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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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2.オーシャンリゾート

ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡には期待していますよ。

姿かたちもサイコーです!



 メルファリアやレオンが住まう屋敷は、大陸からは百キロメートル以上の海を隔てた群島の一つにある。群島は大小千個以上の島々からなるが、現時点で屋敷や宇宙港などの人工建造物が確認できるのは特に大きな四つの島のみである。


 まだ若いこの星で、比較的古く安定した地殻に載るこれらの島々が拠点に選ばれたのは当然の帰結なので、おかげでこの島々には火山が少なく、温泉施設がまだ開発されていないのは残念なところだ。

 それでも群島は南北に広がりそれにつれて様々な温度域の植生も豊かで、特に一番大きなスチュアート島の北半分は冬には降雪してウインタースポーツが楽しめそうな山地もある。


 大きな四島のうち残り三島はハノーヴァ島、ウィンザー島、ヨーク島と呼ばれ、いずれもスチュアート島の南に位置しており、一部は熱帯にも差し掛かる。この四島に囲まれた浅い内海には大小の島々が点在して、そこに生きる海洋生物の種類は惑星ノアの中でも特に多い。


 一見、平和そのもの。


 惑星ノアを大出力γ線照射装置「ザッパー」で狙う企みはレオンに阻止されて、そんなことがあったのは極限られた数名しか知らないことなので、自然豊かな、というよりも豊かな自然しかないこの惑星は、各大陸で火山活動が活発なこと以外は至って平和である。


 但し、大半が手つかずのままの各大陸部とは違い、お屋敷のあるここスチュアート島には、景観に配慮しながらも各種建造物が整然と立ち並んで、テラフォーミングに関する研究活動だけではない、人々の日々の営みと経済がある。


 最初期に建てられたランツフォート家の別荘と、一番真新しいゲストハウスとは敷地が隣接していて、同じ建築様式で揃えられている。このゲストハウスは周囲の付帯設備までが完成したことで、豪華客船グロリアステラが定期的に寄港するようになっただけでなく、少し前からはその姉妹船グラムホルンも立ち寄るようになっていた。


 国際観光業界において、惑星ノアへの関心は徐々に高まりつつあるのが実感できている。



 ついでに、ノア産のマホガニー家具はその品質の高さが一部で話題となり、少しづつバックオーダーを積み上げている。


 なお、マホガニーを産出する森が広がる一帯はスチュアート島の南部にあり、その希少価値からすればまさに宝の山といえるが、ここ惑星ノアでは乱伐を懸念する必要もない。森は計画的に育てられ、そしてその価値を損なわない範囲で切り出されて、最終製品にまで加工されてから送り出される。


 供給体制を安定・強化するために、ただいま優秀な家具職人を絶賛募集中だ。



 人類域がこの銀河系の中に拡大したことにより産地も増えて、金や銀などの貴金属は地球時代からすれば随分と価値が低減したが、かたや一部の自然生産物は需要家ほどには増えないこともあって、むしろより希少になっている。


 ノアには例えば豊かな海があり、いずれは珊瑚の育成や真珠の養殖なども検討案件としては挙げられているが、そういった短期的には収益のなかなか上がらない事業に腰を据えて取り組めるのは、懐に余裕のあるランツフォートならではだろう。


 まずは順調に収益化の道をたどり始めた惑星ノアで、メルファリアは本格的にネイチャーアクティビティの開発に動き出した。


 宇宙港や行政府など集中的に施設の整えられたスチュアート島は南北に長い大きな島で、その南には隣接して三島があり、合計四島に囲まれた浅い海には文字通りに名もない小さな島々が点在している。


 一番南に位置するウィンザー島は亜熱帯に属して、ランツフォートのお屋敷のある辺りと比べると随分温かい。いや、暑いと言うべきか。お屋敷には雪が舞うこともあるし更に北方の山地にはかなりの積雪もあるが、群島の南部では穏やかな内海でのマリンリゾートが望めるだろう。


 いずれにせよ、惑星ノアに滞在してもらうためには、その宿泊施設をどの程度確保するか、というのがまずは問題になる。狙うのは高所得者や資産家層なのだとしても、際限なく設備の規模を大きくすることはできないし、質の面だってそうだ。


「どれくらいの規模とするのが適切か、悩ましいわね」

「姫様、それこそ地球にある類似のリゾートをお手本になさるべきです。もしくは、姫様が今まで訪れた中でいちばん良かった思うところを参考になさるのも、良いかと思います」


 リサの言いようはもっともで、翻ってレオンなどでは、そこら辺は助言できそうにない。

 メルファリア嬢は今までに、どれほど素敵なリゾートを体験していることやら。


「バカンスを快適に過ごしてもらうためには、家族で過ごしてもある程度余裕のある間取りが良いのかな、と思っているの」

「様々なタイプを取りそろえるとリピーターには喜ばれますが、景観には統一性を持たせるべきと思います」


 一応は話を聞きながらなんとなく相槌を打つレオンの知っている宿泊施設とは、だいぶレベルが違うような気はしている。


「ロケーションには変化を持たせるべきと思うのだけれど、サービスはなるべく同じレベルで提供したいわ」

「ゲスト諸氏が戸惑わないように、その方針には賛成です」


 メルファリアとリサがそれは楽しそうに話す横で、レオンはちょっとした疎開感を味わってみた。頷くタイミングを見いだせずにアリスを覗うと、気付いた彼女は表情をほとんど変えずに僅かに首を傾げた。



 お嬢様とその世話係の会話を要約すると、内海に浮かぶ適度な大きさの島をまるごとリゾートホテルと化して、島じゅうの様々な場所に戸建てのゲストハウスを配置することを想定している。


 必要なものは全て宅配し、宿泊客達には何不自由することなく、ただ島の自然と周りの海を満喫してもらう。

 需要を見ながら、いずれはそういうリゾートホテル島を幾つも用意し、それらを結ぶクルーズ船を運航する。


 島ごとに特色を与えて、様々な嗜好に合わせると共に、リピーターにも飽きさせない工夫としたい。

「わたくしも時々はお屋敷を離れて訪れてみたいと思うような、そんな処にするつもりです」


「メルファさんも訪れるんですか? それは素晴らしいですね!」

 水辺で寛ぐメルファリアの水着姿をぼんやりと想像し、レオンは即座に賛同した。ちょっと食い気味に。


「え、ええ、そうですよね」

「もちろん訪れるとしても、レオンは別棟ですわよ?」

 隣でリサが声のトーンをぐっと落として、レオンを鋭く睨みつけた。


「分かってるよ。俺だってそれくらいは弁えているさー、hahaha」

「そうですか。それは殊勝なことですね」


 内海のリゾート化は優先度高いぞ。とレオンは心の中で大きく頷いた。


ところで、

できれば火星よりも金星をテラフォーミングしてみたいですよね。


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