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その16「倉庫と対峙」




イツキ

「逃がしたんですか? あいつを」



 町中で、拳銃をぶっ放すような男だ。


 アレが野放しになっているというのは、笑えない話だった。



リン

「面目無い」


リン

(別に、俺の責任じゃ無いが)


リン

「あの男は、未登録のディープシフターだった」


リン

「それで、マインドアームの力で、警官を殺傷して脱走した」


リン

「奴の足取りは、未だ掴めてはいない」


イツキ

「なるほど」



 ディープシフターとは、現実にマインドアームを呼べる、超能力者のことだ。


 ダンジョンレベルを60に更新することで、人はその力に目覚める。


 強力なスキルの力を、現実で行使出来るようになる。


 連中の強みは、単純なスキルの力だけでは無い。


 身体能力や知覚力なども、常人より強化されていた。


 ただの警官が敵わないのは、仕方のないことだと言えた。


 そんな存在なので、ディープシフターには、国への登録義務が有る。


 だが、法の目から逃れる者たちも、少なからず存在していた。



イツキ

「事情は分かりましたけど……」


イツキ

「俺に護衛は、つけなくて良いですよ」


リン

「どうして?」


イツキ

「自分でなんとかするんで」


イツキ

「人手が余ってるなら、他所へまわしてもらった方がありがたいですね」


リン

「なんとかって……相手はディープシフターだぞ?」


イツキ

「ディープシフターって言っても、ピンキリでしょう?」


イツキ

「あいつからは、ヤバい雰囲気は感じない」



 一流のシフターは、ひと目見て、相手の実力を見抜く。


 イツキにも、そのような力が、多少は備わっていた。


 イツキから見て、あの男は、二流だった。


 あんな跳び蹴り、食らう時点で論外だ。


 イツキが知る実力者たちなら、軽く回避してみせただろう。


 ヤツが今、眼前に現れても、平然と立ち向かえるはずだった。


 怖くは無い。



イツキ

「……あなたとは違って」


リン

「人を危険物扱いするな」


イツキ

「すいませんね」



 イツキは悪びれず、謝罪した。



イツキ

「とにかく」


イツキ

「周りに危害が及ぶより、直接狙ってきてくれた方が、ありがたいんで」



 敵の居場所が分からないなら、自分が囮になれば良い。


 それが1番安全だ。


 イツキはそう考えていた。



リン

(これが、高1のガキが考えることか……?)


リン

「マセガキが」


イツキ

「えっ?」


リン

「俺は刑事だぞ」


リン

「民間人を囮にする作戦なんか、許可出来るわけが無いだろうが」


イツキ

「けど、このまま放っておいたら、それこそ民間人に危害が及びますよ」


リン

「お前をフリーにしたとして、奴が食いつくって保証も無い」


イツキ

「それは……そうですけど……」


リン

「おとなしく護衛されろ」


リン

「お前を家まで送ったら、俺も、次の仕事が出来る」


イツキ

「……分かりました」



 そのとき、赤い乗用車が二人に近付いてきた。


 運転席側の窓が開いた。


 そこから金髪の女性が、顔を出した。



イツキ

「……?」


ノリコ

「せんぱーい」


リン

「あいつはネコタ=ノリコ。俺の後輩だ」


イツキ

「はぁ」


イツキ

(猫に縁が有るな。最近は)


イツキ

「……パトカーじゃ無いんですね」


リン

「ああ。乗ってみたかったか?」


イツキ

「少し」


リン

「無事に犯人が捕まったら、こんど乗せてやる」



 リンがそう言ったそのとき……。


 イツキの携帯が、震えた。



イツキ

「ちょっと、電話」


リン

「ああ」



 イツキはポケットから、携帯を取り出した。


 そして、携帯の画面を見た。


 そこには、ノガミ=タクミと表示されていた。



イツキ

(ノガミかよ)



 イツキは眉をひそめた。



イツキ

(まだ下校中だろ? 寂しがりやなのか? アイツ)



 イツキは通話ボタンを押した。


 そして、耳に携帯を当てた。



イツキ

「何だよ?」



 イツキは苛立たしげに、通話相手に話しかけた。



オウジロウ

「アマノ=イツキだな?」



 聞こえてきたのは、タクミの声では無かった。


 聞き慣れない、若い男の声だった。



イツキ

「……誰だお前?」


オウジロウ

「分からねえか?」


イツキ

(ノガミの友だち……って空気じゃ無いな)


イツキ

(こいつは多分……)


イツキ

「跳び蹴り一発でのびたアホ」


タクミ

「ぐああああああぁぁっ!」



 携帯から、タクミの叫びが聞こえてきた。



イツキ

「おい……! 何してやがる!」


オウジロウ

「お友だちの、小指を折った」


イツキ

(友だちじゃ無いんだが……!?)


オウジロウ

「次に舐めた口聞いたら、薬指を折る」


イツキ

「止めろ」


タクミ

「ぐうううぅぅっ!」



 再び、タクミの叫びが聞こえた。



オウジロウ

「止めて下さい、だろ?」


イツキ

「……止めて下さい」


オウジロウ

「良い子だ」


イツキ

「そちらの要求は?」


オウジロウ

「俺が欲しいのは、お前の首だ」


イツキ

「俺? ユニコは?」


オウジロウ

「ユニコ? 1本ヅノのガキか」


オウジロウ

「なあ、仕事とプライベート、どっちが大事か分かるか?」


イツキ

「さあ?」


オウジロウ

「馬鹿かお前」


オウジロウ

「プライベートに決まってんだろうがよぉ?」


イツキ

(プライベートってレベルか? これが)


オウジロウ

「ツノのガキは、後回しだ」


オウジロウ

「今から4時間以内に、1人でヒノデ埠頭まで来い」


イツキ

(ミナト区……!)


タクミ

「来るな! 殺されるぞ!」


オウジロウ

「黙れ」


タクミ

「が……ぐああっ!」


オウジロウ

「遅れたら、人質は殺す」


オウジロウ

「埠頭についたら、そっちから連絡しろ。良いな?」


イツキ

「……はい」



 イツキが素直に返事をすると、電話は切れた。



リン

「……どうした?」


イツキ

「ノガミ……。俺のクラスメイトが誘拐されました」


リン

(ノガミ? 学校で話した奴と、同じ名字だな)


リン

「友だちか?」


イツキ

「いえ。全然」


リン

「……? ただ、お前のクラスメイトってだけで、誘拐したのか?」


イツキ

「勘違いしたんでしょう。馴れ馴れしい奴だから」


リン

「なるほど?」


ノリコ

「自分たちと、話してたせいかもしれないっスよ」


リン

「アマノの話をしたからな……。あれを聞かれたか?」


イツキ

「そうなんですか?」


リン

「可能性の話だが……」


リン

「それで、どうするつもりだ?」


イツキ

「行くしか無いでしょう」


リン

「送ろう」


イツキ

「犯人は、一人で来いって言ってましたけど……」


リン

「犯人は人質を利用して、お前を殺す」


リン

「そして次に、用済みになった人質を殺す」


リン

「俺が裏で動けば、人質を奪還出来る可能性も有る」


イツキ

「けど、もしバレたら……」


リン

「安心しろ」


リン

「もしそうなったら、クラスメイトの仇は取ってやる」


イツキ

「……頼もしいですね」


リン

「ノリ。行くぞ」


ノリコ

「ラジャーっス! どこに向かえば良いっスか?」


イツキ

「ヒノデ埠頭です」


リン

「……ミナト区か」


イツキ

「はい」


リン

「お前なぁ……」



 リンは呆れてみせた。


 1969年以降、ミナト区は魔都だ。


 普通の人間が、立ち入って良い地域では無い。



リン

「命知らずもほどほどにしろよ」


イツキ

「はあ。すいません」




 ……。




 ノリコの運転で、3人はミナト区へ向かった。


 そして、ミナト区ではよくあるレベルの危険を乗り越え、埠頭付近までたどり着いた。


 ノリコは、埠頭近くの道路に、車を停めた。


 既に周囲は暗かった。


 天蓋の薄明かりと、自動車のライトだけが、辺りを照らしていた。



リン

「犯人に連絡しろ」


イツキ

「はい」



 イツキは携帯を手に取った。


 そして、タクミの番号に電話をかけた。


 電話はすぐに繋がった。



オウジロウ

「やっと来たか」



 携帯から、誘拐犯の声が聞こえてきた。



イツキ

「はい。これからどうすれば?」


オウジロウ

「倉庫まで来い。場所は……」



 誘拐犯は、イツキに具体的な場所を説明した。



イツキ

「分かりました」


オウジロウ

「すぐに来いよ」



 誘拐犯はそう言って、電話を切った。




 ……。




 イツキはリンたちに、指定の倉庫の場所を伝えた。



リン

「俺は、倉庫の裏手から侵入しよう」


リン

「そして、隙を見て、人質を取り返す」


イツキ

「相手はディープシフターですよ?」


イツキ

「あんまり近付くと、気配を察知されるんじゃ……」


リン

「その辺はなんとかする」


イツキ

「……分かりました」


ノリコ

「自分は?」


リン

「車で留守番」


ノリコ

「むー」


リン

「行くか」


イツキ

「はい」



 イツキは車から降りた。


 そして、倉庫前へと歩いていった。



イツキ

「…………」



 倉庫前で、少し立ち止まり、イツキは中へと入った。


 倉庫内には、グレーのコンテナが並べられていた。


 イツキのセカンドシャドウが、コンテナの1つへと向けられた。


 コンテナの向こう側に、人の気配を感じていた。



イツキ

「約束通り来ました。クラスメイトを返して下さい」


オウジロウ

「……よう」



 コンテナの影から、男が現れた。


 警官の制服姿ではない。


 最初に出会ったときの、服装をしていた。



タクミ

「う……」



 男は左手で、タクミの襟を引きずっていた。


 タクミの左手の指が、3本、おかしな方向へ曲がっていた。


 男にへし折られたらしかった。



イツキ

(ノガミ……)


オウジロウ

「サカガミ=オウジロウだ。よろしくな。アマノ=イツキ」


イツキ

「……どうも」


タクミ

「アマノ……」


イツキ

「…………」


イツキ

(人質とベッタリだな。オオカワさんが来ても、あれじゃあどうしようも無い)


イツキ

「ノガミを返していただけますか?」


オウジロウ

「ん……。ちょっとそこ動くなよ」


イツキ

「…………」



 オウジロウは、ポケットに右手を入れた。



イツキ

「!」



 ポケットから、銃が現れた。


 オウジロウは、即座に引き金を引いた。


 銃口は、イツキへと向けられていた。


 破裂音が鳴った。



イツキ

「ぐっ……!」



 イツキの制服に、穴が開いた。


 イツキは激痛を受け、顔をしかめた。


 だが、弾が当たったはずの場所に、傷口は見当たらなかった。


 現実世界ですら、イツキの肉体は、並外れた強固さを見せていた。



イツキ

(普通、いきなり撃つかよ……?)


オウジロウ

「やっぱりか……」



 オウジロウは、制服の穴を見て言った。



オウジロウ

「ディープシフターだったんだな。お前」


イツキ

(違うけどな)



 ディープシフターとは、自身の迷宮を、深く潜った者のことだ。


 そしてイツキは、心層にダンジョンを持たない。


 オウジロウの言葉は、イツキにとって、見当外れだった。



オウジロウ

「スキルは……バリアってところか」


イツキ

(それも違う)



 攻撃を受けるたび、イツキは激痛に苦しめられる。


 バリアなどという便利な力が有れば、そうはならないはずだった。



オウジロウ

「マインドスキルを切れ」


イツキ

「出来ません」


オウジロウ

「あ?」



 舐められた。


 そう感じたオウジロウは、タクミの人差し指に手をかけた。



タクミ

「うあああああぁぁぁっ!」



 タクミの人差し指が、折れた。


 左手で無事なのは、親指だけになった。



イツキ

「自分の意思じゃ、どうにもならないんだ!」



 イツキは慌てて弁解した。



オウジロウ

「パッシブスキルってやつか」


イツキ

「はい」


オウジロウ

「それじゃ、仕方ねえなあ」


タクミ

「ぐうううううっ!」



 タクミの親指が、へし折られた。


 タクミの左手に、無事な指は無くなっていた。



イツキ

「な……!?」


オウジロウ

「慌てんなよ。指はまだ、5本残ってる」


オウジロウ

「足の指も合わせたら15本だ」


オウジロウ

「だからさ、慌てんなよ」





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