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深淵のアリス4 月は無慈悲に  作者: 沢森 岳
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21.カメウラの月

カメウラを公転する衛星には、カメウラほどの価値はありませんでした。

むしろ今後落下する恐れの大きい厄介者です。

ヤシマによる観光資源化計画でも排除の対象になっていました。


 駆逐艦タルスィーとアッセルは、法規で定められた灯火を点けて、微妙に異なる針路をそれぞれに惰性で進むこととなった。乗組員たちは閉じ込められたままだが、生命維持機構その他生存に必要な最低限の部分だけは稼働している。


 三日も進めばお互い僚艦を望むこともできなくなるだろうが、救難信号が出せればそのうちきっと助けてもらえるさ。軍艦なら数か月は漂っていられるだろうし。たぶん。


 徐々にカメウラから、そして回廊からも離れていく二隻を見送って、アストレイアとプロミオンはカメウラの衛星軌道の少し外側でラーグリフが近づくのを待った。


「それでは、作業を説明します」

 と言ってレオンが話したのは、カメウラの周囲を漂う岩石小惑星を幾つか排除しましょう、という内容だ。元々邪魔者でしかなかったし、カメウラに観光用の寄港地を設置するというなら、軌道の安定しない岩石やいずれ落下が予見されている小惑星は、どのみち排除する必要がある。


 その排除を率先して手伝ってやろうというわけだが、それらをラーグリフのサンプルコンテナ内に詰め込んだ。ラーグリフは、可住惑星の探索という本来の目的のために、船体中央下部に、サンプル運搬用の大型コンテナを幾つか懸架している。うち二つはラーグリフ自身が使う補充資材の運搬用に、そしてその他は可住惑星候補に係るサンプルを持ち帰るために。


 岩石とはいっても一個当たり数千トンから数万トンもあるので、ラーグリフがコンテナの扉を開けて近づいて、レオンがアームローダーに乗り込んで微調整を行うことで、雑ではありながらも収納作業は進んでいった。


 それはもう楽しそうに、レオンは下手くそな鼻歌を歌いながらアームローダーを動かして、時には無駄にポーズをとって一人悦に入るという有様だったが、デニス船長は感心したようにモニターを覗いていた。


「ほうほう、うまいものだなレオン君は。アリス君もそう思うだろう?」

 その時たまたま近くにいたアリスが声を掛けられて、なんと返事をしようかと少し考えた。

「そうですね。そのうち乗用人型決戦兵器が開発された暁には、パイロットに推挙しましょうか」

「うむ」


 コンソールから目を離したミッカが、

「あいつなら、喜んで乗り込みそうだよなー」

 と楽しそうに言った。

 男子のロマンみたいなものか。


 戦いの趨勢を左右するほどの「決戦兵器」でもなければ、人が乗り込む必要性などはそもそも無いのだろうが、そんな大役と、それ以上に大きなリスクをしょい込むのは俺は遠慮したい、とミッカ・サロネンは思った。


 §


 カメウラに近づいたついでに、ラーグリフは再度観測基地にアクセスして、三重連星や星間分子雲、接近した船舶データなど相当過去にまで遡るデータを洗いざらい取得した。

「銀河系の回転と連動して今後回廊がどのように変化していくかなど、様々シミュレートしたいと思います」


 ヤシマのため、というよりMAYAが自身の知的好奇心を満たすためにやるのだろう。

「大きいスケールで見て回廊が消滅したり、逆に広がったりする可能性もあるな」

「惑星カメウラ自身も、今後はいったいどこへ向かうのでしょうね。いろいろと興味は尽きません」


 長期間の観測データは過去を教えてくれて、そして未来を示唆してくれる。三重連星から放たれるノイズの規則性やその中長期的変動、星間物質の多重層の精密な濃度予測から、もしかしたらキリガノ回廊に代わる別な抜け道が見つかるかもしれない。


「そうだ、ちょっと仕込んで欲しいものがある」

「ヤシマに迷惑が掛かるようなことは駄目ですよ」

「クラックしておいて、お前が言うか」

「言います」

 言うんですね。まあいいや。


「継続的に、観測データをもらえないかと思ってさ。アクセスポイントを仕込んで……」

「もう、仕込んでありますが?」

 ……。

「もう、仕込んでありましたが、レオンの指示という事にします。何かあったら責任取ってくださいね」

「お、おう」


 §


 積み込み作業を終えたレオンは、ひとまずアストレイアでデニス船長と今後の打ち合わせを行ってからプロミオンへと戻った。プロミオンはラーグリフと共に、ここからはアストレイアと別れて行動することになる。アリスが出迎えもそこそこに、ラーグリフに収容した内容を概説した。


「積み込んだのは、およそ十五万トンほどになります。ラーグリフの機動性に与える影響は微々たるものです」

「大きさの割に思ったより軽いな、それだけ脆いってことか」


 岩石惑星が破壊されてできたマントルの一部などではなくて、惑星へと成長する前段階の、微惑星と呼ばれるものだろう。強度は求めていないので、それで問題ない。

「それじゃプラン通りに、行こうか」

「はい、進発します」



 ラーグリフとプロミオンは揃ってカメウラでフライバイを行い、十分な加速を得て離れた。向かうはキリガノ回廊。その手前で待ち受けるビョンデムの艦隊である。


「これで突破できなければ、星雲を迂回して……一か月くらい遅くなっちゃうからな」

「それに、そちらが安全という保障もありませんし」

「ビョンデムの動きを見ると、同盟側も様々な思惑が同時に動いているようだから、何があるかわからないしなー」


 同盟軍連合艦隊の総意としては睨み合いを続けることが主目的だろうと予想してはいるものの、かたやビョンデム艦隊はずいぶんと強引にこちらの動きを阻止しようとしている。特に、もしもメルファリアに危害が及んだりなどしたら、誰もローレンスを止める者はいないかもしれない。グラハムでさえ、止めようとはしないのではないか、とレオンは怪しんでいる。


 ランツフォートが負けるとは思わないが、戦争が起きても良い事なんてあんまりない。

「さっさと片付けたいね」

「ええ。さっさとヤシマへ向かいたいですね」


人型決戦兵器って響きは良いですよね。

ロボット大好き。

ロマンでしかないと思うけど、恐るべきエネルギーを内包できればワンチャンありか?


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