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その2の2「急造チームと再突入」



アンコ

「は?」



 予想外の申し出に、アンコは間の抜けた声を上げた。



スミレコ

「ちょっと! 何言ってんの!」



 クラスの女子、イバラギ=スミレコが、イツキを睨んだ。


 茶髪で、頭からはロバのような耳が生えている。


 スカートからは、同様の尻尾も。


 トーキョーでは珍しくない、軽度の『亜人』だった。


 学校指定の制服を、自分なりに着崩している。


 長めのカールヘアは、ふわふわとして柔らかそうだ。


 オシャレに気をつかうタイプのようだった。


 スミレコは、不機嫌そうにイツキを睨んでいた。



スミレコ

「こんな時に、点数稼ぎなワケ?」



 劣等生が、少しでも心証を良くしようとしている。


 スミレコには、イツキの行動は、薄汚い点数稼ぎに見えたらしい。



イツキ

「そんなつもりは無いが……」



 イツキは点数稼ぎなど、微塵も考えていない。


 心にやましいモノが無いので、堂々としていた。



イツキ

「マインドパワーが余ってるなら、お前も来るか? イバラギ」


スミレコ

(こいつ、私の名前覚えてたんだ)


スミレコ

「それは……」


スミレコ

「私たちが、リンカーの枠を使って良いの?」


イツキ

「どうせ、ボランティアはすぐには来ない」


イツキ

「俺たち生徒で、なんとかするしか無い」


イツキ

「俺はもう行く。早く決めてくれ」


スミレコ

「行くし! 行けば良いんでしょ!?」


スミレコ

「ダン無しなんかに、良い顔はさせないから……!」



 それを見て、タクミが携帯から顔を離した。



タクミ

「テルオ、電話任せた」


テルオ

「えっ? おい……!」



 タクミはオオイワ=テルオに携帯を渡した。


 通話の途中だった。


 テルオは慌て、携帯に耳を当てた。


 タクミはイツキに向かい、言った。



タクミ

「俺も行くぜ」



 ダンジョン無しに、負けてはいられない。


 タクミはそう考えた様子だった。



イツキ

「ああ」



 拒む理由も無く、イツキは頷いた。



アンコ

「私は許可した覚えは無いんだが?」


イツキ

「細かいこと気にしますね」


アンコ

「は?」


イツキ

「時間の無駄です。俺はもう行きますよ」



 イツキの腕には、既にリンカーがはまっている。


 先ほどの実習で使ったものだ。


 イツキは、心層への移行を念じた。


 イツキの体が光った。


 そして、脱力して、床に倒れこんだ。



アンコ

「おい……!」



 倒れたイツキの顔を、アンコが覗き込んだ。


 既に意識は無い様子だった。



アンコ

「クソ……! ノガミ! こいつを椅子に運んでやってくれ!」


タクミ

「また俺?」



 しぶしぶと、タクミはイツキを抱き上げた。




 ……。




 イツキは心層世界に移動した。


 リンカーのおかげで、出現場所は、アンコのダンジョンの頂上だった。



イツキ

「…………」



 イツキは手首をいじりながら、頂上で少し待った。


 すると、見知った顔が3つ、転移してきた。



アンコ

「…………」


タクミ

「…………」


スミレコ

「…………」



 3人とも、表情は固かった。


 アンコにいたっては、見るからに顔色が悪い。


 マインドボディの構造は、人体とは異なる。


 その顔色の悪さは、彼女の精神状態のあらわれと言えた。



イツキ

「急ごう」



 イツキはポケットに手を入れて、そう言った。



イツキ

「先生は戦力と数えない方が良い。なるべく俺たち3人で敵を倒していくとしよう」


タクミ

「いちいち指図してんじゃねえぞ」


スミレコ

「そうだよ。ダン無しのくせに」


イツキ

「それなら、ノガミが指示を出してくれ」


タクミ

「お、俺か?」



 唐突の指名に、タクミは少しうろたえた。


 その様子を見て、イツキはスミレコの方を見た。



イツキ

「イバラギの方が良いか?」


スミレコ

「えっ? 私リーダーとかやったこと無いんだけど?」


タクミ

(俺も無いんだが……)


イツキ

「ノガミ」


タクミ

「……まあ、別に良いぜ?」



 ダンジョン無しの前で、腑抜けた様子は見せられない。


 タクミはリーダー役を引き受けた。



イツキ

「それじゃあ指示を出してくれ。ノガミ」


タクミ

「あぁ……。行くぞ」


アンコ

「…………」



 タクミを先頭に、4人はダンジョンに踏み入れていった。


 階段を下り、第1層の通路に出た。


 通路は広い。


 4人で並んでも、狭さは感じられなかった。



タクミ

「武器出しとけ」


イツキ

「分かった」


スミレコ

「はーい」


アンコ

「ん……」



 4人は影に向かって念じた。


 すると、影から各々のマインドアームが出現した。


 各自がそれを手に取った。


 イツキは木刀。


 タクミは大斧。


 スミレコは弓。


 アンコは薙刀だった。



スミレコ

「あれ? 武器出せるんだ? ダン無しなのに」



 スミレコは、イツキのマインドアームを見た。


 そして、意外そうに言った。



イツキ

「何だと思ってたんだよ? 俺のことを」


スミレコ

「そんなの知らないし……」


イツキ

「知らないのに避けてたのか?」


スミレコ

「ダン無しには関わるなって、皆言ってるもん」


イツキ

(皆……か)


イツキ

「ハッ」



 今まで無表情だったイツキが、短く笑った。


 何かを吐き出すように。


 そして、すぐに笑みを引っ込めた。


 いつもの無表情に戻っていた。



タクミ

「責めてんのか?」


タクミ

「気色悪いじゃねえかよ。ダンジョンが無いなんてよ」


タクミ

「誰もお前とは、関わりたくなんかねえ」


イツキ

「そうかよ」


スミレコ

「マインドスキルは? 持ってるんでしょ?」


イツキ

「一応、スキルと呼べそうなモノは有る」


イツキ

「けど、期待するな」


イツキ

「俺のスキルは、攻撃に使えるようなモノじゃあ無い」


スミレコ

「ハズレスキルなんだ?」


イツキ

「どうかな?」


タクミ

「強がってんじゃねえぞ。ハズレ野郎が」


イツキ

「勝手にあだ名を増やすな」


イツキ

「『人のスキルを笑うな』という小説も有る」


タクミ

「有ったら何だよ」


スミレコ

「映画の方なら見たよ。面白かった~」


イツキ

「原作も読め」


スミレコ

「文章はパス」


イツキ

「む……」


タクミ

「……意外と馴染んでんな。お前ら」


スミレコ

「ここだけね」


スミレコ

「ダン無しと話してたなんて、言いふらさないでよね」


スミレコ

「私にもホラ、クラスでのタチバナサンってモノが有るからさ。ウェーイ」


タクミ

「……ドライだな。お前」


スミレコ

「普通だけど?」


スミレコ

「……私って、コレでしょ?」



 スミレコは、自分の頭を指差した。


 そこから生えている、獣のような耳を。



イツキ

「ロバ娘だな」



 イツキは、サ○ゲームスの人気ゲームにちなんで、そう言った。



スミレコ

「遠慮無いね?」


イツキ

「ダン無しよりマシだろ」


スミレコ

「そうかも」


スミレコ

「とにかく、人には無い特徴が有ると、周りから浮かないように、気も遣うワケ」


イツキ

「ふーん?」


スミレコ

「王様の耳はロバの耳~ってさ。何回やるんだって話よ。飽きずに飽きずにさ」



 少し話が飛んだ。


 スミレコも、それは分かっていたようだ。


 すぐに次の言葉を継いだ。



スミレコ

「……小学校の頃の話ね」


スミレコ

「最近は、ウ○娘のせいで、キモイ男子に声かけられるしさ」


スミレコ

「オタクならロバとウマの区別くらいつけろっての」


タクミ

(どういう理屈だ?)


イツキ

「お前も色々大変なんだな」


スミレコ

「あんたほどじゃ無いけどさ」


スミレコ

「にしても……なかなか敵が出てこないね?」


イツキ

「夢魔にやられたんだろう」


スミレコ

「あれ? 迷獣って、夢魔と戦うの?」


イツキ

「授業でやったぞ」


スミレコ

「う……」


スミレコ

「仕方ないでしょ? ベンキョーはニガテなんだから」


イツキ

「……そうか」


イツキ

「とにかく、迷獣は、夢魔も襲う」


イツキ

「そして夢魔は、平均的な迷獣よりも、遥かに強い」


スミレコ

「えっ……」


イツキ

「そうじゃなきゃ、夢魔が迷獣に倒されちゃうだろ」


イツキ

「だったら、コマーシャルシフターズなんて、必要が無い」


スミレコ

「そっか……」


スミレコ

「そうだよね……」





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