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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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23.オペレーション・ヘビーレイン(2)

JWSTはもう既に隕石によって幾らか損傷しているそうです。

損傷度合いは想定の範囲内だそうですが。


どうか無事にずっと活動できるように、神様とかにお願いしたいところです。


「オペレーション・ヘビーレインの第一段階終了。再度警告文を送ります」

 レオンは無言で小さく頷いた。ビョンデム艦隊に見えていたのはプロミオンだけだったが、それすら岩石のシャワーと核融合弾頭の光芒でかき消された。再度の警告文を聞くまでもなく、ビョンデム艦隊各艦艇はそれぞれに回避機動を始めて散開するのが見て取れた。


 二発目はもうないので、再度の警告文は単なるハッタリだが。

「よしよし、慌てているな。目くらましの核弾頭を再装填。同じ数で」


 あらかた小片ばかりとはいえ秒速一万キロメートルのスコールが殆どの艦艇を襲い、一瞬後には様々な機能に損害を与えた。不幸にも、比較的大きな岩が直撃した巡航艦が一隻、船体をくの字に曲げて火災を発生し、縦方向に回転しだして陣形を乱した。


 他の艦艇もおおむね数万~数十万個の小石をその船体に浴びて、外装を凹ませ或いは表面の構造物を破壊されて観測能力の低下を余儀なくされた。一番大きな戦艦四隻は、その大きさに比例して多数を被弾したが、多少の戦力低下はあるにしても健在である。しかしそれでもそのまま留まるわけにはいかず、敵艦隊は急ぎ散開して被害にあった宙域から離脱しようとする。


 確証がない以上、彼らとしては当然に第二波を心配しなければならない。こうなるともう、一緒に被弾して煤煙を吐き出した鹵獲船など後回しだ。発信機器に損害を被ったのか、貨物船からのエマージェンシーコールもトランスポンダも止まってしまった。餌あるいは盾として使えないなら、今の彼らにとってはむしろ艦隊機動の邪魔だろう。


 荒れ狂うノイズの渦の中でデータ連携まで阻害されて、各艦艇は一時避難的にそれぞれの判断で回避行動を行うこととなり、艦隊陣形は大きく乱れた。

「ミサイル発射。さっきより起爆間隔を多めにしてくれ」


 レオンにとって隕石シャワーの目的は他にもある。石つぶてに襲われた船は外観に損傷が現れるが、逆に全く無傷のままでいる艦は映像だけのダミーである可能性が濃厚だ。

「アリス、判別できたか?」

「はい。映像の解析から、チョボゴムを含め三隻がダミーと思われますね」


 駆逐艦のひとつはスコールと共に忽然と消えた。これは、ダミーホログラムを映し出すドローンなりが破損したためだろう。また巡航艦の一隻は、まったく損害を受けないばかりか、他の船が回避機動に躍起になる中でじっと動かず、電磁波の嵐が薄れてから、いきなり見事な操艦を見せつけた。もちろん見た目は無傷のままで、船体にペイントされた金色の星が、必要以上にギラついて見えた。


「三隻だけか? 正直言うと、もっとたくさんダミーがいるかと思ったんだがな。これじゃホントに、ビョンデム外征艦隊のほとんど全てがここにいるってことじゃないか」

「はい。ティエンリ―、グウォンリ―、ロワイリーン、コンジャーン、戦艦四隻全て実物が健在で、戦力低下の度合いは測れません」


「うーん……」

 ビョンデム艦隊のダミーを暴いて、その手薄なところを突破口にしようと考えていたが、あてが外れた。


「そうすると、逆にエルブリカ近傍でランツフォート軍と睨み合ってる同盟軍連合艦隊のうち、ビョンデム外征艦隊部分つまり敵の全戦力の三割ほどは、ほとんどダミーってことになるな」

「はい。そういうことになります」


 睨み合いだけならダミーでいい、ってところはレオンと同意見だったらしい。とはいえ嬉しくない。


「仕方ない、次へいこう。位置取りはできているな?」

「はい。では作戦を次へ進めます」

 アストレイアに、作戦パターンを告げる短い信号だけが送られた。


 ◆


 奇襲を受け一時的に指揮系統に混乱をきたしたとはいえ、ビョンデム宇宙艦隊は、やはり海賊などとは違って、統制されている。隊列は大きく乱れて各艦艇はそれぞれに回避行動をとることとなったが、比較的損害が軽微だった大型戦艦を基準に速やかに再集結を図った。


 旗艦ティエンリ―においても、各部の安全が確認されて一部の隔壁が開けられると、グエン提督は程なく戦闘指揮所へと辿り着いた。

「ちいっ、実戦経験というのはやはり大事だな」


 各艦艇の損傷報告をまとめると、直撃を受けて破損炎上した巡航艦インゲラー以外は、ほとんど外殻表層への物理的な損傷どまりだ。多くのセンサー類が損傷したのは痛手には違いないが、攻撃力と防御力における低下はあまりない。


「使われたのはレールガンか!?」

「いえ、微小な隕石群のようです。が、人工的なものと思われます」

「各艦はお互い僚艦の位置を確認しつつ、索敵に注力せよ」


「各艦ともに破損したセンサーは代替させて、観測視界は順次回復中です」

 仕掛けてきたのはランツフォート家のブティッククルーザーであるアストレイアと、その護衛艦プロミオンの二隻。


 たった二隻だ。


 しかも、その二隻がそれぞれ別な方向から接近してきたようだが、他にはまだ見当たらない。

「なめられたものだな。混乱に乗じて我らを突破できるとでも思ったか」

 この宙域特有の事情はあるにせよ、隕石群ごときではさほどの混乱に陥ることもない。


「現在位置を再度確認しろ。各艦はティエンリ―を基準に布陣を戻せ。奴らを通すな」

 もともとこの宙域では光学センサー以外はあまり役に立たないが、幸いにこちらは数の揃った艦隊だ。損傷していないセンサーを最大限活用するよう、陣形を調整して一体運用すれば十分にリカバーできる。


「二隻のみとはな。小細工で我らを引っ掻き回そうというのか」

 グエン提督の指揮もあり一時的な陣形の乱れが収まってみると、標的のひとつアストレイアが艦隊側方を遠ざかるように動いているのを捉えた。


 アストレイアは光学迷彩を展開しているようだが、複数の艦艇からの観測データを統合処理することで、その存在は特定できた。いつの間にか、拿捕していた貨物船がアストレイアに合流するように動いている。


 煤煙は止まったようだが、あの貨物船の損害具合では、どこかの港に戻らざるを得ないだろう。ならば、この襲撃はあの貨物船を取り戻すための動きということか。危険を冒してまで取り戻そうとしたのであれば、あの貨物船にランツフォートの特使が乗っていた、という可能性すらある。


 だからこそビョンデムとしても、むやみに破壊はできなかったわけでもあるが。

「回廊から遠ざかるなら構わぬが、貨物船の動きは捕捉しておけ。まずはもう一方の、護衛艦プロミオンの方に対処する」


 ランツフォートの特使の行動を阻むことはできた。ならば、回廊の封鎖という目的は達成される。もう一隻のプロミオンの動きも阻止してこの作戦を完遂し、あのお方の未来予測を現実のものとするのだ。そうすれば同盟も、ビョンデムも、そして俺にとっても利益になる。


 ――素晴らしい。


 次には、艦隊の損害を言い訳にでもしてカメウラに滞留し、そのまま居座り続けるというのが良かろう。

「あの星にゴールドスター旗でも立ててやるか。しかる後に話し合いに応じてやろう。もちろん、平和的にな」


 そのカメウラからのビーコンを捕捉して自艦の位置を再確認すると、一時的に見失っていたもう一隻、護衛艦プロミオンがいつの間にか不自然な方向に移動しているのを捉えた。アストレイアとは離れて別の方向に、更に言うと回廊入口に近い方向へ、移動していたのだ。


 この護衛艦は、護衛対象であるアストレイアほどにはステルス性を持たず、隠密行動には向かないと聞いている。

「見つけたか。こそこそと動き回りおって。ロワイリーンとコンジャーンに追わせろ。逃がしてしまうよりは、撃破しても良い。本艦はこのまま留まり、アストレイアと貨物船の動きを監視し続ける」


 こちらの戦力を二つに分けても、それぞれに対処するにのに十分な駒数がある。ランツフォートの使節団は、当然アストレイアに乗っていると見せかけて、その実プロミオンで移動しているのかもしれないが、いずれにせよ見逃しはしない。


 カメウラ方向へと退いたアストレイアと貨物船は後回しにして、回廊入口へ近づこうとするプロミオンを阻止するために、艦隊の約半数がにわかに動きだした。


ところでJWSTの活動期間は計画5年、目標10年だそうです。

短くないですか? マジですか? 愛の力で何とかなりませんか?


というかさっそく次を打ち上げましょうよ。


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