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その23「タクミと自主トレ」




タクミ

「まあな。たまにはどっか遊びに行くか?」


イツキ

「いや」


タクミ

「じゃあ何だよ?」


イツキ

「俺の家に来い」


タクミ

「……? 分かったけど」


タクミ

「お前、家どこだよ?」


イツキ

「あれ? 知らんっけ?」


タクミ

「知らん」


イツキ

「住所教えたら、来られるか?」


タクミ

「多分な」


イツキ

「ん」




 ……。




 土曜日になった。


 タクミは、イツキの家を訪れた。



イツキ

「んじゃ、上がってくれ」



 玄関に立ったタクミに、イツキはそう声をかけた。



タクミ

「おじゃましまーす」


ユニコ

「ノガミさん。おはようございます」



 イツキの隣に立つユニコが、タクミに挨拶をした。



タクミ

「本当に、一緒に住んでんだな」


イツキ

「羨ましかろう」


タクミ

「ホントにな」



 そのとき、ダイニングの方から、ナツキが姿を見せた。



ナツキ

「いらっしゃい」


タクミ

「はい。えっと……」


ナツキ

「アマノ=ナツキ。イツキの姉です」


タクミ

「どうもお姉さん。ノガミ=タクミです」


イツキ

「止めろよ母さん」


タクミ

「母親?」


イツキ

「……ああ」


タクミ

「お若いっスね」


ナツキ

「あらあら。お世辞でも嬉しいわ」


ナツキ

「……どうかイツキのこと、よろしくおねがいします」



 ナツキは深く頭を下げた。



タクミ

「えっ? はい」


ナツキ

「ゆっくりしていってね」



 そう言うと、ナツキはダイニングに戻っていった。


 それと入れ替わりに、アキヒメの部屋の扉が開いた。


 その隙間から、アキヒメが顔を出した。



アキヒメ

「…………?」



 話し声を聞きつけて、様子を見に来たらしい。



タクミ

「おはよう」


アキヒメ

「はい。おはようございます」


イツキ

「妹のアキヒメだ。ヒメ。こいつはクラスメイトのノガミ」


アキヒメ

「ノガミさんは、イツキのお友だちですか?」


イツキ

「ただのクラスメイトだ」


タクミ

「頑固だなお前。ってかずるいぞ」


タクミ

「クラスメイトと同棲してる上に、こんな可愛い妹さんも居るなんて」


イツキ

「ヤランゾ」


アキヒメ

「人を物みたいに言うの、止めてもらえます?」



 アキヒメはイツキに、ジト目を向けた。



アキヒメ

「……イツキをよろしくお願いします」


タクミ

「ああ。任せとけ」


アキヒメ

「はい。それでは」



 アキヒメは、自室に戻っていった。


 そして、部屋の扉を閉じた。



イツキ

(2人ともどうして、俺をヨロシクしていくんだ?)


タクミ

「美人だなー」


イツキ

「まあ、それは否定せんが」


ユニコ

「…………」


イツキ

「ってかお前、妹居るよな? 確か」


タクミ

「ああ」


イツキ

「何が羨ましいんだ? お前の妹ブスなのか?」


タクミ

「は? 世界一可愛いわ。殺すぞ」


イツキ

「……じゃあ何なんだよ」


タクミ

「血のつながらない妹は、別腹だ」


イツキ

「なんのこっちゃ……」



 意味が分からなかったので、イツキは話を打ち切ることにした。



イツキ

「俺の部屋、こっち」



 イツキは自室の扉を、親指で示した。



ユニコ

「私もご一緒しても、よろしいですか?」


イツキ

「良いけど、つまらんぞ」


ユニコ

「望むところです」


イツキ

「そ」



 3人は、イツキを先頭にして、イツキの部屋に入った。


 部屋に入ると、タクミは室内を見回した。



イツキ

「あんまりジロジロ見るなよ」


タクミ

「恥ずかしいのか? 部屋見られるくらいのことが」


イツキ

「……別に。好きにしろよ」


タクミ

「しかし、何もねえな。お前の部屋」



 イツキの部屋は、実に殺風景だった。


 視界に入るのは、教科書などの必需品だけ。


 趣味の品物らしきものは、何も見当たらなかった。



イツキ

「有るだろ。椅子と机とベッドが」


タクミ

「年頃の男子の部屋に、漫画が無い。ゲーム一つ無い」


イツキ

「ゲームなら、リビングに有るぞ」


イツキ

(弟のだけど)


タクミ

「そうか。ビビらせんなよお前」


イツキ

「ビビってどうする」


タクミ

「それで? これからどうすんだ?」



 イツキはポケットから、リンカーを2つ取り出した。


 そして、その片方を、タクミに放った。



イツキ

「シフトするぞ」


タクミ

「どこに?」


イツキ

「俺の領地」


タクミ

「……? 分かった」


ユニコ

「あの、私の分は?」


イツキ

「リビングで取ってこい」


ユニコ

「冷たいです」


イツキ

「仕方ないだろ。予定に無かったんだから」


ユニコ

「そうですけどね」


タクミ

「シフト用の椅子は?」


イツキ

「床にでも寝てろ」


タクミ

「お前なあ……」



 床に寝てシフトするのは、不可能では無い。


 だが、長時間シフトすれば、体が痛くなるのは確実だった。



タクミ

「客をもてなす態度か? それが」


イツキ

「俺のベッドとか、お前も嫌だろ」


タクミ

「……床で良いです」


タクミ

「一応、エアコンはつけてくれよ」


イツキ

「分かった」



 シフト時の身体の状態は、睡眠時に近い。


 温度の管理をしないと、風邪を引くリスクが有った。


 イツキは、エアコンのリモコンを押した。


 ピッと電子音が鳴った。


 エアコンが作動した。



タクミ

「それじゃ、行きますか」



 タクミは床に座り、リンカーを手首にはめた。



ユニコ

「私は、ヒメちゃんの部屋から、潜りますね」


イツキ

「ああ」


ユニコ

「私が行くまで、待ってて下さいね」


イツキ

「分かった」


ユニコ

「はい」



 ユニコは部屋を出ていった。



タクミ

「ひょっとして、あの2人、同じ部屋で暮らしてるのか?」


イツキ

「ああ。それが?」


タクミ

「みなぎるわ」


イツキ

「人の妹を変な目で見るんじゃねえよ殺すぞ」


タクミ

「シスコンめ」


イツキ

「違うが?」


タクミ

「シフトするんだろ? 行くぞ」


イツキ

「……ああ」



 イツキはリンカーを装着した。


 そして、ベッドに横になった。


 目を閉じ、心層にシフトした。



イツキ

「…………」



 イツキのマインドボディが、心層に出現した。


 ほぼ同時に、タクミも姿を現した。


 それから少し遅れて、ユニコがシフトしてきた。



ユニコ

「っと」


タクミ

「ここは……?」



 タクミには、馴染みのない風景だ。


 彼は周囲を見回した。


 そこは、心層世界の地表。


 周囲には、ダンジョンが高く、そびえ立っていた。



イツキ

「ここは、俺の領地だ」


タクミ

「…………」



 心層の領地には、本来は、ダンジョンが有る。


 イツキの領地は、更地だった。


 寂寞。


 空虚。


 タクミはその光景に、圧倒された様子だった。



タクミ

「本当に無いんだな……。何も……」


イツキ

「信じて無かったのか?」


タクミ

「いや。そうじゃねえけどさ……」


タクミ

「話で聞くのと、実際に見える景色は、違うな」


イツキ

「そ」


タクミ

「高いな。ダンジョンってのは」



 タクミは前方のダンジョンを見上げ、言った。



イツキ

「そうだな」


ユニコ

「…………」



 ユニコの角が光った。



タクミ

「うおっまぶしっ」



 タクミは右手で、視界を覆った。



ユニコ

「すいません」


タクミ

「それ、光るのかよ」


ユニコ

「はい。光ります」



 ユニコは、空を見上げた。


 やがて、ルーが舞い降りてきた。



タクミ

「猫……? まさか、天獣か?」


ユニコ

「ルーと云います。お友だちです」


ルー

「みゃあ」


タクミ

「……? こいつを紹介するのが、今日の目的だったのか?」


イツキ

「違うが?」


タクミ

「じゃあ何すんだよ?」


イツキ

「…………」



 イツキは、左足のつま先を、タクミに向けた。


 そして、素手で構えた。



イツキ

「組み手をするぞ。かかって来い」


タクミ

「組み手? 素手でか?」


イツキ

「最初はな。良いから、かかって来い」


タクミ

「……分かったよ。行くぞ……!」



 タクミはイツキに殴りかかった。


 自己流で構え、距離を詰め、右拳を放った。



イツキ

「甘い」



 イツキは、タクミの腕を取った。


 そして、一本背負いで投げた。


 タクミの体が、荒れ地に叩きつけられた。



タクミ

「っ!」


タクミ

「痛……くは無いか」



 タクミの体は、リンカーによって保護されていた。


 少しくらいのダメージなら、リンカーが無効化してくれた。



ユニコ

「一本ですね」


イツキ

「柔道詳しいのか?」


ユニコ

「いえ。ド○ベンとYAWA○Aでしか知りません」


イツキ

「ドカ○ンって野球漫画じゃなかった?」


ユニコ

「柔道漫画ですよ。ご存じないのですか?」


イツキ

「あれ……? そうだったっけ……?」


タクミ

「どっちでも良いだろ。今は」



 そう言いながら、タクミは立ち上がった。



イツキ

「そうかもな。お前……」


イツキ

「弱いな」


イツキ

(まるで、父さんと組み手してる時の、俺だ)


タクミ

「しかたねえだろ? 格闘技なんて、やったこと無いんだから……」


イツキ

「そうか。それなら……」



 イツキは影から、木刀を取り出した。


 そして、タクミから少し離れた。



イツキ

「真剣勝負と行くか?」



 イツキは木刀を、正眼に構えた。



タクミ

「上等だ」



 タクミは影から、大斧を取り出した。


 そして、上段に構えた。



タクミ

「行くぜおらあああああああぁぁぁっ!」



 気合のかけ声と共に、タクミはイツキに襲いかかった。


 力任せの振り下ろし。


 タクミの斧が、地面を叩いた。


 鈍い音が鳴った。



イツキ

「…………」



 イツキは紙一重で、タクミの斧をかわしていた。


 それと同時に、木刀を、タクミの首に触れさせた。



タクミ

「…………!」



 イツキがその気なら、タクミは首を、強打されていた。


 タクミには、武道の心得が無い。


 それでも、その程度のことは分かった。



イツキ

「俺の勝ちだ」



 そう言うと、イツキはタクミから離れた。



イツキ

(実際相手してみると、こんなに弱いんだな)


イツキ

(思ってた以上だ)


イツキ

(迷獣を相手してる時よりも、はっきりと技術の差が出る)


イツキ

(俺はコレを、4組に送り出そうとしてたんだな)


タクミ

「もう1回だ!」


イツキ

「良いぞ。来い」



 イツキは木刀を構えなおした。



タクミ

「どらあああぁぁっ!」



 タクミは斧を横振りにして、イツキに斬りかかった。


 イツキはバックステップで、タクミの攻撃をかわした。


 そして、振り終わりのタクミの手を、木刀で打った。


 リンカーのおかげで、タクミは無傷だった。


 タクミはめげず、イツキに向かっていった。



タクミ

「はっ! でやあっ!」



 タクミは斧を振るたびに、イツキに打たれた。


 そして……。



タクミ

「クソ……」



 タクミのリンカーが輝いた。


 ベイルアウト。


 タクミのマインドボディが、心層から強制排除された。



イツキ

「…………」



 イツキは目を閉じた。


 そして、心層を離脱した。



ユニコ

「あっ……!」



 取り残されたユニコは、慌ててイツキたちを追った。




 ……。




イツキ

「…………」



 イツキは、現実世界で目覚めた。


 上体を起こすと、タクミの方を見た。


 タクミは床に、座り込んでいた。



イツキ

「分かったか? 技量の差が」


タクミ

「…………」


イツキ

「このままレベルだけ上げて、4組に行っても、お前はいつか落ちこぼれる」


イツキ

「技の無い強さは、本当の強さとは言えないんだ。だから……」


イツキ

「俺が、お前を鍛えてやる」


タクミ

「良いのかよ?」


イツキ

「キャリーしてやるって、約束したからな」


イツキ

「4組で通用するくらいには、してやるさ」


タクミ

「……頼む」


イツキ

「ああ」


イツキ

「次はリンカーを外してやるぞ」


タクミ

「え?」


イツキ

「心配するな。殺しはしない」


タクミ

「当たり前なんだが?」


イツキ

「痛みが有った方が、実戦の勘は身に付きやすい」


タクミ

「うへぇ……」



 タクミは呻いた。




 ……。




 それから4時間後。


 タクミは、心層の地面に、倒れ伏していた。



タクミ

「ぐぅ……」


イツキ

「こりゃ、毎日やらないと駄目だな」


イツキ

「平日の放課後も、ウチに来い。良いな?」


タクミ

「……わかった……よ……」


イツキ

「てか、もうウチに住めよ」


タクミ

「急にみなぎりすぎだろ!?」





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