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その17「魔剣と悪あがき」



イツキ

(サイコ野郎が……)



 イツキは内心で唾棄しつつ、それを表に出すことは、出来なかった。



イツキ

「……やるなら俺にして下さい」


オウジロウ

「ブチ殺してやりたいのは、やまやまだがな」


オウジロウ

「拳銃も防ぐバリア。どうしたもんか」


イツキ

「マインドアームを使えば良いでしょう」


オウジロウ

「……そうするか」



 オウジロウは、セカンドシャドウに手を伸ばした。


 2つ目の影から、赤い短剣が現れた。


 オウジロウは、短剣の柄を握った。


 刀身から、炎が放たれた。



イツキ

(炎属性の短剣か)



 オウジロウは、剣先をイツキに向けた。



オウジロウ

「焼け死ね」



 オウジロウの言葉と共に、短剣から炎が伸びた。


 炎はまっすぐに、イツキへと向かった。


 イツキはそれを避けなかった。


 イツキの上半身が、猛火に包まれた。



タクミ

「アマノッ!」


イツキ

「ぐああああああああぁぁぁっ!」



 イツキは熱さに悲鳴を上げながら、勢い良く地面へと倒れていった。


 そして、イツキは地面を転がった。



オウジロウ

「ハハハハハッ!」



 イツキの無様を、オウジロウは笑った。


 だから、気付かない。


 いつの間にか自分が、イツキの間合いに居ることに。


 炎によって、刀の包みが燃えていた。


 包みを解く必要が、無くなっていた。


 イツキの手が、鞘と柄を掴んでいた。


 意図的な、飛び込み前転。


 その勢いを剣に乗せ、イツキは抜刀した。


 正々堂々たる、サムライの剣とは異なる。


 魔剣。


 勝利を至上とした、戦国の武芸者、あるいはニンジャが用いる邪法だった。


 オウジロウは、斬られる瞬間まで、イツキの攻撃に気付けなかった。


 刀が、オウジロウの手首を断った。



オウジロウ

「があああああああぁぁぁっ!?」



 オウジロウの右手が、地面に落ちた。


 オウジロウは、叫びながら後退した。


 オウジロウとタクミの間に、距離が出来ていた。



イツキ

(オオカワさんは……)


イツキ

(まあ、良いか)


オウジロウ

「俺の手があああああああああぁぁぁっ!」


イツキ

「慌てるなよ」


イツキ

「まだ1本残ってんだろうが」



 完全に優位を取った。


 そう思ったイツキは、刀を鞘に収めた。


 そして、オウジロウとの距離を詰めていった。



オウジロウ

「ダセェ芝居しやがって……!」



 オウジロウは、イツキの刀術を責めた。



イツキ

「ダサいのはお前だろ?」


イツキ

「殺気も読めない、養殖シフターが」



 一流のシフターは、相手の殺気を感知する。


 ディープシフターであれば、現実世界でもそれが可能だ。


 攻撃に気付けなかった時点で、シフターとしては半人前だった。



イツキ

「それに、人質取ってる奴に言われたくねえよ」



 イツキは上段蹴りを放った。


 イツキのつま先が、オウジロウのこめかみを打った。



オウジロウ

「ぶげっ……!」



 オウジロウは蹴り飛ばされた。


 彼の体が、地面に転がった。



イツキ

「…………」


オウジロウ

「ぐ……」



 イツキは、オウジロウの胸を踏みつけた。


 イツキの冷たい目が、オウジロウを見下ろした。



イツキ

「お前の負けだ」


オウジロウ

「負け……? 俺の……?」


オウジロウ

「クッ……ククククククッ……!」



 形勢は明らかだった。


 だと言うのに、オウジロウは愉快そうな笑みを浮かべた。



イツキ

「…………?」


タクミ

「アマノ……! あれ……!」



 声を受け、イツキはタクミを見た。


 タクミの指が、何かを指差していた。


 タクミが指差した方向。


 そこに、オウジロウの手と、マインドアームが落ちていた。


 赤い短剣が、強い光を放っていた。



オウジロウ

「お前は平気でも、お友だちはどうかな?」


イツキ

(無差別攻撃か……!)


イツキ

「ノガミ!」



 イツキはタクミの方へ駆けた。


 そして、短剣に背を向けて、タクミに抱きついた。


 倉庫内が、閃光に包まれた。



イツキ

「くっ……!」



 イツキは、やってくるであろう灼熱に身構え、歯を食いしばった。


 だが……。



タクミ

「アマノ……」



 タクミが平然と、口を開いた。



タクミ

「なんか、大丈夫みたいだぞ?」


イツキ

「え……?」


リン

「麗しい友情だな」


イツキ

「…………」



 イツキは、タクミを守ろうという一心で、彼をぎゅっと抱きしめていた。


 それに気付いたイツキは、タクミを思い切り突き飛ばした。



タクミ

「怪我人なんだが!?」


イツキ

「ええと……」


イツキ

「オオカワさん?」


リン

「ああ。オオカワさんだ」



 イツキの背中側に、オオカワ=リンが立っていた。



リン

「……悪かったな。遅くなって」


リン

「裏口を開けるのに手こずった」


イツキ

「いったい何が……? 炎は……?」



 イツキはリンへと向き直った。



リン

「俺のスキルで、奴の攻撃を防いだ。それだけだ」


イツキ

(気配は無かったと思うけど……)


イツキ

「いつの間に倉庫に……」


リン

「それは企業秘密だ」


イツキ

「助かりました。ありがとうございます」


リン

「いや。結局民間人を、危険に晒した」


リン

「刑事の仕事としちゃ、最悪だ」


イツキ

「いえ。俺もノガミも生きてますし」


リン

「俺の上司には内緒にしといてくれ」


イツキ

「はい」


イツキ

「そうだ……! あいつは……!?」


リン

「無事のようだな」



 オウジロウは、イツキに倒されたままの位置に居た。


 イツキの視線を受け、オウジロウは体を起こした。



オウジロウ

「自分のスキルで焼け死ぬ、マヌケだと思ったか?」


リン

「そっちの方が、楽で良かったがな」



 リンは、懐に手を入れた。


 スーツの内側から、拳銃が引き抜かれた。


 大口径のオートマチックだった。


 リンは銃口を、オウジロウに向けた。



リン

「次に、スキルを使う気配を見せたら、お前を射殺する」


オウジロウ

「44マグナムか。アシハラの警察が使う銃じゃねえな」


リン

「お前を逮捕する」


オウジロウ

「好きにしろよ」


オウジロウ

「お前らの用意する牢屋なんて、俺にとっちゃホテルみたいなもんだ」


オウジロウ

「ツラ覚えたからな。刑事さん」


リン

(面倒だな。殺すか。いや……)


リン

(子供たちの見てる前じゃ、不味いな)


イツキ

「させない」



 決然たるイツキの声。


 リンは、銃口を逸らさずに、イツキに視線を向けた。



リン

「え……?」


イツキ

「もう2度と、脱獄なんてさせてやらない」


リン

「どうするつもりだ?」


イツキ

「こいつを使います」



 そう言って、イツキはコカゲを抜刀した。


 オリハルコンの刀身が、暗い倉庫で煌めいた。



リン

「それは……オリハルコンか?」


イツキ

「はい」



 イツキはコカゲを持ったまま、短剣の所へと歩いた。



イツキ

「このオリハルコンの剣で、マインドアームを破壊します」


オウジロウ

「な……!」


オウジロウ

「止めろ……! そんなことしたら……!」



 オウジロウは、短剣を呼び戻そうと念じた。


 だが、大技で力を使いきってしまったため、ぴくりとも動かなかった。



イツキ

「レベル1からやり直せ」



 イツキは冷たい声で言った。



オウジロウ

「止めろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」



 オウジロウの叫びも虚しく、剣が突き下ろされた。


 鋭い切先が、短剣を突いた。


 赤い短剣が、粉々に砕け散った。


 心層で、オウジロウのDレベルの、リセットが始まった。



オウジロウ

「ひぎゃあああああああああああぁぁぁっ!?」



 マインドアームの破壊には、激痛を伴う。


 オウジロウは、長い悲鳴を上げた。


 そして、痛みに耐えきれず、気絶した。



リン

「……死ぬほど痛いらしいな。アレ」


イツキ

「自業自得ですよ」


リン

「だな」



 リンは拳銃を、懐にしまった。


 そして、タクミへと視線を移した。


 敵が倒されても、タクミの負傷には変わりが無い。


 彼の左手は、痛々しいままだった。



リン

「……彼を病院に運ぼう」


イツキ

「そうですね」



 イツキはコカゲを納刀し、タクミへと歩み寄った。



イツキ

「ノガミ。大丈夫か?」


タクミ

「はは……。どうかな……」



 タクミの左手の指は、あらぬ方向へ折れ曲がっている。


 授業にも影響が出ることは、明らかだった。



イツキ

「……俺のせいで巻き込んだ。悪い」


タクミ

「貸し1つってことで良いか?」


イツキ

「ああ」


タクミ

「それじゃ、キャリーしてくれ」


イツキ

「お前……」


イツキ

「逞しいな?」



 こんな時でもブレないタクミに、イツキは呆れてみせた。



タクミ

「俺は、4組に行くぞ」


タクミ

「協力してくれ。頼む」


イツキ

「……はぁ」


イツキ

「分かった。お前を4組に連れて行ってやる」


タクミ

「頼んだぜ。相棒」


イツキ

「気色悪い言い方すんな」


タクミ

「えっ?」


イツキ

「それと、制服借りて良いか? 金出すから」


タクミ

「ナンデ?」


イツキ

「こんなボロボロの格好で帰ったら、家族が心配するだろ?」


イツキ

「というか、もう替えが無いから、しばらく貸してくれ」



 イツキの服は、オウジロウの炎によって、ボロボロに焼き払われていた。


 特に上着は、ほとんど原型が残っていない。



タクミ

「お前に服貸したら、俺はどうすんだよ」


イツキ

「もう1着、替えが有るだろ?」


タクミ

「いや。家族になんて言うんだよ」


イツキ

「その辺の不良にカツアゲされたことにでもしとけ」


タクミ

「今まさにカツアゲされてるが」


イツキ

「初犯だから良いだろ? 俺は2回目だから不味いんだよ」


タクミ

「……後で返せよ?」


イツキ

「分かった。さあ脱げ」


タクミ

「いたたたたたた!?」



 カツアゲが終わると、3人は倉庫を出た。


 リンはオウジロウを、ずるずると引きずった。


 そして、車へと向かった。



ノリコ

「先輩」



 車内のノリコが、3人に気付いた。



リン

「済んだ。この子を病院に送っていく」


ノリコ

「了解っス」


ノリコ

「……定員オーバーっスね?」



 引きずられているオウジロウを見て、ノリコはそう言った。



リン

「こいつはトランクにでも詰めときゃ良いだろ」


ノリコ

「ダメっスよ!?」


リン

「俺の車だぞ。早く鍵開けろ」


ノリコ

「……はぁ」



 ノリコは仕方なく、トランクの鍵を開けた。



オウジロウ

「……………………」



 リンはオウジロウを、トランクに詰めた。


 そして、助手席に乗った。



リン

「さ、行こうぜ」


ノリコ

「…………」




 ……。




 タクミは病院に、送り届けられた。


 診察室で、タクミは医者と向き合った。



医者

「これをどうぞ」



 40歳ほどの男の医者が、机の上に小瓶を置いた。


 小瓶は、オリハルコンで出来ているように見えた。



タクミ

「これは……?」


医者

「中央ダンジョン産の、回復薬です」


タクミ

「どうして? 高いんでしょ? これ」


医者

「警察からの、詫び料です」


タクミ

「詫び……?」


医者

「今回の件は、警察の不手際ですからね」


医者

「それで民間人に重傷者が出たというのは、向こうとしても、決まりが良くないわけです」


医者

「今日の事を不問にしていただけるのなら、料金は不要です」


医者

「自然治癒を待つのであれば、全治3ヶ月といったところですが……」


医者

「どうしますか?」


タクミ

「…………」



 タクミは悩んだ。


 汚い大人の取り引きだ。


 はねのけられた方が、格好は良いだろう。


 だが……。



タクミ

(4組に行くなら、こんな怪我で躓いてる場合じゃねえ)


タクミ

「分かりました」



 タクミは無事な右手で、薬瓶を手に取った。



タクミ

「ところでコレ、エリクサーとかじゃないですよね?」


医者

「まさか」


タクミ

「……ですよね」



 タクミはがっかりした様子を見せつつ、薬瓶の中身を飲み干した。


 ダンジョン産の薬の力で、ボロボロだったタクミの指が、治癒していった。



タクミ

(俺は……強くなる……!)




 ……。




 リンの車が、イツキのマンション前へたどり着いた。


 ノリコを運転席に残し、イツキとリンは車を降りた。



リン

「じゃあな」


イツキ

「はい。お世話になりました」



 イツキは軽く頭を下げ、マンションへと帰っていった。


 それを見届けると、リンは車に戻った。



ノリコ

「あの刀の鞘、オリハルコンっスよね?」



 車を発進させながら、ノリコが口を開いた。



リン

「刀身もな」


ノリコ

「凄いっスね。いったいいくらするんスかね?」


リン

「億は下らんだろうな」


ノリコ

「ひぇぇ……」


ノリコ

「どうしてそんな物を、高校生が持ってるんスか?」


リン

「さあな」


リン

(だが、鞘に有った、あの紋章は……)


ノリコ

「先輩?」


リン

「ペラペラと話すなよ。あいつの為にならん」


ノリコ

「……了解っス」




 リンの車が、イツキのマンションから遠ざかっていった。




 一方、マンションのエレベーターに、イツキの姿が有った。


 イツキは3階でエレベーターを降り、廊下を歩いた。


 自宅へ。



イツキ

「ただいま~」



 玄関の扉を開くと同時に、イツキは帰宅の挨拶をした。



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