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その18「ボディガードとサプライズ」




ユニコ

「お帰りなさい」



 廊下に、ユニコの姿が有った。


 彼女は、背中をカベに預け、座っていた。


 そして顔だけを、イツキへと向けてきた。



ユニコ

「……アマノさんが、萌え袖に?」



 イツキの姿を見て、ユニコはそう言った。



イツキ

「燃え袖? 燃えてないだろ? ホラ。綺麗だ」



 自分が焼かれたのを、見破られたのか。


 そう思い、イツキは少し、焦りを見せた。


 手を上げて、綺麗な袖を振ってみせた。



ユニコ

「袖が余っている……という話ですが?」



 タクミはイツキより、一回り体が大きい。


 彼の制服は、イツキには大きかった。


 おかげで少し、ぶかぶかになっていた。



イツキ

(余ってるのに、何が燃えなんだ? 燃えたら縮むだろ?)


イツキ

「……その、カツアゲされたんだ」



 イツキは、言い訳にすらなっていない言い訳を、口にした。



ユニコ

「はい?」


ユニコ

「カツアゲされると、袖が伸びるんですか?」


イツキ

「そんなこともアロワナ」


ユニコ

「無いと思います」


イツキ

「別に良いだろ? そっちは何やってんだ?」


ユニコ

「あなたを、待っていました」


イツキ

「俺を?」


ユニコ

「はい。帰りが遅いので、心配してしまいました」


イツキ

「ちょっと、寄り道したんだ」


ユニコ

「ちょっと?」



 廊下からは、天蓋は見えない。


 だが、もう外は、真っ暗のはずだった。



イツキ

「ああ。ちょっと」


ユニコ

「……無事で良かったです」



 そう言って、ユニコはふぅと息を吐いた。



イツキ

「大げさだな」


ユニコ

「……はい」


ユニコ

「夕飯の用意が、出来てますよ」



 そう言って、ユニコは立ち上がった。



ユニコ

「まあ、私が作ったんじゃないですけど」


イツキ

「知ってる」


ユニコ

「む……」


ユニコ

「実は、私も少し手伝いました」


イツキ

「そうか」


ユニコ

「早く上がって下さい」


イツキ

「ああ」



 イツキは靴を脱ぎ、廊下に上がった。


 カバンと刀を、部屋の前にさっと置いた。


 2人は廊下を歩き、ダイニングに入った。



アキヒメ

「イツキ。遅い」


ユーリ

「お腹すいたよ~」



 アマノ一家が、イツキに顔を向けてきた。


 テーブルの上には、手つかずの料理が並んでいた。


 もう、冷めてしまっているだろう。



イツキ

「まだ、食べて無かったのか……」



 時計を見ると、時刻は既に、9時を回っていた。



イツキ

「先に食べて良かったのに」


ナツキ

「もう。心配したのよ?」


ヤーコフ

「連絡くらいしろ。アホ」


イツキ

「……ごめん」



 イツキは制服姿のまま、自分の席に座った。


 ナツキが手を合わせた。



ナツキ

「いただきます」


イツキ+アキヒメ+ユーリ+ヤーコフ

「「「「いただきます」」」」


ユニコ

「……いただきます」


ユーリ

「レンジ先に使って良い?」


ヤーコフ

「良いぞ」




 ……。




 イツキは食事を済ませると、すぐに風呂に入った。


 そして、ベッドから心層へと潜った。


 イツキのマインドボディが、ヤーコフのダンジョンの頂上に立った。



ヤーコフ

「イツキ」


イツキ

「父さん……」



 そこには、ヤーコフの姿が有った。


 イツキよりも先に、シフトしていたらしい。



ヤーコフ

「……それで?」


ヤーコフ

「何が有った?」


イツキ

「……やっぱ分かる?」


ヤーコフ

「当たり前だ。萌え袖野郎」


イツキ

(だから、燃え袖って何用語だよ?)


ヤーコフ

「で?」


イツキ

「実は……」




 ……。




 イツキは、ヤーコフに事情を話した。



イツキ

「ユニコには、黙っといて欲しい」



 イツキは自分の考えを告げた。


 ユニコのせいで、イツキが危険な目にあった。


 そんな風に、思って欲しくは無かった。



ヤーコフ

「分かった。だが……」


ヤーコフ

「まさか、関係の無いクラスメイトを、人質に取るとはな」


ヤーコフ

「イツキはぼっちだから、周りが巻き込まれる心配は、無いと思ってたのに」


イツキ

「うるせー」


ヤーコフ

「何か手を打たないとな」


イツキ

「手って……出来るのか?」


ヤーコフ

「パーパに任せとけ」


イツキ

「……うん」



 話が終わると、ヤーコフは心層から離脱していった。


 それからイツキは、いつものように夢魔を狩った。


 そして、いつもの時間に眠りについた。




 ……。




 翌朝。


 タクミの自宅である、2階建ての、一戸建て住宅。



タクミ

「行ってきまーす」



 タクミは玄関を通り、自宅を出た。


 そのとき……。



ニゾウ

「おはようにござる」


タクミ

「うおっ!?」



 タクミの前に、突然、スーツ姿の男が現れた。


 中背で、手足は長い。


 華奢なようにも見えるが、立ち姿はしっかりしていた。


 スーツの色は、彩度の低いブルーだった。


 オレンジ色の髪が、ツンツンと逆立っていた。


 顔つきは、歌舞伎役者のようにも見えた。



タクミ

「だ……誰だ……!?」



 唐突な接触に、タクミは身構えた。


 昨日、痛い目にあったばかりだ。


 また敵が現れたのかと思った。



ニゾウ

「失礼」


ニゾウ

「拙者、エンマ=ニゾウと申す者」


ニゾウ

「本日よりタクミどのの、ボディーガードを務めさせていただくでござる」


タクミ

「…………」


タクミ

「はい?」




 ……。




 午前8時過ぎ。


 イツキはクラスの教室に入った。



イツキ

「おはよう」


「…………」



 イツキは挨拶をしたが、いつものように、返事は無かった。


 イツキはそのまま、自分の席へと向かった。


 そして、カバンから教科書を出して、予習を始めた。


 少しして、教室の前側の扉が、開いた。


 そこから、タクミが入ってくるのが見えた。


 タクミは、机にカバンを引っ掛け、イツキの方へ来た。



タクミ

「おはよう。イツキ」


イツキ

「お前……」



 イツキはタクミに、ファーストネームを許した記憶は無かった。



イツキ

「馴れ馴れしいなお前。欧米か?」


タクミ

「そっちも、タクミって呼んでくれて良いぜ」



 お断りだ。


 イツキはタクミの提案を、シカトすることにした。



イチロー

「ぐぎぎ……」


イツキ

「それでお前……」


イツキ

「その後ろの人は、何だ?」


ニゾウ

「…………」



 タクミの背後に、見知らぬ男が突っ立っていた。



タクミ

「知らん」


ニゾウ

「拙者はタクミどのの、ボディガードでござる」


イツキ

「どういうこと?」


タクミ

「分からん」


イツキ

(父さんが何かしたのか?)


イツキ

(人1人雇うって、金かかるんじゃないのか?)


イツキ

「まあ良いや」



 イツキは深く考えないことに決めた。



イツキ

「……待て」


イツキ

「指はどうした?」



 イツキは、タクミの左手を見た。


 傷1つ無い。


 タクミは手を、ぶらぶらと振ってみせた。



タクミ

「治った。大人の事情でな」


イツキ

「すげーな大人」



 そのときイツキは、急にマジメな顔つきになった。



イツキ

「…………」


イツキ

「まさか、エリクサーか?」



 イツキは目つきを鋭くして、そう質問した。



タクミ

「まさか」


タクミ

「普通の回復ポーションだよ」


イツキ

「……そうだよなぁ」



 イツキは気が抜けたように、脱力した。



イツキ

(いや……。ポーションだって、簡単に手に入るモンじゃ無いが)


タクミ

「それより、キャリー頼むぜ」


イツキ

「ああ」



 話が済むと、タクミは自分の席に戻った。



ニゾウ

「タクミどの」



 ニゾウがタクミに声をかけた。



ニゾウ

「拙者は教室の外で、待機しているでござる」


タクミ

「……どうも」



 ニゾウは教室から出ていった。




 ……。




 やがて、朝のホームルームの時間になった。


 担任のイタノ=サトシが、入室してきた。


 そして、彼の後に、2人の女子が続いた。



イツキ

「…………!」



 イツキの目が、見開かれた。


 女子の姿に、見覚えが有ったからだ。



サトシ

「突然だが、彼女たちは、このクラスに編入してくることになった」


サトシ

「2人とも、自己紹介を」



 サトシは、2人の編入生に、そう促した。



ユニコ

「アマノ=ユニコです。よろしくお願いします」



 そう言って、ユニコは頭を下げた。


 次に、もう1人の少女が、口を開いた。



ミカヅキ

「拙者はエンマ=ミカヅキ」



 ミカヅキは、微笑みながら、両手を合わせ、頭を下げた。


 そして、元気よく挨拶した。



ミカヅキ

「ユニコどのの護衛でござる。よろしく頼むでござる」



 彼女はオレンジ髪の、ポニーテールの少女だった。


 身長は、ユニコより少し低い。


 体には、学校指定の制服を身にまとっていた。


 はっきりとした挨拶からは、彼女の快活さが感じ取れた。



「よろしくね」


「女子来た!」


「ツノ綺麗」


「護衛ってどういうこと?」


「可愛いな二人とも」


「ござる?」



 美少女2人の編入に、クラスが沸き立った。



ユニコ

「それと」



 騒ぎが静まりかけた瞬間、ユニコは口を開いた。



「…………?」



 クラスの面々は、ユニコの言葉に耳を傾けた。



ユニコ

「私は、そちらのアマノ=イツキさんに、お世話になっている者です」


ユニコ

「そのことを踏まえた上で、お付き合いいただけると幸いです」


「……………………」



 それは、爆弾発言だと言えた。


 5組の生徒たちは、イツキを嫌うことを、正当な行いだと錯覚していた。


 ダンジョン無しなのだから、仕方がない。


 だが、冷静に考えれば、そんなはずは無い。


 ユニコという第三者の存在が、それを思い知らせてくるようだった。


 教室は一息に、気まずい空気に包まれてしまった。



サトシ

「あ~……」


サトシ

「あそこの空いている席が、お前たちの席だ」


サトシ

「クラスメイト同士、仲良くするように。以上」



 サトシは、面倒事から逃げるかのように、退出していった。



ユニコ

「…………」



 ユニコは雰囲気を無視して、イツキに歩み寄った。



イツキ

「…………」


ユニコ

「同じクラスですね。アマノさん」


イツキ

「聞いてないんだが?」


ユニコ

「言ってませんからね」


イツキ

「言えよ」


ユニコ

「ビックリさせたかったので」


イツキ

「……ビックリした」


ユニコ

「良かったです」


イツキ

「けどな……」


イツキ

「あの自己紹介は、どうかと思うぞ?」


ユニコ

「何かいけませんでしたか?」


イツキ

「俺のことなんか、黙っとけよ」


ユニコ

「どうしてですか?」


イツキ

「友だち出来なくなるぞ」


ユニコ

「構いません」


ユニコ

「私の友人は、アマノさんですから」


イツキ

「……そうかよ」


ユニコ

「はい」


イツキ

「授業始まるぞ」


ユニコ

「そうですね」



 ユニコは、自分の席へ向かった。


 彼女の席は、イツキの席の左隣だった。


 空きスペースだったはずが、いつの間にか、机と椅子が置かれていた。


 ユニコは着席した。


 そして、自分の席から、イツキにニコニコと手を振った。


 イツキは手を振り返さなかった。




 ……。




 少しして、1限目の授業が始まった。


 そして、終わった。


 休み時間になった。


 教室は、いつもと変わらない様子を見せていた。


 イツキはユニコを見た。


 彼女の周囲は、平穏そのものだった。



イツキ

(普通、転校生の回りには、皆が集まるもんだがな……)


イツキ

(あの見た目なら、なおさらだ)


イツキ

(よりにもよって、俺のクラスに来なくても良いものを)



 イツキは立ち上がった。


 そして、ユニコの方へと1歩近付いた。



イツキ

「よっ」


ユニコ

「よっ」


イツキ

「どうだ? 授業は理解出来るか?」


ユニコ

「まあ……はい」



 ユニコは、歯切れの悪い返事をした。



イツキ

(妙な施設に居たんだもんな……)


イツキ

「分からないことが有ったら、何でも聞けよ」


ユニコ

「……ありがとうございます」


イツキ

「それじゃあ……」


ユニコ

「学生らしく、流行りのアーティストの話でもしますか?」


イツキ

「いや。次の授業の予習をする」


ユニコ

「マジメくんですか?」


イツキ

「マジメくんだよ」


イツキ

「俺は、実技の成績が悪いからな」


イツキ

「座学で、帳尻を合わせる必要が有るのさ」


ユニコ

「自業自得では?」



 ダンジョン無しなのだから仕方ない……などとは、ユニコは思わなかった。


 イツキは夢魔を、1晩で3桁殺す男だ。


 手段を選ばなければ、学校の授業で遅れを取るとは、思えなかった。


 そのようになったのは、イツキの怠惰のせいだ。


 ユニコはそれを責めていた。



イツキ

「かもな」


ユニコ

「それでは、流行りのアーティストの話をしながら、予習もしましょう」


イツキ

「そんな器用じゃねえよ」


タクミ

「イツキ」



 いつの間にか、タクミが2人に近付いてきていた。



イツキ

「ん?」



 イツキはタクミに顔を向けた。



タクミ

「何なんだよその子は」


イツキ

「ぼっちのかわいそうな子だ」


ユニコ

「ブーメランお好きですか?」


タクミ

「どういう関係だよ?」


イツキ

「家で保護してる。それだけだ」


タクミ

「保護……」



 タクミはユニコのツノを見た。



タクミ

「まあ、色々有るか」


イツキ

「まあな」





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