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その22「やると決めたこと」




イツキ

「あのアマノが……って」


イツキ

「俺たちせいぜい、2ヶ月くらいの付き合いだと思うんですけど」


アンコ

「それでもさ。壁作ってたからなぁ。お前は」


イツキ

「壁なら、クラスの連中も、作ってたと思いますけど」



 イツキだって、最初から孤立を望んでいたわけでは無い。


 ダンジョン無しだと見下され、突き放された。


 そんな状況で、壁を作らないでいる理由が無かった。



アンコ

「まあな」


イツキ

「そして先生も、それを黙認してた」


アンコ

「……ああ」


 

 アンコはイツキを見限っていた。


 だからイツキも、アンコを見限っていた。


 ダンジョンに入れてくれることに対し、感謝はしていた。


 だが、それだけだった。


 お互いの間に、揺らがない壁が有った。


 そしてそれは、ずっと変わらないはずだった。



アンコ

「けど、変わったな。お前は」


イツキ

「変わりませんよ。たった2ヶ月くらいで」


アンコ

「そうか?」


イツキ

「話、良いですか?」


アンコ

「ああ。言ってみ?」


イツキ

「ノガミのダンジョンレベルを、40にまで上げたら、あいつは4組に行けますか?」


アンコ

「んー……」


アンコ

「断言はしないが、行けるかもな」


アンコ

「1年のこの時期に、レベル40も有れば、立派な武器になる」


イツキ

「そうですか」


イツキ

「それじゃ……」



 欲しい答えは、得られた。


 そう思ったイツキは、アンコに背を向けようとした。



アンコ

「待て」



 アンコがイツキを、呼び止めた。


 イツキは足を止めた。


 そして、アンコに向き直った。



アンコ

「それで通用するのは、1年の内だけだ」


アンコ

「2年になると、平均レベルは30を超える」


アンコ

「レベルが40を超える生徒も、珍しくなくなる」


アンコ

「レベル頼りでいたら、そのうち行き詰るぞ」


イツキ

「エンマにも、同じようなことを言われましたね。けど……」


イツキ

「俺が約束したのは、4組に行けるまで、キャリーするってことだけです」


イツキ

「その後にどうなろうが、あいつの責任でしょう?」


アンコ

「まあなぁ」


アンコ

「けど、友だちだろ? もう少し考えてやったらどうだ?」


イツキ

「友だちじゃないです」


アンコ

「いやいや」


イツキ

「あいつは、手の平を返した」


イツキ

「俺が、役に立つって思ったから、寄ってきたんです」


イツキ

「そんなの……友だちじゃないでしょう?」


アンコ

「あー。なるほどな」


アンコ

「お前は、人間関係に求めるハードルが、ちょびっと高いわけだ」


イツキ

「そんなに無茶を言ってますか? 俺は」


アンコ

「さあな」


アンコ

「お前はダンジョン無しとして、奇異の目で見られ、生きてきた」


アンコ

「私は普通の人間だ」


アンコ

「凡人だ」


アンコ

「お前の気持ちは、分からん」


アンコ

「自分の考えが、正解だと思うなら、好きにすれば良いさ」


イツキ

「……失礼します」



 イツキはアンコから離れていった。



アンコ

「頑張れよ」


イツキ

「…………」



 イツキは、職員室を出た。



ユニコ

「アマノさん」



 廊下には、ユニコたちの姿が有った。


 イツキを、追いかけて来ていたらしい。



イツキ

「よ」



 イツキはユニコたちに、短く声をかけた。



タクミ

「もう良いのか?」


イツキ

「ノガミ……お前さ……」


タクミ

「ん?」


イツキ

「なんでここに居んの?」


タクミ

「一緒に帰ろうって言っただろ!?」


イツキ

(ホント、しつこい奴)



 イツキは苦笑した。



イツキ

「じゃ、帰るか」


タクミ

「おう」



 イツキたちは、下駄箱に向かった。


 そして、外履きに履き替えると、校舎から出た。


 校門を出て、歩道を歩き、500メートルほど進んだ。


 タクミはカドを、曲がろうとした。


 一方、イツキたちの進路は、直進だった。


 タクミは足を止め、イツキの方を見た。



タクミ

「お前そっちか」


イツキ

「まあな」


タクミ

「俺、こっちだわ」


イツキ

「じゃあな」


タクミ

「ああ。また明日」



 実に短い道のりだった。


 だが、タクミはそれを、気にした様子は見せなかった。



ニゾウ

「ミカヅキ。ユニコどのの護衛、しっかりと務めるでござるよ」


ミカヅキ

「言われなくとも、分かっているのでござる」


ニゾウ

「にんにん」


ミカヅキ

「にん」


イツキ

(挨拶かな?)



 イツキたちは、タクミとニゾウと別れた。


 そして、3人で歩いた。


 やがて、マンション前へとたどり着いた。


 ミカヅキは、そこで立ち止まった。



ミカヅキ

「それでは、また明日でござる」


ユニコ

「はい。また明日」


イツキ

(一緒に住む……とかじゃ無いんだな)


イツキ

「また明日」



 イツキたちは、ミカヅキから離れ、マンションへと入った。


 オートロックを抜け、エレベーターに乗り、廊下を歩いて自宅へ。



イツキ

「ただいまー」



 玄関の扉を開くと、イツキは家中に声をかけた。


 すると、リビングの方から、ナツキが現れた。


 エプロン姿だった。



ナツキ

「おかえりなさい。2人とも」


ユニコ

「…………」


ユニコ

「ただいまです」



 少し間を置いて、ユニコは帰りの挨拶をした。



イツキ

(コイツがただいまって言うの、これが初めてだっけ?)



 イツキは靴を脱ぎ、廊下へと上がった。



ナツキ

「おやつが有るから、着替えたらリビングにいらっしゃい」


ユニコ

「どうも」



 イツキはユニコと別れ、自室へ向かった。


 ユニコはアキヒメの部屋に、入っていった。


 イツキは自室で、部屋着に着替えた。


 そして、リビングへ向かった。


 扉を抜け、イツキはリビングダイニングへと入った。


 イツキは室内を見た。


 キッチンの方には、ナツキの背中が見えた。


 リビングには、ヤーコフとユーリの姿が有った。



イツキ

(ユニコはまだか)


イツキ

「ただいま」


ユーリ

「おかえりー。ユニコちゃんは?」


イツキ

「着替え中」


ユーリ

「そっかー」



 ユーリはテレビで、Dチューブを見ていた。


 有名なDチューバーが、視聴者に語りかけていた。



ヤーコフ

「おかえり」



 ヤーコフは、ノートPCと向き合っていた。



イツキ

「仕事?」


ヤーコフ

「ああ」


ナツキ

「はい。おやつよ」



 ナツキはまんじゅうを、ダイニングテーブルに置いた。



ナツキ

「ユニコちゃんと、半分こにして食べてね」


イツキ

「うん」



 イツキはキッチンシンクに向かった。


 そして、ごしごしと手を洗った。


 壁のタオルで手を拭くと、イツキはダイニングの椅子に座った。


 そして、まんじゅうに手を伸ばした。


 そのとき、ユニコが入室してきた。



ユーリ

「おかえり!」


ヤーコフ

「おかえりさん」


ユニコ

「はい。ただいまです」



 ユニコは2人に挨拶すると、イツキの背後に近付いてきた。



ユニコ

「おまんじゅうですか」


イツキ

「半分な」


ユニコ

「はい」




 ……。




 イツキとユニコは、まんじゅうを完食した。



ユニコ

「アマノさん、これからどうなされますか?」


イツキ

「部屋戻って、宿題と復習と予習」


ユニコ

「く……暗い……」


イツキ

「勤勉と言え」


ユニコ

「一緒にお勉強しても、良いでしょうか?」


イツキ

「俺の部屋、机一つしか無いぞ」


ユニコ

「床の方が、捗るタイプですよ。私は」


イツキ

「ガキかよ」


ユニコ

「む……」


ユニコ

「寝転がった方が、脳の血流が、良くなるんですからね?」


ユニコ

「座って勉強するより、実は理に適っているのですよ」


イツキ

「そうなん?」


ユニコ

「今考えました」


イツキ

「今かよ」


ユニコ

「それじゃあ、ダイニングで勉強しましょうか」


イツキ

(気が散るが……)


イツキ

「まあ良いか」


ユニコ

「はい」



 イツキはいったん、自室へと戻った。


 そして、勉強道具を持って、ダイニングに向かった。


 ユニコは先に、準備完了していた。



ユニコ

「遅いですよ。アマノさん」


イツキ

「別に、元々勉強ってのは、1人でするもんだろ」


ユニコ

「そうでも無いと思いますけど?」




 ……。




 やがて夜になり、夢魔狩りの時間になった。


 イツキは淡々と、夢魔を殺した。


 就寝前になると、ヤーコフが現れた。



ヤーコフ

「時間」


イツキ

「ああ」

 


 イツキは刀を置き、ヤーコフと向き合った。



イツキ

「父さん……」


ヤーコフ

「んー?」


イツキ

「どうしてユニコを学校に?」


ヤーコフ

「あの子の意思だ」


イツキ

「危険だろ?」


ヤーコフ

「ああ」


ヤーコフ

「あいつは自分を、エサにしたいのさ」


ヤーコフ

「その方が、敵の尻尾を掴める可能性が、上がる」


イツキ

(自分をエサに? アホかよ)


イツキ

「良いのか? そんなことして」


ヤーコフ

「良くは無いだろ」


ヤーコフ

「けどそれなら、ずっと閉じこもってるのが正解か?」


イツキ

「っ……」


ヤーコフ

「心配なら、守ってやれ」


イツキ

「俺は、あいつの王子様じゃない」


イツキ

「ヒーローじゃ無いんだ」


ヤーコフ

「お前じゃ無かったら、誰がやれるんだよ」


イツキ

「知るかよ!」



 イツキは苛立ちをぶつけるように、ヤーコフに殴りかかった。



ヤーコフ

「ふっ!」


イツキ

「ぐうっ!?」



 ヤーコフの上段蹴りが、イツキの顔面に突き刺さった。


 強打を受け、イツキの背中が、地面についた。



イツキ

「クソ……」



 そう吐き捨てて、イツキはすぐに立ち上がった。




 ……。




 30分ほど組み手の後、イツキは現実に戻った。


 身支度を整え、ベッドに戻った。


 だが、目が冴えて、眠れなかった。



イツキ

「…………」



 イツキはベッドから起き出した。


 そして、勉強机の前に立った。


 イツキの手が、机の引き出しに伸びた。


 引き出しが開いた。


 そこに、プリントの束が有った。


 アンコが作ったプリントだった。


 今まで読まずにいたそれを、イツキはじっと眺めた。



イツキ

「…………」



 プリントには、イツキへのアドバイスが、淡々と綴られていた。


 スキルを当てにした、彼の悪癖にも、指摘がなされていた。


 イツキは、致命的では無い攻撃を、わざと食らうことが有る。


 アンコはそれに気付いていた。



イツキ

(意外とまじめに見てるんだな。あの人)



 プリント全てに目を通すと、イツキはそれを引き出しにしまった。



イツキ

(俺も……やるって決めたことくらいは、マジメにやるか)




 ……。




 翌日。


 タクミのダンジョン、26層。


 タクミはまたしても、ダンジョンレベルを更新した。



タクミ

「っし!」



 タクミはガッツポーズを取った。


 どんどんレベルが上がっていくのが、嬉しいらしい。



イツキ

(順調だな)


イツキ

(……レベリングは)



 そして……その日の放課後。



イツキ

「なあ、ノガミ」



 クラスの教室で、イツキはタクミに声をかけた。



タクミ

「何だ?」


イツキ

「土日、暇か?」




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