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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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32.カメウラ宙域の戦い(3)

ダークマターの正体は、実はすごく「軽い」素粒子なんじゃないか、って仮説が出てきているそうです。

凄く軽い素粒子は軽い分大量に在って宇宙中に溢れているのかもしれませんね。

誰かそれにエーテルって名付けてくださいおねがいします。

 この辺境宙域に光よりも早く連絡が届くのは、iフライトによる超光速航行を行う宇宙船が通信データを運んでくるからだ。


 メルファリアからの連絡は、幾つもの星系をまたいで飛び交う外宇宙航行船たちによってリレーされてきたのだ。遠方からの新たな通信が届くという事は、船舶ないしそれに類するものが近傍に現れたということ。それらが順次新しい情報をもたらし、再びローレンスからの通信がプロミオンに来た。


「邪魔になるから、もうホログラムは消す。ダミードローンはプロミオンで預かっておいてくれ。だが、まだ来る奴がいるから、プロミオンはそのまま待機だ」

「承知しました。やっぱり、他にも戦力を準備していたんですね」

「あたりまえだ。”すぐに”動かせる戦力はこれだけ、と言ったろうが」

 たしかに、そうでした。


「どれくらい集めたんですか?」

「正確な数は分からんな。大小取り混ぜておよそ八十隻くらいではないか」

「そ、そんなに来るんですか。まだまだ掛かりそうですねぇ……」

 戦いの趨勢が見えたところで、さっさとヤシマに向かいたいレオンの本音が透けてしまった。


「なんだ? 全部引き上げてしまえとか言ったのは貴様だろうが。おとなしくそこでじっとしてろ」

「は、はい。すみません」

 穏やかで、にやにやしながら言っているところを見ると怒っているわけではないようだが……。


 つまりローレンスは、こちらに人的な損害が出るような戦いを避けようと思案したようだ。けれども、戦って撃退したという事実が欲しかったので、いろいろと画策したらしい。


 敵艦隊が指揮系統に混乱をきたした機会をただ眺めていたのは、こちらに損害の出るような戦いを避けるためだ。ある程度のダメージを与えた以上は、敵に勝る数を揃えてみせることで、敵方に退却を促せるだろう。


 新たに出現したランツフォート側の戦力はフリゲート艦クラスも多いとはいえ物量としては圧倒的で、ローレンスの部隊が再びゆっくりと前進を始めると、ビョンデム艦隊は陣形を変えて一部が撤退行動を開始した。


 時間が経過するごとに自らの状況は悪化するしかない、と判断しての動きだろう。


 退却しようとする敵部隊を追撃するなら、機動性に優れる小型艦が有利ではある。ローレンスがそこまで考えて集めたのかは分からないが、主力艦を傷つけられて今やもう包囲殲滅の危機にあると認識したビョンデム艦隊は、必死にならざるを得ない。


 ビョンデム艦隊の各艦艇は、ランツフォート艦隊正面に背を向けることも厭わずに、一目散にカメウラへの急降下を始めた。と同時に、戦艦グウォンリ―ただ一隻のみがその場にとどまり、アーク・ネビュラスへ向けて遠距離から砲撃を始めた。


「ほお、真っ先に逃げ出すわけでもなく、……覚悟を決めたか」

 アーク・ネビュラスは微速前進のまま、まだ届かない砲撃の正面で向き合い続ける。


 そうしている間にも他のビョンデム艦艇はカメウラへ向け落下することで急速に加速し、薄い大気に触れるまでに近づくと、この自由浮遊惑星の表面をなめるように散開した。


 この惑星の重力を利用すると共に、惑星を背にすることで追撃を難しくさせようとするものだ。ランツフォート宇宙軍とて、他国が管理している惑星にビームを打ち込んでしまうのは、さすがに躊躇われる。


 ビョンデム艦艇はそれぞれに全力で加速し、方々へと散って戦線を離脱しようとしているが、それでも、相変わらずプロミオンには新たな指示はないし、後から参集した艦艇にも動きはない。


 ブリッジで、レオンは目を閉じて戦況速報を追っていて、すぐ横でアリスは微動だにせず前を向いていた。

「逃げますね」

「逃がしてやるつもりなんだろう、ローレンス様は。窮鼠に手を出すとめんどくさいし」


 プロミオンの周囲に集まった艦艇たちも、新たな指示を得られずに佇んだままだ。わざわざこの宙域に集められて見ているだけというのも歯がゆいだろうが、戦略的戦術的目標が達せられるなら、それで納得してもらおう。この場に存在すること自体が戦いに貢献していることであるから。


 やがて、ビョンデム艦艇があらかたカメウラの向こう側へと消えて行くより少し前に、戦艦グウォンリ―からの砲撃は止んだ。


 ちょうど、グウォンリ―の有効射程距離にようやくアーク・ネビュラスが到達しようかというところだ。それまでもこちらからの攻撃は一切行われなかったが、アーク・ネビュラスはそれを合図としたかのように前進を停止した。


「良い指揮官は逃げるのがうまいというが。まんまと逃げられてしまったな、はっはっは」

 敵の動きをただ黙って見ていた後では、周囲にいる幕僚たちとしては反応に困る。

「あれも逃がすおつもりで?」

 前方には戦艦グウォンリ―が沈黙したまま、こちらを向いて静止している。

「ただ逃がすよりもな、せっかく提督が残ってくれたんだ。ひとつ、話し合いをしてみようじゃないか」



 ビョンデム宇宙軍外征艦隊は多大な損害を出し、何も得られぬままに退却することとなった。戦艦グウォンリ―は鹵獲され、指揮官であるグエン提督は、これ以降しばらくの間消息不明となる。対するランツフォート軍の各艦艇は、形だけの軍事演習を行ったのち、それぞれの新しい持ち場へと移動していった。


 自由浮遊惑星カメウラとその観測施設に損害などはなく、変わらず無人のまま三重連星の観測を続ける。ランツフォート軍の内部資料にだけ記録が残る、カメウラ沖会戦はこうして幕を閉じた。


電磁波は光速を超えません。

データが隣の星系や或いはそれ以遠に届くには、インフレータフライトで運ばれなくてはなりません。

ローレンスでなくとも、(すごく)遠くから便りが届くと嬉しいですね。

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