27.暗く神秘的な
AIといえば、画像生成も得意らしいですね。
まだ弱点はあるようですが、早晩克服するでしょう。
そうなったら絵だけで「稼ぐ」ことが出来なくなる人が出てくるとかなんとか。
小説もそうかもしれないけど。まーね。時代の流れです。
エルブリカ近傍のとある宙域では、相変わらずランツフォート艦隊と、同盟軍連合艦隊がそれぞれに艦艇をズラリと並べて相対していた。
当然、一般商用船の航行は阻害されて、長引くほどにエルブリカとしては経済への打撃が大きくなるが、同盟はそんなことは百も承知のまま、責任を一方的にランツフォートに押し付けようとしている。それでいて、事態打開のための交渉などは始まってすらいないのだ。
そこに、レオンはまさに一石を投じる情報を携えてやって来た。
「膠着しているっていうか、させているっていうか、このままでいるのは同盟側の思惑通りなんだよな……」
「戦力の不均衡が明らかになるとどうなるか、という点には興味がありますね」
そんな睨み合いの最前線からは少し離れた座標でプロミオンは再び分離し、ラーグリフはステルスモードで退避する。ラーグリフで近づくわけにはいかないので、プロミオンで前線司令部と指定された宙域へと近づくと、そこには巨大な戦艦どころか、軌道ステーションとでも言った方がよさそうな、鈍色の大規模構造体が浮かんでいた。
厚みのある円盤、もしくは高さよりも直径の大きな円柱といった形状で、円柱の中心上下には丸い天蓋がかぶさる。円柱の厚みは五十キロメートルほど。天蓋の頂から頂きまでなら六十キロメートル、そして円柱の直径も六十キロメートルほどあった。
脈動するかのように各部が明滅して浮かび上がるシルエットには、多数の艦艇がまとわりついて戦闘準備を整えている。
『ウーガダール』と称するその圧倒的存在感を放つ構造体は、ランツフォート宇宙軍の運用する統括司令部で、艦艇を収容して点検整備のできるドックを多数備え、艦隊運用の様々な物資の備蓄もする要塞である。
兵站拠点というだけではなく、当然拠点防衛用の兵装を多数備えて戦闘能力を有し、それどころか、敵艦隊を丸ごと狙うためのヤバい奴を隠し持ってるとの噂もある。ただし、建造後今までずっと定位置にあり、一度も移動したことはなかったので、ランツフォート将兵の中にも今回の行軍に驚いた奴は多い。
「うわー、デカブツを動かしたかー。そりゃあまあ、すぐに動かせるもの、って言えなくはないけど。前線司令部っていうか、本部をまるごと動かしてきたんじゃないか」
「ウーガダールは戦略兵器扱いです。実戦に投入されるのは初めてですね。……まだ戦闘は行われてはいませんけど」
両軍の艦隊がにらみ合う前線からは少し離れているが、相手に与えるプレッシャーは相当なものだろう。そしてまた逆に、友軍にとってはさぞ頼もしく感じる事だろう。
その司令部に対して概略の報告をまずは電文で送り、機微な情報を含むために直接お話がしたいと願い出ると、ローレンス指令からは直々にプロミオンに赴くとの返事が来た。
「こっちに来るってさ」
「では晩餐の用意をしますか?」
「茶会の席くらいでいいんじゃないか」
「ではレオンが珈琲を淹れてください。私はお菓子を用意しておきます」
ウーガダールは大きすぎて、まだ行ったことのないレオンはどこからアプローチすればよいのか迷いそうだったが、司令官がプロミオンに来てくれるとなると、それはそれでもてなし方が難しいと思えた。
ぞろぞろとたくさん引き連れて来たりすると、歓待のための人手も足りない。なにせレオンとアリスの二人しかいないのだから。
……などと心配したのに、連絡艇から颯爽と降り立ったローレンスが連れてきたのは、たった一人だ。
「キリガノ回廊から戻ってきたにしては、ずいぶん早かったな。ご苦労」
と労いの言葉を忘れないローレンスの横でコロ付きのケースを持つのは、見覚えのある小柄な副官だった。
「わざわざこちらへお越し頂き……」
レオンとアリスが並んで出迎えの口上を述べようとすると、ローレンスは軽く手を挙げた。
「挨拶はいい、早速話をしたい」
前線での司令官とはさぞ忙しいのだろうと思われた。意向を汲んで速やかにブリーフィングルームへ案内しようとすると、スーツケースを転がした副官がレオンの前で立ち止まった。
「騎士レオン。貴殿は私をかわいい男の子だとか仰ったそうで? お褒めにあずかり光栄です!」
睨み付けてびしっ、と敬礼をしたかと思うとくるりと踵を返してアリスの後をついていく。男二人があっけにとられている間に、何事もなかったようにアリスと副官はすたすたと進んでいく。
レオンはアリスの背中に視線を向けながらローレンスに話しかけた。
「な、なんか怒っていませんか? というか、なんであの話が伝わっているんです?」
すると、ばつが悪そうにローレンスがレオンを見た。
「むう、つい無駄話のついでに口が滑った。まさか怒るとはな。すまん」
「ローレンス様……」
副官である彼女の名はケイトリン・ロイドという。栗色の髪をベリーショートにして、化粧気もなければアクセサリも付けない。美少年に見えても仕方ないじゃないか、とレオンは思う。
彼女はさる資産家のお嬢様だが、いわゆる跳ねっ返りというやつなのか、自ら志願して入隊してきたが、これがどうにも持て余す。ランツフォート家との付き合いのある親御さんからはさりげなく配慮を求められたりもするし、かといって特別扱いをしては、周囲に悪影響を及ぼしかねない。
適性診断を経て初期の基礎訓練を受けてなお、彼女は至って真面目にいち兵士であろうとしているようだった。そこで人事部門は配属先を決めかねた挙句、たまたま副官を所望していたローレンスに押し付けた、という事らしい。ただ、仕事は真面目にこなすようで、今のところは副官として研鑽中だとか。
「もともと口数が少なくて、俺ともあまり会話は弾まないのだよ。それで、幾らかでも人間関係を円滑にしようと考えて、色々こっちから話を振ったんだがな、しゃべりすぎたかもしれん」
「なるほど。……それならこの件も、適当に脚色して話のネタにしちゃってください」
「ん。……では、そうさせてもらうか」
ブリーフィングルームに四人が揃うとすぐに、キリガノ回廊に係るこれまでの経緯を、やや詳細にアリスが解説した。ロイド副官はスーツケースから情報端末を取り出して熱心に聞き込み、いくつかの質問をアリスに投げかけた。話のとおり、たしかに真面目だ。
「電子戦で無力化したとする、駆逐艦タルスィーとアッセルは今どこに?」
「予測地点はこちらになります。いずれ救難信号を辿って、ランツフォート軍の方で保護してください」
駆逐艦二隻の鹵獲と乗員の保護は、ビョンデムとの交渉材料にもできるはずだ。それに、他国の戦闘艦艇の完動品を確保できる機会などなかなか無いので、詳細分析にも有用と思う。
「回廊の入り口で確認できたビョンデム艦艇の一覧を、同盟側に照会しよう。奴ら、どんな言い訳をしてくるか」
ローレンスが腹の底から声を出してにやりとした。
結果的にアストレイアは回廊に無事突入し、メルファリアはもうヤシマへと着く頃だろう。そうだとしても、メルファリアを危険な目に合わせたビョンデムには、落とし前をつけてもらわねばなるまい。
「ビョンデム外征艦隊の司令官についての情報収集と分析を頼む」
ロイド副官が無言で小さく頷く。
「ああ、戦績とか成績とかはいいぞ。嗜好、指向、信仰、交友関係あたりを探れ」
「承知しました」
その昔、タイピストというそれなりにステータスのある職業が存在してました。
21世紀には一般的ではないですね。
同じようにAIよって存在の小さくなる仕事や作業は結構あると思います。
だからってAIの進歩を妨げようというのは、なんか違うな―。