第3話「Crisis! お願い! 愛に時間を!」
3分間だけ探偵団! ~読者が決めるものがたり~
第3話「Crisis! お願い! 愛に時間を!!」
【不発弾処理:解決編】
【1】
妖怪探偵・矢面京子は「妖怪変化」という技が使える。
ひとつ、変身には特殊なカードが必要。
ふたつ、カードは全部で35枚ある。
みっつ。これが一番だいじ。そのときそばにいる妖怪が誰かによって、使えるカードが変わってくる。
京子は仲間の妖怪たちから、3つの力を得ることができる。
ひとつ、ひとりめの妖怪の能力。
ふたつ、ふたりめの妖怪の特技。
みっつ、これが一番だいじ。さんにんめと同じ性格。
【2】
不発弾に取り憑いていた妖怪「以津真天」が本来の姿を現した。
怪鳥である。顔は人間のようでいて、体は蛇のようにも見える。曲がったくちばしにノコギリのような歯が並び、両足の爪はナイフのように鋭い。翼を広げると5メートルほどになるだろうか。闇夜を覆い隠すような巨大な鳥が体をくねらせて、上空から京子たちに襲い掛かってきた。
「クェェェェェェエエエエッ!!」
耳をつんざく奇声を上げ、京子たちを生け捕りにしようと爪をかざして急降下する。口裂け女の咲き子が切れ長の目をぎょろりと見開き、冷静に、されど原初の恐怖を呼び起こす冷たい声で仲間たちに指示を出した。
「キロロ! ふたりを抱えて、前に走りなさい!」
『!!!』
上空から襲い来る以津真天に対して、反射的に身をかがめて後方に跳びのこうとしていた百キロババア(見た目は女子高生)のキロロは、その指示に従って、自分の前に立っていた京子とメリーを、それぞれ右腕と左腕で抱えた。そしてふたりを両脇に抱えたまま百メートルを5秒のスピードで走り抜け、急ブレーキをかけて振り返った。
すでに降下体勢を取っていた以津真天は急に方向を変えられず、獲物がいきなり視界から消えたので戸惑った様子だった。
その一瞬の迷いを見逃さない。
ひとりだけその場に残った咲き子が、顔の下半分を覆っていたマスクを外して大地に投げ捨てた。そして大きく息を吸い込んで、以津真天に向かって叫んだ。
「以津真天! 動くなッ!」
『!! クェェェェ!?』
以津真天が硬直した。突如として、石の塊になったかのような不自然な体勢で地面に激突して、轟音を立てて横倒しになる。
『クエエエエ!?』
「ふぅぅぅぅ………ッ!!」
咲き子が両腕をだらりと下げて、背中を丸めて大きく息を吐いた。
フルパワーで言霊を放ったのは久しぶりだ。
咲き子がかつて悪鬼と呼ばれていたころ、路上でたくさんの人間たちに「私、キレイ?」と声をかけた。その言葉にすくみ上がり、震えて動けなくなる姿を見て、彼女は耳まで裂けた口を大きく開いてケタケタと笑っていた。そんな風に過ごしていた時期が咲き子にはあったのだ。
人間に嫌われ、ポマードを投げつけられる毎日だった。嗅覚が人より優れており、匂いに敏感な彼女にとって、ポマードは涙が出るほどの刺激臭だった。人間に襲われるから、人間を襲い返す。永遠に終わらない負の連鎖を断ち切ってくれたのは、京子の父親だった。その日から、咲き子はこの「言霊」の能力を、彼の娘を守るためだけに使おうと決意したのだ。
人間と妖怪の身体には魂と魄が宿っている。精神を司るのが魂であり、体の動きを制御しているのが魄だ。かつて中国の張桂芳という道士が相手の名を呼び「そこを動くな」と命じると、呼ばれた者は魂と魄の連携がちぐはぐになって身体が動かなくなり、その場で硬直したという伝説が残っている。
咲き子もそれと同じことができる。彼女の声には催眠効果があるのだ。咲き子の言霊攻撃をまともに食らった以津真天はしばらく動けない。大地に横たわり、グルグルと不気味な音を立てて喉の奥を鳴らすだけだ。
「フー、フー」
咲き子が息をつく。そのとき、肺の奥からこみ上げてくるものがあり、思わずえづいた。
「うっ……ゴボッ!」
咲き子がゴボンと嫌な音を立てて咳き込んだ。喉の奥から吐血したが、袖で素早く口元を覆い、京子たちに見えない角度でその血をぬぐって、何食わぬ顔をする。
赤いトレンチコートなので、しばらくは気づかれないはずだ。時間が経つと血が黒ずんでくるので、そうなる前に片をつけなければならない。コートに血がついていることがバレたら、きっと京子が心配する。
顔を上げ、咲き子が声をふりしぼった。
「ゴホッ、ゴホッ……キロロ、メリー! しばらく以津真天は……ゴホッ、動けない! 今のうちに抑えて……!」
「咲き子!! マズイ! うしろから別のやつが来る!!」
声を放つと同時に、キロロが大地を蹴って跳躍した。ポニーテールを結わえていたゴムバンドが空気との摩擦熱ではじけ飛び、彼女の身を包んでいたセーラー服も一瞬でボロボロになる。音速を越えた彼女の身体は巨大な鉄の塊となって、咲き子の後方、今まさに、彼女を飲み込もうとしていた巨大ながいこつにぶち当たり、よろめかせた。
咲き子が振り向いて、青ざめた。
「もう1体!? いつの間に!?」
『ガチ、ガチ、ガチ、ガチ』
いったい何メートルあるのだろうか。「天に届くほど大きい」としか言いようのない巨大なドクロが、歯をかみ合わせて、ガラガラ蛇やスズメバチのような威嚇音を出している。肉も骨もないがいこつなのに、目だけは生身の状態でぎょろぎょろと左右に動いているのが、神経を逆なでするほど不気味だ。
額に汗をびっしょりとかき、長い髪を頬に張りつけたキロロが、チッと舌打ちして巨大なドクロを斜めに見上げた。
「妖怪『がしゃどくろ』までいやがるのか! 人間どもめ! あいつら、ここで眠っていた死体を、ずっとそのままにしてたのかよ!」
【3】
妖怪「以津真天」は戦場で無残に殺されたまま放置され、いつまでも供養してもらえなかった死体が「いつまで私を放っておくのだ。いつまで、いつまで……」と無念の声を上げたものが妖怪化した存在である。
同じく、妖怪「がしゃどくろ」は戦死者や野垂れ死にして、誰からも埋葬されなかった死者たちの怨念が集まって、巨大ながいこつの姿になったと言われている。
どちらも似たような出生の妖怪ながら、この2体が同時に現れたという目撃情報は聞いたことがない。
京子たちが今いるこの場所はもともと、使いどころがないとされて行政からも見捨てられていた荒れ地である。詳しくは歴史をひもといてみないと分からないが、これだけ戦死者の怨念が集まっているところを見ると、よほどひどい戦争があったのだろう。
周囲に暮らす人たちは、戦争のことも、死んだ人たちのことも全部忘れて平和に生きていた。それは悲しいことであり、幸せなことなのかもしれない。
咲き子とキロロのはるか後方、メリーに守られながら、青ざめた顔をしている京子が、スマートフォンを操作して、誰かと連絡を取っているのが見える。恐らく神宮寺刑事に現状を報告し、祈祷師の手配をしているのだろう。
いずれこの地には大掛かりな地鎮祭が必要になる。だがそれも、まずは目の前にいる以津真天とがしゃどくろを退けてからだ。
「!! しまった! 以津真天の催眠が解ける……!」
『クェェェ……いつまで……いつまで……』
ショック状態から立ち直った以津真天がゆっくりと身を起こした。咲き子はひざに手を当てて上体を起こし、力をふりしぼってもう一度叫ぼうとするが、吐血を伴う咳が出るばかりで、満足に声が出せない。
「ゴホッ、ゴホッ……こんなときに……!」
『ガチ、ガチ、ガチ、ガチ』
先ほど、キロロの重い体当たりを食らってよろめいていたがしゃどくろも体勢を立て直し、大きな手を広げて、目の前にいるおてんばな女子高生を握りつぶそうとする。
キロロはボクシングのファイティングポーズを取り、華麗なステップで右に、左にと動きながらがしゃどくろとの距離を詰めようとする。
相手のふところに入れれば、音速で繰り出されるキロロ必殺の「ビックバン・マグナムパンチ(命名:京子)」をがしゃどくろに叩きこむことができるが、腕が長く、巨体のわりに素早い動きをする敵に翻弄されて上手く立ち回ることができない。
「ちくしょう、八方ふさがりかよ……!」
「ゲホッ、キロロ……」かすれた声で咲き子が言う。
「所長のところに戻って……彼女の護衛を……早く……」
「あァん!? そんなことしたら、テメーはどーすんだよ!?」
口調は荒いが、キロロなりに咲き子の身を案じて叫ぶ。
咲き子が耳元まで裂けた口を大きく開けてにやりと笑う。
「私なら大丈夫……美人は……そう簡単に死なないのよ……!」
言葉とは裏腹に、こめかみに冷や汗がつたう。キロロが「チッ」と舌打ちして咲き子のそばに寄り添った。そして目の前に迫る以津真天とがしゃどくろに向かってこぶしを構えて、正面からにらみつける。
「来るならきやがれ! このキロロ様が、0.5秒で返り討ちにしてやるぜ!」
『クェェェ……いつまで……いつまで……』
『ガチ、ガチ、ガチ、ガチ………』
そのとき。キロロと咲き子の眼前まで迫っていたがしゃどくろが、急に動きを止めた。カクン、とおかしな方向に首をかしげ、そのまま、体を前に向けたまま頭だけを真後ろに向ける。人間ならばありえない動きだ。
『ガチ、ガチ、ガチ……?』
「わたし、メリーさんよ」
いつの間にか、メリーが、がしゃどくろの背後、腰骨の辺りにへばりついていた。三百年前の外国の貴族のようなドレスのスカートのすそをひるがえし、両腕に力をこめて、しっかりとがしゃどくろをつかむ。
メリーが大きな声で言った。
「わたし、メリーさんよ! 今、あなたを背後にぶん投げるの!!」
いつものか細い声ではなく、腹の底からふりしぼったような魂の叫びだった。メリーはそのまま大地に両足を踏ん張り、渾身の力でがしゃどくろを持ち上げて、後ろ向きにのけぞった。そして腹筋と背筋の力だけで、巨大ながしゃどくろを、頭を下にした状態で固い地面にたたきつける。見た目は中学生ぐらいの小柄なメリーが、自分の何倍もの巨体を後ろ向きに投げ飛ばす姿は爽快であり、キロロも思わず見とれるほどあった。
「すげえ! お前、すげーよ、メリー!」
「わたし、メリーさんよ! 今、あなたに技を決めたの!」
どおおおん、と大地が鳴動する。メリーさんのバックドロップをまともに食らったがしゃどくろが、目をぐるぐると回してグロッキー状態になった。以津真天が目に見えて怯んだ。
『クェェェ……いつまで……いつまで……このままでは……このままでは……』
以津真天が動いた。キロロと咲き子が両腕を顔の前で交差させ、とっさに防御姿勢を取るが、以津真天は彼女たちとは反対方向、メリーのバックドロップを食らってのびているがしゃどくろの方へと向かった。
『いつまで! いつまで!』
『ガチ、ガチ、ガチ……!』
咲き子たちは目を見開いた。以津真天の巨体が、がしゃどくろの胎内に吸い込まれるように消えていく。
2体の妖怪は混じり合い、合体して驚異の進化を遂げた。現れたのは、天にも届くかと言う巨大な怪鳥。ところどころで肉が削げ落ち、中の骨が見えている不気味な姿は、さながら死の淵からよみがえった屍食鬼のようだ。
遠くからピュイッ、と指笛の音がした。
「咲き子さん、キロロさん、わたしのところまで戻ってきてください」
京子が可愛らしい指を口に当てて、咲き子たちの方をまっすぐに見ていた。不覚にも放心していた咲き子とキロロは我に返り、京子がいる方を見る。京子のとなりには、いつの間にかメリーが立っていた。
京子は目深にかぶっていた野球帽のつばを指で押し上げて顔を見せ、凛とした声で、仲間たちに告げた。
「わたしたちも合体しましょう。目には目を、歯には歯を。合体には、合体です」
【4】
以津真天とがしゃどくろの合体した妖怪が、中の骨が見えている翼を大きくはためかせ、上空に舞い上がった。すさまじい風圧に飛ばされないようにしながら京子は、咲き子とキロロが戻って来るまで耐え抜いた。
「咲き子さん、キロロさん。名前がないと不便なので、これから、あの合体妖怪を『野ざらし』と仮称します。野ざらしは強いです。まずは真ん中から切り離し、以津真天とがしゃどくろの状態に戻してから、除霊します」
「切り離す?! そんなことできんのかよ!?」と、キロロがうなり、
「できます」と、京子が即答する。
「わたしたちが合体すれば、それができます。安心してください。必ず3分で片をつけます。だから、お願いします。キロロさんの力を貸してください」
「ちっ……、わかったよ! ミスるんじゃねーぞ、京子!」
キロロが長くて美しい髪を右手でかき上げ、大地にどっかりとあぐらをかいて、ふてくされた表情で腕を組んだ。咲き子が京子の肩に手を置き、耳元に口を近づけてかすれた声で何かをつぶやく。そして、ふだん表情を変えないメリーが、にっこりと笑って言った。
「わたし、メリーさんよ。あなたのうしろは、わたしが守るの」
「メリーさん。ありがとうございます」
京子が背負っていたサメ型のリュックサックを地面に降ろし、ひざをついてファスナーを開けた。すると、リュックのデザイン的に、サメが口を開いたような状態になる。京子は中からお札のようなものを取り出した。一般的なトランプをひと回り大きくしたようなサイズで、表面にはタロットカードのように絵が描いてある。
京子は35枚あるカードのうちの1枚を取り出し、はるか上空にいる野ざらしに向かって掲げた。そのカードには口元を黒い布で隠し、身体にフィットする黒い服を着て、大ぶりのサバイバルナイフを構えた小柄な少女の絵が描いてある。その下に記載されている文字は、
『XⅢ:暗殺者』。
「妖怪探偵、矢面京子の名において! 妖怪『野ざらし』、あなたを調伏します。鋭ッ!」
京子と、その周囲にいた3人の妖怪たちの身体が金色の光に包まれる。野ざらしは一瞬怯み、そして、目を大きく見開いた。
そこに、今まで敵対していた妖怪たちはいなかった。帽子をかぶった人間の子どももいなくなっている。その場に立っていたのは十七、八になろうかという美しい銀髪の女性。すらりと伸びた両脚を網目のタイツで包み、身体の線をゆるやかに覆う厚手の黒装束に、口元は黒い布で隠している。
銀の髪のすきまから覗く切れ長の瞳は金色に輝き、大ぶりのサバイバルナイフを逆手に構えた美少女が鈴の鳴るような声で言った。
「妖怪変化13番。暗殺者、切り裂き京子、見参!」
百キロババアの足の速さと、メリーさんの隠密性と、口裂け女の残虐性を合わせ持った超人「切り裂き京子」が、仔猫のようにしなやかに身体をたわめて、躍動する。
「義によって、3分間だけお相手します。いざ、尋常に勝負!」
『ガチ、ガチ、ガチ! いつまで! いつまで!』
野ざらしが猛スピードで上空から京子に襲い掛かって来た。京子の目が金色に輝く。彼女は高速で繰り出された、野ざらしの鋭い爪を「目で見て」かわし、敵がバランスを崩した一瞬のすきを見逃さずに、猛然と攻撃を加えた。
「残り150秒! キロロさん! 『加速』を使います!」
カチッ、と音を立てて、京子が歯を食いしばる。その瞬間、周囲の時間が止まったように彼女には感じられた。人間には決して体験できない、できたとしても身体がもたない、マッハ1.5の音速の世界を自在に動きながら、逆手に構えたサバイバルナイフの連撃を相手の身体に叩きこみ、野ざらしの魂魄をずたずたに切り裂いた。
『クエエエエエエエエエ!』
まさに断末魔の叫びをあげて、野ざらしがのけぞった。そして、あごを前に突き出し、ずうんと重い音を立てて、大地に倒れ伏す。
怪鳥の身体が白い光に包まれた。野ざらしの胎内から2つの光の塊が飛び出し、水辺の蛍のような軽やかな動きで、ふんわり、ふんわりと宙を舞った。
「残り60秒、……間に合った! 合体を解除します!」
京子が合体を解いた。解放された妖怪たちは三方に投げ出されて、地面に手をつき、ぜいぜいと荒い息をつく。元の10歳の少女の姿に戻った京子が、はかなげに明滅する2つの光の塊に手を伸ばして、そっと胸元に引き寄せた。
ふと目をやると、野ざらしの残骸はもう無い。空に溶けるように消えてしまった。
京子はかつて以津真天とがしゃどくろと呼ばれていた2つの光を胸に抱いて、はらはらと静かに涙をこぼした。
「ごめんなさい。つらかったですよね。誰にも見つけてもらえなくて、供養もされず、成仏もできなくて、冷たい土の中で、ずっとずっと、苦しかったですよね」
「まァ、そいつも気の毒だとは思うけどよ。自業自得だぜ」
キロロが地面に手をつき、片膝を立てた状態であぐらをかく。咲き子がやれやれと首をふった。そしてトレンチコートのポケットの中から、予備のマスクを取り出して口元を覆った。戦いは終わったのだ。
「さて、取り憑いていた以津真天は無事に退治できましたから、あの爆弾はただの不発弾になりましたわ。あとはふつうの人間の力でも簡単に解体できるでしょう」
「わたし、メリーさんよ。今すぐ、おうちに帰りたいの」
「メリーさん、少し待ってください」と、京子が言った。
「事務所に帰る前に、この魂を浄化してあげないと」
「なにっ!?」
キロロの形の良い眉毛が片方だけ跳ね上がった。疲労困憊の身体に鞭打って立ち上がり、京子の不穏な発言に顔を歪める。
「おい京子。浄化って、何をするつもりだ?」
「言葉どおりのことをします」
「やめておけ。あいつらは覚悟をもって人間に悪さをしたんだ。そして正々堂々と戦ってあたしたちに負けた。戦いは終わった。だからもう、彼岸の向こうに送ってやれ!」
「わたしはずるいので、キロロさんが絶対に反論できないことを言いますね」
ふだん、あまり表情を変えない京子が、このときばかりは朗らかに笑いながら言った。
「わたしのお父さんは、正々堂々と戦って、むかしのあなたに勝ちました。そして負けたあなたを彼岸送りにしないで、浄化して、救済しました。わたしは、そんな父を心から尊敬しているんです」
「馬鹿! おいやめろ、京子!」
「ごめんなさい。キロロさん。そして咲き子さん、あしたは学校をお休みします。朝になったら、担任の先生に電話をしておいてください」
京子そう言うと、先ほどまで敵だった2つの光を抱きしめた。そして、その光を自分の身体の中に取り込んだあと、糸の切れた操り人形のような動きで、うしろ向きにふらりと倒れた。
「わたし、メリーさんよ! あなたをうしろから支えるの!」
メリーが素早く動いて、京子の身体を受け止めた。意識を失った京子は、頬に涙の筋を残したまま、菩薩のように微笑んでいた。
「京子!」「所長……」「わたし、わたし、……!」
妖怪たちの慟哭が暗い夜空にこだまする。
平和を脅かす不発弾は無力化された。あまりにも大きな犠牲を払って。
(つづく)