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その29「昔語りと最初の悪夢」



イツキ

「…………!」



 イツキは慌て、ルーに駆け寄った。


 そしてすぐに、ユニコの後ろに跨った。



ユニコ

「飛ばします。しっかり捕まって下さい」



 そう言われ、イツキはユニコに手を伸ばした。


 ぎゅっと強く、抱きついた。



ユニコ

「あっ……」



 ユニコは吐息をもらした。



イツキ

「悪い。強かったか?」


ユニコ

「いえ。大丈夫です」



 ユニコはツノを、光らせた。


 イツキとユニコを乗せて、ルーは飛び立った。


 そして、ぐんぐんと加速していった。



イツキ

「速いな……」


ユニコ

「サラマ○ダーの3倍です」


イツキ

「なんのこっちゃ」


イツキ

「これで本当に、ノハラの所に行けるのか?」


ユニコ

「はい。こんな時に、嘘はつきませんよ」


ユニコ

「つくならもっと小さくて、可愛らしい嘘です」


イツキ

「……恩に着る」


ユニコ

「どうも」


ユニコ

「それなら、お礼代わりに、聞かせてもらっても良いですか?」


ユニコ

「あなたとキノシタさんの間に、いったい何が有ったのか」


イツキ

「別に、面白い話でも無いぞ?」


ユニコ

「それでも、聞きたいです」


イツキ

「……分かった」


イツキ

「あれは5年前」


イツキ

「まだ俺たちが、小学生だった頃の話だ」




 ……。




 6年前。


 イツキがノハラたちと一緒に、シフトした後……。


 誰が言いふらしたのか、イツキがダンジョン無しということは、学校中に知れ渡っていた。


 やがて、イツキの存在はニュースになり、世界中に知れ渡った。


 ダンジョン無しは、気色悪い。


 いつの間にか、そんな価値観が出来ていた。


 イツキは友だちを失った。


 それを期に、イツキをいじめようとする者も居た。



「やーい。ダンジョン無し」



 口で何かを言ってくるだけなら、無視することにした。


 だが、それ以上の危害を、加えようとする者も居た。


 そういう連中は、顔を3発ほど殴ると、大人しくなった。


 顔を腫らした、いじめっ子の親が、イツキを糾弾した。


 ヤーコフが、学校に呼び出された。


 ……それから少しして、何故かいじめは無くなった。


 マスコミの連中も、いつの間にか来なくなった。


 だが、元通りにもならなかった。


 イツキは、腫れ物のような扱いになった。


 上でも下でもない。


 孤立した存在。


 遠くに見える浮島。


 あるいは、空に浮かぶ新月か。


 イツキに近寄ってくるのは、ノハラだけになっていた。


 嫌われ者のイツキと付き合うことで、ノハラも当然に孤立した。


 イツキにはノハラだけ。


 ノハラにもイツキだけ。


 それでも構わないと、イツキは思っていた。


 だが……。



ノハラ

「うう……」



 イツキたちが孤立してから、一年ほど後。


 ある日の教室。


 授業中に突然、ノハラが倒れた。


 イツキはノハラに駆け寄った。


 その勢いで、イツキの椅子が倒れた。



イツキ

「ノハラ……!? どうした!?」


ノハラ

「苦しい……」


ノハラ

「何か怖いものが……私の中に入って来る……」


カゲト

「まさか……夢魔のダイアブロシスか……!?」


イツキ

「ッ!?」


ムネタカ

「落ち着くんだ」



 担任の、ヤマザキ=ムネタカが、口を開いた。



ムネタカ

「僕はキノシタを、保健室に運んでいくから、大人しくしているように」


カゲト

「早くシフターズを呼ばないと、手遅れになります」


ムネタカ

「分かった。ボランティアに連絡する」



 そう言って、ムネタカは携帯を取り出した。



カゲト

「ボランティアなんてアテになりませんよ!」



 カゲトは、苛立たしげにそう言った。



ムネタカ

「コマーシャルシフターズを呼ぶには、保護者の了承が必要だ」


ムネタカ

「僕に出来るのは、ボランティアを呼ぶことだけだよ」


カゲト

「…………」


カゲト

「ノハラの両親に、連絡します」


ムネタカ

「ああ」



 カゲトは、携帯を取り出した。


 校則違反のはずだが、ムネタカは何も言わなかった。


 ムネタカは、ボランティアに連絡した。


 同時にカゲトも、ノハラの家族に連絡した。


 電話が終わると、ムネタカは、ノハラを抱え上げた。



イツキ

「俺も行きます!」


ムネタカ

「分かった」



 イツキは、ムネタカの後に続いた。



カゲト

「…………」



 2人と疎遠になっていたカゲトは、ノハラたちを見送った。


 イツキたちは、教室を出た。


 クラスの教室は、校舎の3階に有った。


 ムネタカは、階段を降り、1階に向かった。


 保健室は、1階の端に有った。


 保健室に入ると、ムネタカは、ノハラをベッドに寝かせた。


 イツキはベッド脇に立った。



ノハラ

「はぁ……はぁ……」



 ノハラの顔色は悪い。


 苦しそうに息をしていた。



イツキ

「ノハラ……」



 イツキは、苦しむノハラの手を掴んだ。


 それ以外に、出来ることは無かった。


 やがて、ノハラの両親が、保健室に姿を見せた。


 父、ヒロシと、母、アヤが、ノハラに駆け寄ってきた。



ヒロシ

「ノハラ……!」


アヤ

「大丈夫なの……!?」



 2人はそれぞれに、ノハラに声をかけた。


 ヒロシは工場の作業着を、アヤはスーパーの制服を着ていた。



ノハラ

「お父さん……お母さん……」


ヒロシ

「ダイアブロシスだっていうのは、間違い無いのか?」



 ヒロシは保険医、テラシマ=マサキに問いかけた。



マサキ

「セカンドシャドウに、揺らぎが有ります」


マサキ

「私は専門医ではありませんが、可能性は高いと思われます」


ヒロシ

「そんな……!」


アヤ

「すぐにシフターズを呼びましょう……!」


ヒロシ

「そうだ。ボランティアにはもう連絡したのか?」


マサキ

「はい」


ヒロシ

「まだ来ないのか?」


アヤ

「分かってるでしょう? ボランティアなんて、アテになるわけが無いって」


アヤ

「コマーシャルシフターズを呼ぶべきだわ」


ヒロシ

「だが、ウチにそんな金は……」


アヤ

「お金が何よ! 娘が死んでも良いって言うの!?」


ヒロシ

「借金しろって言うのか?」


アヤ

「他に手が有る?」


ヒロシ

「きっともうすぐ、ボランティアが来るさ」


アヤ

「それで来なかったらどうするの?」


ヒロシ

「それは……だが……」


イツキ

「っ……!」



 イツキは2人の争いを、見ていられなくなった。


 それで、あることを決めた。



ヒロシ

「イツキくん……?」



 イツキは駆けた。


 保健室を飛び出していった。


 階段を駆け上がり、クラスの教室に戻った。



イツキ

「カゲト……!」



 イツキはカゲトに声をかけた。



カゲト

「イツキ? どうした? ノハラは?」


イツキ

「リンカーを貸してくれ! 頼む!」


カゲト

「リンカー?」


イツキ

「学校に持って来てるんだろ?」


カゲト

「そうだが……」


イツキ

「俺がノハラのダンジョンにシフトして、夢魔と戦う」


カゲト

「無茶だ……!」


イツキ

「ボランティアが間に合わなかったら、ノハラが死ぬぞ!」


カゲト

「コマーシャルは? ノハラの親はまだ来ないのか?」


イツキ

「おじさんたちは来た……」


イツキ

「けど、コマーシャルは来ないかもしれない」


カゲト

「…………!」



 カネが払えずに、家族の命を諦める。


 そんなことは、この世界では珍しくは無い。


 カゲトはすぐに、イツキの言葉の意味を、理解した。



カゲト

「分かった」



 カゲトは椅子から立ち上がった。



カゲト

「ただし、俺も行く」


イツキ

「良いから急いでくれ」


カゲト

「ああ」



 カゲトはランドセルから、リンカーを取り出した。


 リンカーは、子供のおもちゃでは無い。


 普段から持ち歩いているのは、学校全体を見ても、カゲトだけだった。



カゲト

「行こう」



 2人は駆け出した。


 すぐにイツキは、保健室に戻ってきた。


 ノハラの両親は、まだ何か言い争いをしていた。


 イツキは切なくなった。


 だが、それに構っている場合では無かった。


 カゲトはノハラに、リンカーを渡した。



カゲト

「これを」


ノハラ

「…………?」


イツキ

「俺たちが、夢魔を倒す」


ヒロシ

「……! イツキくん!? 何を!?」



 イツキたちに気付いたヒロシが、驚きを見せた。


 3人が、リンカーをはめた。



イツキ

「行くぞ!」


カゲト

「しかたない……!」



 イツキとカゲトは、立ったままシフトを行った。


 倒れそうになった2人を、ヒロシが慌てて支えた。


 そして、2人のマインドボディが、心層に出現した。



イツキ

(入り口はあそこか)



 イツキはすぐに、ノハラのダンジョンの入り口を見た。


 そのとき……。



ノハラ

「イツキ」



 ノハラのマインドボディが、心層にシフトしてきた。


 その体は、半透明だった。



イツキ

「ノハラ?」


ノハラ

「私も行く」


イツキ

「危ないぞ。リアルで待ってろ」


ノハラ

「ハーフシフトだから、大丈夫」


イツキ

「……分かった」



 3人は、ダンジョンに入った。


 イツキとカゲトは、マインドアームを呼んだ。


 イツキは木刀。


 カゲトは双剣だった。



イツキ

「カゲト。お前、レベルは?」



 ダンジョンの通路で、イツキはカゲトに尋ねた。



カゲト

「25だ」


イツキ

「……! 凄いな……」


カゲト

「父さんに言われて、パワーレベリングしたのさ」


カゲト

「レベルが高い方が、こういう時の生存率も上がるしな」


イツキ

「頼りにしてるぞ」


カゲト

「……ああ」



 3人は、ダンジョンを探索した。


 初めてなので、マップもロクに分かっていない。


 すぐに、迷獣と出くわした。


 狼型の獣だった。



「グルル……!」


イツキ

「っ!」



 狼は、イツキに向かって、突進してきた。


 イツキは狼に、押し倒された。



イツキ

「ぐっ……!」


ノハラ

「イツキ!」


カゲト

「ッ!」



 イツキの危機を見て、カゲトが狼に斬りかかった。



「ギャッ!?」



 双剣が、狼の胴を裂いた。


 レベル25の攻撃だ。


 威力が有った。


 狼は絶命し、消滅していった。



カゲト

「大丈夫か?」


イツキ

「……ああ。助かった」



 イツキは立ち上がり、そう答えた。



ノハラ

「怪我は?」


イツキ

「リンカーが守ってくれた。多分……」



 そう言って、イツキはリンカーを見た。



イツキ

(ある程度のダメージを受けると、ベイルアウトなんだよな……)


イツキ

「…………」



 イツキの手が、リンカーに触れた。


 もう1度、同じことが有れば、自分は心層に、居られないかもしれない。


 そう思ったイツキは、こっそりとリンカーを外してしまった。



イツキ

(俺よりもカゲトの方が、明らかに強い)


イツキ

(これがダンジョンレベルの差か……)


イツキ

(俺が言い出したんだ。足手まといにならないようにしないと……)



 イツキは自身のマインドアームを、ぎゅっと握りしめた。




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