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その3の2「幼馴染と再会」




夢魔

「クシュウゥゥ……」


アンコ

「ノガミ! 離脱しろ!」


タクミ

「…………っ」



 危機が、目の前に迫っていた。


 なのに、タクミは動けなかった。


 戦うために、ここに来たはずだ。


 だが、今のタクミの心は、戦士のそれでは無かった。


 ただの、蛇に睨まれた蛙だった。



イツキ

「はああっ!」



 タクミの耳に、少年の声が届いた。


 イツキの木刀が、側面から夢魔を殴りつけた。



夢魔

「…………!」



 スキルの無い、平凡な打撃だった。


 夢魔に対し、致命傷にはならない。


 だが、無視出来るほどでも無かったらしい。


 夢魔の意識が、再びイツキに向かった。


 タクミの心が、恐怖からわずかに開放された。


 ダンジョン無しに対し、意地も有った。


 タクミの震えが止まった。


 そして、イツキに声をかけた。



タクミ

「お前……! 無事だったのか!」


イツキ

「戦うのか逃げるのかハッキリしろ! 気が散る!」


タクミ

「っ……! 戦うに決まってんだろ!?」


イツキ

「だったら早く手伝え!」


タクミ

「指図すんなって言ってんだろ!?」


タクミ

「うおおおおおっ!」



 イツキが意識をひきつけたことで、夢魔に隙が出来ていた。


 タクミは大斧を、大上段に構えた。


 全力で、夢魔へと斬りかかった。


 そして、攻撃と共に、スキルを発動した。


 振り下ろしの瞬間、タクミの斧が、重量を増していた。


 重い斬撃が、夢魔の甲殻を裂いた。


 硬そうな夢魔の体表に、大きな傷がついた。



夢魔

「グゥゥ……!」


タクミ

「効いた……!」



 自分のスキルは、格上にも効果が有る。


 当たりさえすれば、効くのだ。


 タクミは、そんな手応えを感じていた。


 だが……。



タクミ

「あっ……」



 驚異を見過ごすほど、夢魔は愚かでは無かった。


 夢魔の前足が、素早くタクミの腹部を突いた。


 タクミの腹が、あっさりと貫かれた。


 バリアは意味を為さなかった。


 傷口から、輝くマインドブラッドが溢れた。


 リンカーが光った。


 タクミの体が輝き、消滅していった。


 ベイルアウトだった。



アンコ

「ノガミ……!」



 タクミのリタイアで、イツキたちのパーティは、2人になってしまった。



イツキ

「っ……! はあっ!」



 イツキは攻撃を続けた。


 最後まで戦うつもりのようだった。


 威力の低い攻撃を、めげずに夢魔に叩きつけていった。


 生徒が戦っているのに、教師が弱音を吐くわけにはいかない。



アンコ

「やるしか無いか……!」



 アンコは気だるい体を制御し、薙刀を構えた。


 そして、敵に向かっていった。




 ……。




 そして20分後……。


 結論を言えば、イツキは夢魔を倒すことは出来なかった。


 ダンジョンコアは無事だった。 


 夢魔は倒された。


 イツキ以外の者の手で。


 夢魔の体は、縦真っ二つに両断されていた。



ノハラ

「…………」



 1年4組、キノシタ=ノハラ。


 夢魔を屠ったのは、彼女のサムライソードだった。


 ノハラは、1年生最強と言われる優等生だ。


 今のイツキとは対極の存在だった。


 彼女は、オクカワ=コータが呼んだ増援だった。



夢魔

「…………」



 2つに分かれた夢魔が、地面へと沈んだ。


 巨体が地響きを立てた。


 死骸が光を放ち、消滅していく。


 その様子を、イツキは苦渋の表情で見た。



イツキ

「ノハラ……」


ノハラ

「イツキ……?」



 キノシタ=ノハラが、イツキの存在に気付いた。


 イツキは、地面に転がっていた。


 夢魔の攻撃を受けた直後だった。


 その隙をノハラが突いて、夢魔を倒したのだった。


 ノハラはイツキを知っていた。


 顔見知りだ。


 疎遠になったが、2人は幼馴染だった


 2人は数年ぶりに、お互いの名前を呼び合った。



イツキ

「…………」



 イツキは辛い過去の出来事を、思い出さざるをえなかった。




 ……。




 今より6年前。


 ヨコミゾ区に有る、イツキが住むマンション。


 イツキの部屋に、彼の友人たちが集まっていた。



カゲト

「約束通り、持ってきたぞ」



 濃いグレーの髪を持つ美少年、オノデラ=カゲトが言った。


 カゲトはショルダーバッグを開いた。


 そして、その中から、4つの腕輪を取り出した。


 リンカーだった。



ノハラ

「…………」



 ノハラはイツキの隣に座ったまま、無言だった。



ヒトシ

「本物?」



 イツキのクラスメイト、ヤマノ=ヒトシがそう尋ねた。



マサヨシ

「本物のリンカーなの?」



 同じくクラスメイトの、イシカワ=マサヨシが、質問を重ねた。



カゲト

「ああ。本物だ」



 カゲトは頷いた。



イツキ

「よく手に入ったな」



 イツキは感心した風に言った。



カゲト

「ま、なんとかな。ただ……」


カゲト

「マスターリンカーを含めて、4つしか手に入らなかった」


ヒトシ

「えっ」


イツキ

「一人あぶれるわけだ」


ノハラ

「私は別に……」



 ノハラは遠慮する様子を見せた。


 イツキは、そんなノハラの表情を観察した。


 ぼやっとしている。


 何を考えているのか、付き合いの長いイツキにも、分からなかった。



イツキ

「…………」


イツキ

「ジャンケンで決めるか」



 イツキとしては、ノハラを仲間外れにするのは嫌だった。


 だから、そう提案した。



ヒトシ

「よし! やるぜ!」



 イツキの提案に対し、周囲も乗り気になった。


 ジャンケンをすることに決まった。



ヒトシ

「最初はグー! じゃんけんぽん!」



 グーとパーが、その場に出揃った。


 グーを出していたのは、ヒトシ1人だけだった。 


 ヒトシの負けだった。



ヒトシ

「負けたああああああああぁぁぁ!」



 ヒトシは大げさにリアクションを取った。



イツキ

「ちょっとしたら、代わってやるよ」


ヒトシ

「絶対だぞ!? 絶対だからな!?」


イツキ

「はいはい」


ヒトシ

「何だそのいいかげんな返事は! ホントに分かってるのか!?」


イツキ

「分かってるって」


マサヨシ

「それで、ヒトシがハズレなのは、決まったワケだけど……」


ヒトシ

「ハズレ言うな」


マサヨシ

「ふふ。まあそれは置いといてさ」


マサヨシ

「誰がマスター使うの? っていうか……」


マサヨシ

「これから僕たちは、誰のダンジョンに行くのかな?」


ノハラ

「私は……」


ノハラ

「イツキのダンジョンが良い」



 あまり自己主張しないノハラが、はっきりとそう言った。



ヒトシ

「やっぱりお前ら付き合ってんだろ」


イツキ

「ねえっての」


マサヨシ

「決まりだね」


カゲト

「ああ」



 特に反対をする理由も、無かったらしい。


 イツキのダンジョンに、行くことに決まった。


 ヒトシ以外の4人が、リンカーを腕にはめた。



ヒトシ

「早く帰って来いよ~」


イツキ

「ああ」


イツキ

「それじゃ、行くぞ」


マサヨシ

「うん」


ノハラ

「…………」


カゲト

「…………」



 心層へ行く。


 4人は目を閉じて、そう念じた。


 体が輝いた。


 精神が、心層へと旅立っていく。


 4人のマインドボディが、心層に出現した。



マサヨシ

「ここは……?」



 マサヨシが、頭上に疑問符を浮かべた。


 マサヨシの周囲に、ダンジョンが高く聳え立っていた。


 通常のシフトで見られる光景では無い。


 ダンジョン頂上から遥か下。


 地上。


 イツキたちは、そこに立っていた。


 レイヤーシフトを行えば、ダンジョンの頂上に現れるはずだ。


 地面になど、現れるはずが無い。


 どう考えてもおかしい。


 何か奇妙なことが起こっていた。



ノハラ

「イツキのダンジョンは?」



 きょとんとした表情で、ノハラがそう尋ねた。


 イツキの腕に、マスターリンカーがはまっている。


 その状態で、シフトした。


 それならば、ここはイツキの領地のはずだ。


 だというのに、どうしてダンジョンが見当たらないのか。



カゲト

「まさか……」


イツキ

「え?」


カゲト

「イツキには……」


カゲト

「ダンジョンが無い……?」



 カゲトがそう呟いた。





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