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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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24.オペレーション・ヘビーレイン(3)

光とは電磁波ですから、いずれ自在に立体映像を作り出せるようになるんじゃないでしょうか。

なるといいな。

そうすればヘッドセットを装着しなくてもメタバースを堪能できるかも。

その次は触覚や嗅覚でしょうか。うふふふふふふふふふふf


 アストレイアに貨物船ラゴンダが近づいたのを見届けて、レオンは作戦を次の段階へ進めた。プロミオンの位置は、もうすぐ敵戦艦の主砲の射程圏ぎりぎりのところまで迫っていて、敵が動き出すのを今か今かと待っていたのだった。


「こちらから仕掛けてやろうかとも思ったけど、うまいこと見つけてくれたようだな?」

「はい。巡航艦二隻がこちらに向かってきますね。戦艦も二隻ほどがこちらへ動き出しました」

「よし、じゃあ全力でキリガノ回廊へ突入する。……ようにしてくれ」


 アリスが頷き、プロミオンは目立つようにアフターバーナーを展開して、スペック上の最大能力で加速する。それを見て、ビョンデム艦隊が余計な詮索を後回しにして追いかけて来てくれればしめたものだ。


「ビョンデム各艦の熱量が増大しています。まもなく攻撃が開始されます」

「牽制してくるか。そうするとやはり、追い払うのが主目的ってことだな」


 言い終えるとすぐに、接近しつつあるビョンデム巡航艦からは主砲が撃ち出された。プロミオンの針路を阻むような方向への砲撃だが、まだまだ有効射程の外だ。それからさらに、今度は戦艦ロワイリーンとコンジャーンからも主砲が発射された。巡航艦のそれとは比較にならない強烈なビームだが、やはりプロミオンの針路を妨げるように撃たれている。


 改ティエンリ―級とされる戦艦ロワイリーンとコンジャーンは、ティエンリ―級と同じ火力と防御力のまま合理化と軽量化がなされた艦艇とされている。軽量化を果たした分だけ機動性が向上し、その点に関してはより高性能と言えるだろう。


 どれほどの機動性向上かは得られた情報が曖昧だったが、プロミオンは今、図らずもソレを検証する機会を得た。

「おいおいこのデカいの二隻、こっちの予測より動きが早くないか?」

「どうやらそのようです。既知の情報をより正しく修正できるのは喜ばしいですね」


「喜ばしいけど喜ばしくないよ。こっちも早めに回避に移ろうぜ」

 同じ火力、ってところは確かなんだろうな? とレオンは敵戦艦の有効射程距離の範囲表示を見つめた。プロミオンは予定よりも早く直進を断念し、敵艦隊から遠い方向へと向きを変える。


「アフターバーナーは狙われやすいからなー」

 ビョンデム艦隊の動きと牽制射撃によってプロミオンは針路の変更を余儀なくされ、回廊入口からは遠い方向へと追いやられてしまう。執拗に追いすがる巡航艦から遠ざかろうと、今はもう背を向けて逃走中だ。


「プロミオンの、キリガノ回廊への突入は失敗です」

 冷静に、アリスが現状を確認する。

「そうだな。まあもともと成功するわけもないが」


 レオンは失敗と言われることにもう慣れた。それもどうかとは思うけど。

 そして、本来の目的を達成する為には作戦が順調に進んでいると認識した。

「けど、奴らを俺たちに引き付けることには、成功しているな」

「そうですね。そろそろ、カメウラの正しいビーコンが回復します。私達はもう、立ち去る頃合いです」


「ラーグリフはまだ、ミツクビのダミーを映しているのか?」

「はい。しかし、本物の三重連星を隠していた煙幕もだいぶ拡散してしまいました。さすがにそろそろ気が付くと思います、彼ら自身の正しい位置と方向に」

「わかった。じゃ、次へいこう」


 オペレーション・ヘビーレインの目的は、敵艦隊の撃破ではない。

 ひとつは敵艦隊のうち、ホログラムでしかないダミーを判別すること。それから、こちらがより重要だが、ビョンデム艦隊に自らの位置と方位を誤認識させること、であった。


 MAYAがアクセスして一時的に止めさせた自由浮遊惑星カメウラからのビーコンは、アリスの言う通りほどなく復活した。ほぼ同時にラーグリフが三重連星を精密に模したダミー電磁波を発信しなくなると、ビョンデム艦隊は自らの位置を特定する情報が60度以上もずれていたことに、ようやく気が付いた。


 護衛艦プロミオンは、キリガノ回廊へ突入しようなどとは初めからしていなかった。

 追跡してくるビョンデム艦隊の艦艇を引き付けて、どんどん回廊からは遠ざかろうとしている。一方でアストレイアは、取り戻した貨物船と共に、いまや回廊入口に差し掛かろうとするところだ。


「ビョンデム艦隊の動きに変化があります」

「位置情報の欺瞞に気づいたな。……気づいたにしても、動きが早いな」

 ビョンデム艦隊のうち、約半数の艦艇が一斉に動き出した。


「旗艦ティエンリ―も動いています。アストレイアを追撃するのだと思われます」

「アストレイアはまだ逃げ切れないか?」

「貨物船と共に動いていますから、このタイミングではまだ振り切れませんね」


 色々と策を弄してはみたものの、アストレイアが安全圏へと逃げ込むためには、まだもう少し時間が欲しい。アストレイア、というよりもメルファリアを、無事にヤシマへ届けることが最優先だ。そのためならば、ラーグリフをビョンデム艦隊に晒すことになるのもやむなしか。


「仕方ない。ラーグリフを使おう。できれば見せたくなかったけど」

 ラーグリフの存在は出来るだけ隠しておきたい。カメウラの埋蔵金と同じように、諍いの種になる可能性があるからだ。


「いっそのことビョンデム艦隊全部、口封じするか……」

「レオンらしくないですね」

 アリスに指摘されて、レオンは頭をかく。

「では、今回はアーク・ネビュラスのホログラムを使ってみてはいかがでしょうか?」


「そうか、この宙域ならごまかせるか?」

「かなり正確な立体像を再現できます。なんなら破損時の内部構造まで再現できます。光学観測だけでは、見破られることはないでしょう。信憑性を高めるために僚艦のトリエルテも出現させましょうか?」


「それって、……あー、うん。そうしてくれ」

 その詳細な外観を再現するデータをどこから入手したものかちょっと心配になったが、まあいいや。

 なにか言おうとして口ごもったレオンに向かい、アリスはただ小さく微笑んだ。


「それから、ミッカに電文をひとつ頼む」

 あらかじめ用意しておいた電文を、アストレイアのミッカ・サロネンに直接送ってもらった。緊急時対応という事で、すぐにミッカに伝わるように。


 §


 ビョンデム艦隊からは巡航艦が四隻ほど先行してアストレイアに向かうが、戦艦ティエンリ―とグウォンリ―もまた、貨物船と共に動くアストレイアになら追いつけるだろう。貨物船は、いざとなれば後方からの攻撃に対する盾にはなるが、戦艦の主砲相手では正直言って心許ない。


「アリス、動かせるな?」

「はい。準備できています。扉が一つ途中までしか開きませんので、破壊します。許してください」

「許す」

 本当はそんな権限はレオンにないが、でも許す。


 その瞬間、アストレイアのすぐ後ろを航行する貨物船ラゴンダの貨物室に新たな爆発が生じた。もうすでに幾つもの隕石の衝突により外装はかなり破損していたが、今度のは内側からだった。破損していない扉は自ら開いて、その中から新品ピカピカのガンシップが姿を現す。このままたどり着けないよりは、この場を離脱するために利用させてもらおうというわけだ。


 六機のガンシップと二機の予備機はすべて無人のまま、MAYAの指示下で動き出す。と同時に、積荷が消えてすっかり身軽になった貨物船は、アストレイアにつられてぐんぐんと加速を始めた。とはいえ空荷ではあっても、貨物船が本来それほど大きく加速できる能力を持つわけもない。まずはこの場を離れるため、アストレイアが物理的に連結して牽引しているのだ。


「うまいこと引っ張っていけているな」

 貨物船が空荷である場合に、テザーを連結してどこまで加速が可能かといったあたりを、アストレイアにはあらかじめシミュレートしてもらっていて、それらを踏まえていざとなったら引っ張ってくれるよう、ミッカにお願いしておいた。


 だから今、貨物船ラゴンダはアストレイアと同じ加速度でぐんぐんと速度を増していった。

「予備の二機はミサイルを積んでいませんが、主砲は撃てます。八機で連携させて敵の追撃を阻止しましょう」


 ガンシップの主砲は、門数は少ないが威力自体は巡航艦とて無視できるものではない。加えてベクターコイルの他に液体燃料のロケットブースターによる瞬発力も備え、敵にとっては厄介な相手になり得る。適切に連携すれば、時間を稼ぐことは十分に可能なはずだ。


「それと、幾くつか失うことになっても構いませんよね?」

 ガンシップは無人だから、損失を恐れずに動かすことができる。

「それも許す。だからできるだけ時間を稼いでくれ」


 MAYAのコントロールの下で八機のガンシップは不規則にばらけ、それぞれが独自のタイミングで攻撃を開始した。動きを読みにくくするため、八機はすべて異なる思考のAIがコントロールして、その都度僚機と連携している。そして、最初に突出してきたビョンデム艦隊の巡航艦に対して、いちばん接近していた一機がミサイルを全弾射出すると共に、その煙幕に隠れてロケットブースターを点火し、自身を突撃させた。


 巡航艦は迫るミサイルの殆どを撃ち落としたが、一発が命中ならずも至近で炸裂し、そのすぐ後にガンシップの衝突を許した。浅く衝突したために大きな爆発は発生しなかったが、巡航艦は艦首に近い部分を大きく傷つけられてもんどり打った。


 ガンシップは煤を吐き、破片をまき散らして錐もみしながら何もない虚空へと飛んでいく。単なる捨て駒の一つとして、自らの損失を顧みない、躊躇ない突撃だった。

 その戦い方を見て他の艦艇は勢いを削がれ、残りのガンシップ七機との間合いを取った。


 その間にもアストレイアは加速を続ける。


「よし、ひとまず敵巡航艦の足を止めた。ガンシップはそのまま進路を妨害し続けてくれ」

 あとは、有効射程距離まで接近できる可能性のある戦艦二隻への対処だ。


ダミーてのは古典的でしかも最新です。

というか、ローマや三国志の時代からやる事はあまり変わらず。


きっと数千年後も……、人類が存続繁栄していることを願いたいです。


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