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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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5.兄妹会議

そういえばデス○ターの重さってどれくらいなんでしょう。

とか言いながら調べようともしないんですけど。

惑星エンドア(だっけ?)の気候を狂わせたりはしなかったんでしょうか。

 惑星ノアの軌道ステーションは、およそ10兆トンになる巨体を上空四万キロメートルに位置させている。いまや世界有数の豪華客船も立ち寄るその構造物は、ランツフォート軍が一部を占有して使用することになっていて、セキュリティ上でも厳重に区分けされたエリアは、重要人物の動向を隠すにはうってつけだろう。


 メルファリアの二人の兄、グラハムとローレンスは動向を公にせぬままノアへと訪れた。


 ちなみに、スピンクスには調査名目であらかじめ出掛けてもらっている。余計な詮索を避けること以上に、現在のランツフォートを取り巻く状況を広く検索してもらう為に。



 戦艦アーク・ネビュラスで訪れたグラハムは、当然のごとく次兄ローレンスを伴って惑星ノアの軌道ステーションに降り立った。

「ふむ、さすがに新しくて綺麗だな。この規模で作り上げるのに、ラリーはちゃんと協力してくれたのだね」

 ぐるりと視線を巡らせて、次兄の貢献を軽く労う。


「当り前さ。なにものにも優先させて、予定よりもかなり早く仕上げさせた」

「予定よりもかなり? それもどうかとは思うが、まあメルファリアのためだ、仕方あるまい」

「そう、メルファリアのためだ、当然さ」


 ははは、と二人は軽く笑い合ったが、目の前でメルファリアは苦笑いするしかない。

「ようこそ、惑星ノアへ。これからお屋敷へ降りるのに、当惑星自慢のVTOLに乗って頂きます」


「ほう、そうだな、ただ降りるよりその方が良いな」

「ノアの現状を、この目で見る機会というのもなかなかないからね」

「兄様たちは時間が取れませんものね」


 各方面で活動するランツフォート家の三人兄妹が、一堂に会することは近年珍しい。喫緊の課題のために集まったとはいえ、いくらかの団欒は許されるべきだろう。三人のVIP兄妹は、それぞれの供の者を引き連れてVTOLに乗り、直接降下するよりは多くの時間を使って寄り道をしてから、地上のお屋敷へと運ばれていった。


 その際、グラハムには護衛の騎士としてクーゲル・バレットが付き従っていたが、兄妹三人が歓談する様を眩しそうに眺めては不意に目を逸らしてハンカチを握りしめていたらしい。不死身のなどと異名をとっても、年相応に涙もろくなるもののようだが、グラハムはまだこの老騎士に悠々自適な老後を過ごさせようとは思わない。


「もう思い残すことはない、などと戯言を吐くようにはならんでくれよ、クーゲル」

「老人の楽しみを封殺するとはけしからんですな。まだまだ指導すべきことがあるようです」

「ああ。まだまだ、よろしく頼む」


 壮齢期を過ぎたとはいえ、グラハムの騎士たる銀髪の偉丈夫を老人扱いする者などは一人もいない。ただ、三兄妹を我が子のように見守ってきたこれまでの月日が、どうしても目に汗をかかせることがある。


 「姫様の成長を目の当たりにしますと、感慨深くてつい、みっともないところを見せてしまいましたな」

「みっともない、などということはないさ。俺も気持ちはわかる」

 ローレンスがクーゲルに同調して軽く肩を叩いた。

「もう、頭を撫でて褒めてやるという訳にもいかなくなっちまったからな」

 もちろん、メルファリアに対して、だ。もう子供扱いは出来ない、というのは、人生の先輩にとってはちょっぴり寂しくもある。


 一方、メルファリアにとってはなんというか、こそばゆい。

「さあ、さあ、もうお屋敷で落ち着きましょう。ノアの特産を味わって頂くための宴も用意しましたから」

「ほう? ノアの特産とは、それは楽しみだ」

 さあいこう、とローレンスが両手でグラハムとクーゲルの背中を押した。


 §


 その日の晩餐では、三兄妹の他にそれぞれの供の者が同じテーブルについて飲食を共にし、末席にはリサとレオンも加わった。見慣れぬ顔ぶれもあって緊張するレオンに対して、リサは範を示す応対で余裕をうかがわせ、あまつさえレオンのフォローをすらして見せた。


「姫様に恥をかかせるような事はあってはなりませんからね。レオンも気を付けてください」

「ああ、ほんとうに。ありがとう、リサ」

「あ……、まあ、い、以後精進してください」


 レオンが本心から素直に感謝を伝えると、リサはいささか戸惑ったようだ。照れたようにも見える、いつになく新鮮な反応だった。これがリサ攻略の糸口だろうか? とはいえ、リサを攻略する気などレオンには全くないが。


 けれど、どうやったらジュード―で一本取れるか、は是非知りたい。


 会食が進み、ひとつめの話題としてメルファリアが惑星ノアの現状と今後の目論見についてお披露目をすると、二人の兄は時折頷きながら拝聴して、当然のように更なる支援を約束した。


「高度なセキュリティをベースにしたリゾートか。そうとなればやはり、イメージ戦略は重要だろうなぁ」

 事実上、現時点で惑星ノアを象徴するイメージリーダーとはメルファリア嬢本人といえる。これを拡大発展させるのにどんな要素を加味すべきか、グラハムは早速そんな方向へ考えを巡らせ始めた。


 ふと食事の手が止まったグラハムの隣では、対照的にローレンスが旺盛な食欲を見せていた。

「このパイはなかなか、名前ほど派手ではないが旨いな。まあ、俺はもっとスパイシーな方が好みだが。……あ、いや、メルファは辛いのは苦手だったな」


 人の好みはそれぞれで、どんな素敵な料理であっても、すべての人に好まれるというのは難しい。だから名物も複数揃えてみるのが良いのだろう。

「旨い魚料理だけでなくて、肉料理もあると良いと思うが、どうか?」

「ええ。いずれも貴重なご意見、ありがとうございます」


 スターゲイザーパイにはひとまず合格点が付けられたと見ていい。そして次には、おそらく肉料理を検討することになる。が、今現在の惑星ノアでは、食肉用の家畜の肥育はほとんど行われていない。


 何でもかんでもすべてを自前で揃えるという訳にもいかないので、例えば食肉の調達には野生動物の狩猟を行うとか、そういう方向性も排除せず考える必要があるだろう。惑星ノアであれば本物の大自然の中での狩猟体験なども可能ではあるし、そういった趣味の方々も確かにいらっしゃるが、やるかどうかはひとえにメルファリアの考え方次第となるだろう。


 ともあれ、VIP兄妹が揃う事になった緊急事態とは関係のない、より平和的な話題が多くとり上げられて、宴はつつがなく進んでいった。


書いといてなんですけど、

趣味やスポーツとしての狩猟は、22世紀ごろには世界的に禁止されていそうですよね。


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