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その28「その悪夢と再び」



 少しぎこちない、闇のカラオケが終わった。


 打ち上げの帰り道。


 辺りは、暗くなり始めていた。


 やがて、交差点に来た。


 イツキとタクミの、帰路を分かつ道だ。


 5人は、曲がり角で立ち止まった。



イツキ

「じゃあな。気をつけて帰れよ」


ニゾウ

「拙者が命に代えても、タクミどのを、家までお送りするでござる」


タクミ

「俺、何に狙われてんの?」


タクミ

「…………」


タクミ

「なあ」


イツキ

「んー?」


タクミ

「俺が4組に行けるのは、お前らが助けてくれたおかげだ」


タクミ

「ありがとな。皆」


タクミ

「今日は楽しかったぜ。それじゃ」



 言葉を全て吐き出すと、タクミはイツキに背を向けた。


 タクミはニゾウと共に、イツキから遠ざかっていった。



イツキ

「俺も……」



 イツキはそう呟いて、すぐに黙った。



イツキ

「…………」



 そして、ユニコとミカヅキを見た。



イツキ

「俺たちも、帰るか」


ユニコ

「はい」


ミカヅキ

「にんにん」



 イツキたちは、自分たちの帰り道を、歩き始めた。




 ……。




 タクミは自宅へと、たどり着いた。


 そして、玄関の扉を開いた。



タクミ

「ただいまー」



 タクミは家の中に、声をかけた。


 そして、出迎えに来た家族に対し、言った。



タクミ

「俺さ……」


タクミ

「4組に行けることになったよ」




 ……。




 翌朝。


 タクミはいつものように、クラスの教室に入った。


 そこには既に、イツキたちの姿が有った。



タクミ

「おはよー」



 タクミは朝の挨拶をした。


 イツキたちが、それに答えた。



イツキ

「おはよう」


ユニコ

「おはようございます」


ミカヅキ

「おはようでござる」


タクミ

「あと数日だが、よろしくな」


イツキ

「ああ」



 いつものような1日が始まった。


 ……そのはずだった。




 ……。




 3限目。


 特別教室。


 4組の生徒たちが、ダンジョン実習を行っていた。


 ノハラたちは、ノハラのダンジョンの頂上へとシフトした。


 4人のマインドボディが、心層に出現した。


 ノハラたちは、ダンジョン入り口に足を向けた。


 だが……。



ジョイチ

「おい、どうした?」



 動こうとしないケンヤに、ジョイチが声をかけた。



ケンヤ

「…………」



 ケンヤは、無表情で俯いていた。


 そして言った。



ケンヤ

「やる気が、出ない」


ケンヤ

「今日は、3人で行ってくれ」


ジョイチ

「そんな腑抜けてっと、4組に戻って来れねえぞ?」



 ジョイチなりに、発破をかけたつもりだった。


 だが……。



ケンヤ

「…………」



 ケンヤは黙ったまま、その場から動かなかった。



カゲト

「もう良い。行こう」


ノハラ

「けど……」


カゲト

「どうせ、このパーティで潜るのも、今週で終わりだ」


カゲト

「今のうちに、ケンヤの居ない状況に、慣れておく必要が有る」


ジョイチ

「ケンヤ……」


ジョイチ

「置いていって、良いんだな?」


ケンヤ

「……うん」


カゲト

「行こう」


ジョイチ

「分かったよ」


ノハラ

「…………」



 3人で、ダンジョンの入り口へと歩いた。


 ノハラとジョイチは、途中でケンヤへと振り返った。


 カゲトは振り返らなかった。



ケンヤ

「…………」



 ケンヤは1人、頂上に残された。


 無色だったケンヤの顔に、憎悪の色が宿り始めた。



ケンヤ

「何が……」


ケンヤ

「何が、レベルさえ上げれば勝てるだ……」


ケンヤ

「騙しやがって……」


ケンヤ

「70万も借りて……4組に残れなかった……」


ケンヤ

「もう……家族にも……会わせる顔が無い……」



 ケンヤは負けた。


 敗北が、彼の心をへし折っていた。


 彼の顔に、薄暗い、負け犬の笑みが浮かんだ。



ケンヤ

「だから……」


ケンヤ

「お前たちも苦しめ」



 ケンヤは、リンカーを外した。


 それを放り捨てると、マインドアームを召喚した。


 影から現れたロングソードが、ケンヤの手に握られた。


 ケンヤはそれで、自分の手首を切りつけた。


 手首が裂け、マインドブラッドが流れ出した。



ケンヤ

「フッ……」


ケンヤ

「ヒヒッ……!」


ケンヤ

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」



 ケンヤは傷ついた腕を、ぶんぶんと振り回した。


 ケンヤの血が、ダンジョンの頂上を濡らしていった。


 ノハラのダンジョンを。




 ……。




 3限目が終わり、イツキたちは、特別教室へ向かった。


 イツキたちの4限目が、ダンジョン実習だったからだ。



イツキ

「…………?」


ミカヅキ

「むむ……?」


ユニコ

「何の騒ぎでしょうか?」



 特別教室前。


 廊下で、イツキたちは立ち止まった。


 辺りには、野次馬が集まっていた。


 妙な雰囲気だった。


 チリリと、喉奥が焼かれるような。


 イツキはそれを、どこかで感じたような気がしていた。



タクミ

「おい、何が有ったんだ?」



 タクミは野次馬の1人に、声をかけた。



「ああ。実は……」



 その男子は、素直に質問に、答えはじめた。



「夢魔のダイアブロシスが、起きたらしい」


「4組の生徒が1人、夢魔に侵入されたって」


イツキ

「……どけ」



 イツキは、野次馬の生徒を押しのけた。


 そして、教室に入っていった。



ユニコ

「アマノさん……!?」



 イツキは、ずかずかと、教室の中央まで歩いた。


 そして、周囲を見渡した。



イツキ

「…………!」



 とある椅子の周囲に、人だかりが出来ていた。


 その椅子には、ノハラの姿が有った。



イツキ

「ノハラ……!」



 イツキはノハラに、近付いて行った。



ノハラ

「イツキ……?」



 ノハラはイツキに気付いたようだ。


 2人の目が合った。


 ノハラの顔色は、悪かった。



イツキ

「何があった?」



 現実を理解しながら、イツキはノハラに尋ねた。



ノハラ

「夢魔が……私のダンジョンに……」


イツキ

「何でだよ……」


イツキ

「お前……これで2回目じゃねえか……」


カゲト

「あいつの仕業だ」



 カゲトはそう言って、怒りの視線をケンヤに向けた。



ケンヤ

「ヒッ……ヒヒヒヒッ……」



 ケンヤは地面に座り込み、壊れたみたいに笑っていた。


 実際に、彼の心は、壊れていたのかもしれない。


 カゲトは舌打ちすると、視線をイツキに戻した。



イツキ

(ノガミと戦った奴か)


イツキ

「あいつがどうしたんだよ?」


カゲト

「入れ替え戦で負けた八つ当たりで、ノハラのダンジョンに血をまいた」


イツキ

「…………!」


イツキ

(俺が、ノガミを勝たせたから……?)



 悪いのは、ケンヤだ。


 イツキに罪は無い。


 だが、因果の流れとして、イツキの行動は、ノハラを危機に追い込んでいた。



イツキ

「……状況は?」


カゲト

「イトー先生が、1人で夢魔を追ってる」


イツキ

(あの人なら、生徒のマップも把握してるか)


イツキ

「お前は?」


カゲト

「……負けた」


カゲト

「ダンジョン攻略で、疲弊してた。どうしようも無かった」



 カゲトたちは、ダンジョンで夢魔を迎え撃ち、敗北したらしかった。


 このパーティの、最高戦力は、ノハラだ。


 だが、夢魔に侵入されると、能力が劇的に低下する。


 いくらノハラでも、その状態で夢魔を倒すことは、出来なかったのだろう。



カゲト

「再戦するだけのマインドパワーは、残っていない」


ジョイチ

「…………」


イツキ

「シフターズは呼んだのか?」


カゲト

「これから呼ぶところだ」


イツキ

「だったら、何をチンタラしてる」


ノハラ

「お金は無い。呼ぶならボランティアにして」


カゲト

「そんなことを言ってる場合か?」


カゲト

「金なら、俺が立て替えてやる」


カゲト

「俺はノハラの彼氏なんだから……!」


ノハラ

「ダメ」


カゲト

「ノハラ……!」


イツキ

「リンカーを貸してくれ」


ノハラ

「え……?」


イツキ

「俺が夢魔を倒す」


ノハラ

「駄目」



 ノハラは確固たる意思で、イツキにそう言った。



イツキ

「ノハラ……」


ノハラ

「させない……!」


ノハラ

「イツキにはもう2度と、あんな目にはあわせない……!」


イツキ

「ッ……! カゲト……! 頼む……!」



 ノハラとは、話にならない。


 そう思ったイツキは、カゲトにリンカーをねだった。



カゲト

「悪いが、ダンジョン無しのお前に、何が出来るとも思わない」


カゲト

「リンカーは渡せない。悪いな」


イツキ

「ぐ……!」


カゲト

「これは4組の問題だ。放っておいてくれ」


「そうだ! 図々しいぞ!」


「ダンジョン無しのくせに!」



 大した理由もなく、イツキは4組にも嫌われていた。


 4組の連中が、イツキに掴みかかった。



イツキ

「くっ……! 俺は……!」


ユニコ

「アマノさんを放せ」



 ユニコが、冷たい声でそう言った。


 ユニコのツノが、輝いた。


 ユニコの影から、巨大な猫が現れた。



ルー

「ぐるおおおおおおおおおおぉぉっ!」



 猫は、猛獣のように吠えた。



「うわあっ!?」


「虎!?」


「きゃあああああっ!?」



 イツキを掴んでいた連中が、後ろに下がった。



ルー

「…………」



 ルーは、ノハラに歩み寄った。


 そして、くんくんと匂いを嗅いだ。



ノハラ

「…………?」


ユニコ

「ルー。戻って下さい」


ルー

「みゃあ」



 ユニコの指示を受け、ルーはユニコの影へと帰っていった。



ユニコ

「アマノさん」


ユニコ

「ここはいったん退きましょう」


イツキ

「けど……」


ユニコ

「これが最善です」


イツキ

「……?」



 ユニコは、イツキの手を引いた。


 強く。


 イツキは特別教室から、連れ出された。


 ユニコはそのまま、屋上へ向かった。


 屋上の鍵は、何故か開いていた。


 ユニコは屋上で、イツキと向き合った。



イツキ

「何のつもりだよ?」


ユニコ

「これを」



 ユニコはリンカーを、イツキへと投げた。


 イツキはそれを受け取った。



イツキ

「これはまさか……!」



 期待と共に、イツキはリンカーを装着した。



ユニコ

「シフトして下さい」


イツキ

「分かった」



 イツキは横になり、レイヤーシフトを行った。


 そして……。


 落胆した。



イツキ

「なんだよ……」


イツキ

「お前のダンジョンじゃねえか」



 イツキたちが降り立ったのは、ユニコのダンジョンだった。


 ダンジョン実習のとき、イツキは数度、ここに潜ったことが有った。



ユニコ

「はい」



 ユニコの角が、輝いた。


 空から、ルーが舞い降りてきた。



ルー

「みゃあ」



 ルーはユニコの隣に着地し、鳴き声を上げた。



イツキ

「…………?」


ユニコ

「アマノさん」


ユニコ

「ルーに、キノシタさんの匂いを、覚えさせました」



 そう言って、ユニコはルーに跨った。



ユニコ

「さあ、乗って下さい。アマノさん」


ユニコ

「ルーがあなたを、キノシタさんのダンジョンへと導きます」





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