実兄、矢面東馬はポケットから取り出したくしゃくしゃの紙を床に投げ捨てた。それがワンダに命中し、彼は「キャウン」と声を立てる。ハナが拾って紙を広げて声に出して読み上げた。そこにはこう書いてあった。
『仕事の内容。ゴミ拾いのボランティア。6点』
「6点!? 安すぎるわよ!」
抗議するハナに東馬は、侮蔑をこめた視線を投げつけた。
「妖怪ふぜいが、人間様にご奉仕できるだけでもありがたいと思え」
「それにしても6点は低すぎるでしょ!?」
「ふん。いやならここを出て行ってもいいんだぞ? もっとも、警察の保護観察下にあるお前たちが、矢面家の人間の許可なく外出したら、即座に調伏の対象になるけどな? くっくっく……」
「ちっ……」
ハナが舌打ちをした。東馬が続ける。
「勘違いするな。俺は『仕事をやってください』とお願いしているわけじゃない。『仕事をしろ』と命令しているんだ。そして、京ちゃんが眠っている以上、お前たちを外に連れ出せるのは、矢面家の長男である俺だけだ」
「覚えてなさいよ! キョーコが目を覚ましたら、あんたなんか、すぐに追い出してやる」
「口の利き方に気をつけろよ、便所虫」
東馬が右手の親指と人差し指で、ハナの頬を両側から強めにつかんで口をふさいだ。
「いいか。優しい京ちゃんが本当のことを言わないから、俺が代わりに言ってやる。お前たちがいるから、京ちゃんは苦労しているんだ。見ろ」
東馬があごをしゃくって皆の視線を京子の方に促す。
「あの汗のかき方、尋常じゃない。おおかた、警察の依頼で強い悪鬼と戦って、魂を消しきれず、京ちゃんが自分の身体に取り込んで除霊しようとしたんだろう? 違うか?」
「……」
「お前たちは疫病神だ。きさまらが京ちゃんのそばにいる限り、彼女はいつだって無理をする。たった10歳の女の子だぞ。彼女を哀れと思うなら自ら腹を切って成仏しろ。それができないなら、京ちゃんに怪我をさせるな! お前たちが任務の途中で命を落とすのは勝手だが、京ちゃんを巻き込むな!」
「……」
「京ちゃんを傷つけた罰だ。できることならこの場で全員、調伏してやりたいが。……京ちゃんが悲しむから、そんなことはしないけどな」
「ふん」
「だが、外での仕事中に、お前たちが俺に逆らうと言うのなら、話は別だ」
そう言って、東馬が鼻に手を当てた。そして歪んだ笑みを浮かべる。
「お前たちが外で暴れた場合、矢面家の人間には、独断でお前たちを処分する権限が与えられている。くっくっく、俺は大人だからな、自分の意志で、仕事に連れていく妖怪を3体選べるぞ。さあて、誰を連れていこうかな? なるべく俺に反抗的で、仕事中に逃げ出すような妖怪がいいな。そうしたら遠慮なく攻撃できるからな。さて、誰がいい?」
と、部屋にいる妖怪を、1体ずつ順番に見渡していく。
「誰にしようかな? 人面犬か? 百キロババアか? 口裂け女か? それとも怪人赤マントか。八尺様は的がでかくていいな。逃げ出したとき、うしろからの攻撃を当てやすい。それとも生意気な便所虫か? あるいは……、……」
東馬の言葉がそこで止まった。視線を左右に動かしたが、最後の1体がどこにもいない。
舌打ちをしつつ、東馬はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、通話アプリを起動した。しかし何回コールしても相手は出ず、東馬の怒りが頂点に達したところで、ようやく反応があった。
『もしもし。わたし、メリーさんよ』
「おい妖怪女! きさま、こそこそ隠れてんじゃねえぞ!」
『わたし、メリーさんよ。あなたには見つからないわ。べろべろばー』
「……、つぶす!」
「あのー、東馬さま、ちょっとよろしいかしら?」
若干、声と肩を震わせながら、咲き子が笑いをこらえつつ進言する。
「なんだ、口裂け女?」
「見ての通りの状態ですから、しばらくの間は、所長を看病する者が必要ですわ」
「俺は呪われているから、京ちゃんには触れられない」
「よく存じております」
「だから朝になったらかかりつけの医者を呼ぶ。当然だ」
「お医者様だって、お忙しいですから、ずっとつきっきりで居てくださるわけではないでしょう? ゴミを拾っている間中、事務所には最低限、おかゆなどの病人食が作れる妖怪を残してくださると助かるのですが?」
「ふん。気が利くな。それで? おかゆが作れるのは誰と誰だ?」
何体かが手を挙げる。東馬はそれを目で確認してから、眼鏡を指で押し上げて言った。
「つまり、まとめると、こういうことだな」
東馬が分かりやすく説明をした。
【4】
今回の目的:路上に落ちているゴミを拾って街の美化に務める。
東馬の強い希望により、今回の任務にはマイナススキル「反抗心」を持っている妖怪と、スキル「逃げ足が速い」を持っている妖怪が、それぞれ1体以上ずつ必要です。ひとりで両方のスキルを持っている妖怪がエントリーした場合は、その1体のみで条件を達成できます。
また、事務所に残るメンバーの中に、スキル「おかゆが作れる」を持っている妖怪が1体以上含まれていないと、京子が目を覚ましたときに病人食を作れません。
そして、必須ではありませんが、スキル「力が強い」を持っている妖怪が1体以上仕事に参加していると、東馬の能力が暴走したときに抑えてくれるので、安心です。
以上の条件をふまえて、今回の出撃メンバーを自由に選んでください。
【出撃メンバー選択】
従業員番号001 ワンダ・フル3世(人面犬) 超能力で未来予知をできる場合がある。スキル「逃げ足が速い」を所持。
従業員番号002 キロロ(百キロババア) 最大速度マッハ1・5で移動できる。スキル「反抗心」、「逃げ足が速い」「力が強い」を所持。
従業員番号003 咲き子(口裂け女) 嗅覚と視覚、聴覚に優れており、常人が気づかないことに気づく場合がある。スキル「逃げ足が速い」「おかゆが作れる」を所持。
従業員番号004 アカマ(怪人赤マント) 体中に殺傷能力の高い凶器を多数隠し持っている。スキル「反抗心」を所持。
従業員番号005 あばれ八尺(八尺様) 背が高くて怪力。説明不要。スキル「おかゆが作れる」「力が強い」を所持。
従業員番号006 ハナ(トイレの花子さん) 水の近くにいれば無敵。見かけによらず力が強い。スキル「反抗心」「おかゆが作れる」「力が強い」を所持。
従業員番号007 メリー(メリーさん) 様々な姿に擬態(変身)できる。足音も立てずに対象に近づくのが得意。スキル「逃げ足が速い」を所持。
所長代理 矢面東馬(人間・強制エントリー) 妖怪を3体まで自由に外に連れ出すことができる。ピンチのときは3分間だけ「妖怪変化」というスキルを使い、そばにいる仲間の妖怪すべての力を合わせ持った超人になることができるが、3分以内に能力を解かないと自制を失って暴走する。そのあとは誰かに事務所(結界の中)に連れて帰ってもらうまで止まらない。
【作者からの依頼状】
この小説は読者と作者とで協力して作り上げる物語です。
東馬と仲間たちの活動を助けてくれる方は、上記の「出撃条件」をお読みになったうえで、感想の「一言」欄にて出撃メンバーを「提案」してください。
例:次の作戦(ゴミ拾い:解決)に行くのは【ワンダ、キロロ、ハナ】 …など。
感想を書き込みメンバーの提案をする際に、その理由まで述べていただいても、もちろん構いません。
一定の募集期間を経たのち、いただいた提案の中からひとつを選ばせていただき、私が物語としてその設定で紡がせていただきます。
多数決ではありません。
物語の性質上、みなさまのコメントを、心よりお待ちしております。
(2022/11/15 追記 第5話にて任務に当たる妖怪は決まりました。メンバー選出に関しては新規の募集を〆切ます。ご提案ありがとうございました)
(第5話【ゴミ拾い:出撃編】に続く)